ファーストリテイリングは11月7日、「Life=Wear 新しい産業」のビジョンを掲げたメディア説明会を開催した。「持続可能性」と「事業の成長」を両立させる新たなビジネスモデルに向けて転換をはかる同社。説明会では担当者が、環境対策、商品開発、社会貢献といった領域における取り組みの進捗状況について報告した。

  • ファーストリテイリングが「Life=Wear 新しい産業」説明会を開催

LifeWearを新しい産業に

冒頭、登壇したファーストリテイリング 取締役の柳井康治氏は「LifeWearを新しい産業にするための4つの約束です」として、以下の内容を宣言した。それは、1. LifeWearの商品完成度をさらに上げるためにサプライチェーンのすべてを見直す、2. LifeWearは世界中のあらゆる人の個と多様性を尊重し続ける、3. 20年以上にわたり信じてきた「LifeWearが持つ社会を良くするチカラ」をこれからより一層活用し、世界規模で社会の安定と持続的発展に寄与していく、4. LifeWearの価値をさらに上げるために、より長く使ってもらえる新サービス・技術を開発して提供する、とまとめられている。

  • ファーストリテイリング 取締役 グループ上席執行役員の柳井康治氏

同社では、店舗や主要オフィスなどの自社運営施設におけるエネルギー使用に由来する「温室効果ガス排出量」を2030年度までに2019年度比で90%削減するという目標を立てている。これについては2022年度の段階で45.7%削減を達成したとのこと。またファーストリテイリンググループの全世界の店舗と主要オフィスで使用する電力を2030年度までに再生可能エネルギー100%に切り替えるという目標に向けては、2022年度末時点で42.4%まで達成できたとしている。

ユニクロではLifeWearを活かし続ける取り組みにも注力している。たとえば、全商品をリサイクル、リユースする「RE.UNIQLO」を推進中。この一環として、新たに「UNIQLO古着プロジェクト」を始動した。まずはトライアルとして、ユニクロ原宿店において2023年10月11日から22日までの期間限定で、古着を販売するポップアップストアを開催。染めてリメイクした古着や、洗浄済みのリユース古着を販売して好評を得た。

  • 実際に古着として販売したアイテムのひとつ、洗浄済みのフリース(1,000円)を掲げるサステナビリティ部 部長の黛桂子氏

  • 服のリペアやリメイクを提供する「RE.UNIQLO STUDIO」も拡大

また2022年9月にロンドンのユニクロ店舗で開始した、服のリペアやリメイクを提供する「RE.UNIQLO STUDIO」をグローバルに拡大。2023年10月末までに16の国と地域(35店舗)で展開している。このほか「服から服へのリサイクル」の取り組みとして、新たに店頭で回収したユニクロの商品からコットン、カシミヤ、ウールを使った商品の開発も進めている。

2023年の企画商品全体の8.5%については、温室効果ガス排出量の少ないリサイクル素材などを使用している。またポリエステルについては全使用量の30%にリサイクルポリエステルを採用するなど、商品企画や素材開発に取り組んできた。

ヒートテックとエアリズムの一部インナーにおいては、2023年から初めてリサイクルポリエステルやリサイクルナイロンの素材を採用。またアウターのパフテックパーカの一部にリサイクルポリエステルを、UTのグラフィックTシャツの一部にはリサイクルコットンを使用している。

  • 服から服へのリサイクル

生物多様性への取り組みについては「ファーストリテイリンググループ 生物多様性保全方針」を策定して同社WEBサイトに公開。今後、バリューチェーン全体で取り組みを加速していく。そしてカシミヤ、ウール、コットンについては土地利用の影響が大きいとして、環境の負荷低減に向けて転換していきたい考えを示す。たとえばカシミヤについては琉球大学の研究チームと連携し、同社がカシミヤを調達している全牧場の植物の状況を衛星データを使って解析。あわせてサステナビリティ部担当者が牧場へ足を運び、現地調査を実施。これらの調査結果に基づき、今後、改善のためのアクションを実行するとしている。

生産部門においては、持続可能性を担保しながら安定的・機動的に生産できるサプライチェーンの構築に取り組んでいく方針。生産の全工程で品質、調達、生産体制、環境・人権対応の自社基準を適用、自社でサプライチェーン全体を管理していくことを目指す。

  • 社会貢献活動のまとめ

2023年度は社会貢献活動に54億円を拠出し、113万着の衣料支援を実施した(店頭回収衣料の難民キャンプなどへの寄贈分を除く)。また2022年9月にUNHCRと共同でバングラデシュのロヒンギャ難民女性自立支援プロジェクトを立ち上げ、2023年8月までに約350名の女性に対する縫製スキルのトレーニングを完了。布ナプキン約200万枚と女性用ショーツ約43万枚を生産し、支援物資として難民キャンプ内で配布などを行っている。なお2025年までに1,000人に対するトレーニングの終了と、難民キャンプ内での生理用品のニーズの充足を目指しているという。

このほか、グループの経営幹部となる女性や外国人を積極的に採用していくダイバーシティ推進に注力。持続可能な成長を牽引する次世代人材の育成にも力を入れていく。

重要となる領域は?

今回の説明会は、海外にもオンラインで配信された。質疑応答において、タイのメディアからは「持続可能性と事業の成長の両立を目指すなかで、重要となる領域は?」といった質問があがる。これに対し、柳井康治氏は「様々な取り組みがあり、どれが優先順位が高いということは言いづらいのですが、1つ重要なことは、サステナビリティ達成のために本業を疎かにすべきではないこと。我々が成長していき、実業が充実していくことで地球環境、人権の尊重などに対してより貢献できるようになる、そんなビジネスモデルを目指しています」と回答。そのうえで個人的には、会社固有の問題となってくるダイバーシティ推進、次世代人材の育成といったところに力を入れていければ、と説明した。