デジタルイノベーションの総合展示会「CEATEC 2023」(主催 : 一般社団法人電子情報技術産業協会)が、10月17~20日にかけて幕張メッセで開催された。経済発展と社会課題の解決を両立する「Society 5.0」の実現をめざし、あらゆる産業・業種の人と技術・情報が集い、「共創」によって未来を描くことを趣旨としている。今回、昨年の562社・団体を上回る684社・団体が出展した。
一見すると、鉄道とはあまり関係ないかもしれないイベントだが、今回はJR西日本とJR東日本、JR東海グループのジェイアール東海コンサルタンツが出展していた。鉄道を支える、または鉄道を面白くするデジタルテクノロジーについて、JR西日本を中心に各社の展示を見ていく。
■鉄道指令や監視カメラにAIを導入した未来の構想は
まずはJR西日本のブースを紹介する。同社は昨年も出展していたが、今回は展示エリア・内容を大幅に拡充した。「Toward the Future」をコンセプトに、AI・データ分析ソリューションや、今後提供する予定の「新たな決済手段」などについて、過去・現在を解説するパネルと、未来の展望をイメージする動画で展示した。展示内容に関して、サービス面・保守面と、利用者が触れやすいコンテンツの3つに大きく分けられていると見受けられた。
最初に、サービス業務を変える可能性のある、鉄道指令業務アシストAIについて紹介。列車の運行制御や指令を行うにあたり、過去には駅ごとにすべての信号を手動で操作し、運転計画も電話やFAXで伝達していたという。現在、列車制御そのものは一元化しているものの、トラブル発生時は人の手で作業を行っている。
そこにアシストAIが加わるとどうなるか。トラブル発生時、指令員の運転見合わせ指示やトラブル対応と並行して、現場の状況や列車の位置情報をもとにAIが運転計画案を自動作成。指令員らの判断により、その運転計画が管理システムに自動で反映され、スムーズな問題解決に寄与する。例として、発着番線の変更、待避駅の変更、運転打切りや折返し駅の変更などもAIが計画・提案できるという。
ダイヤ回復までのプランを複数作成することも可能。例として、「列車の運休は多いがダイヤ回復を迅速に行えるプラン」または「ダイヤ回復まで時間を要する代わりに運休の少ないプラン」というように、AIにプランを複数作成させることも構想しているという。
各駅に導入している監視カメラについても、AIによるソリューションを構想している。カメラにAIを導入すると、映った物体を抽出し、人間ならば骨格を検出。それらを組み合わせることで、指定エリアへの侵入、指定した条件の人間、忘れ物等の検出や、人数のカウントなどができるという。一部の駅でAIによる検知システムを導入しており、仮に不審な行動をカメラが検出した場合、係員にそれを知らせることで、迅速な対応につながる。
その他、自動改札機の入出場記録を通じて、利用者数や動き方、改札外における滞在状況の時間推移も高精度に解析・可視化する「State - Journey」に関する動画の展示もあった。さらに、入出場のデータと列車のダイヤを通じた混雑率予測の解説も。古い車両を中心に、まだ全列車にデータ送信機器を搭載できてはいないが、これらを通して、きめ細かなサービスや、駅の快適性を向上させる施策が発展することに期待が高まる。
■改札機等の故障予測AIや、スマホを使った保守作業の効率化
鉄道の安全運行を支える保守の面においても、AIを活用した取組みを実施している。駅の券売機・自動改札機・精算機では現在、機械故障予測AIが導入されているという。その名の通り、自動改札機などの稼働データをAIが読み取り、各個体の1週間以内の故障確率を予測して、それをもとに点検を行っている。
会場では、機械故障予測AIのデモ画面も展示された。あくまで展示用のモックアップだが、券売機ひとつ取っても、「紙幣ブロック」「硬貨ブロック」と細かく分けられており、故障確率を高い順に表示している。過去にはJR西日本管内にある約2,000台の自動改札機に対し、1台あたり年7回の定期点検を行い、平均で年2回の故障を確認していたというが、これにより点検回数は3割減、故障発生数は2割減となり、作業の効率化とサービス向上を実現した。
JR西日本では、将来的に、稼働データを取得できる機械であれば他の業種にもこの技術が活用できると考え、工場を中心に他社との実証実験を行っているという。人工衛星への活用も見込み、JAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)と連携して2022年10月から宇宙機のヘルスマネジメント事業に関する共創活動も行っているとのこと。人工衛星の縮尺モデルも会場に展示された。
保線作業や軌道検測に関して、スマートフォンの基本機能を使って測定・記録を行う動揺判定システムの開発に努めており、日常的な検査への導入に向けて検証を行っている。現場の記録にもスマートフォンを活用し、鉄道専門用語に特化した音声認識アプリ「しゃべれぽ」をPandrbox社と共同で開発を進めているという。これが実現すれば、測定結果を音声で記録し、基幹システムとも連携できるようになるため、事務作業の負担が軽減され、保線作業の効率化につながる。
■一般利用者への「旅行コンシェルジュ」「新しい決済手段」
一般利用者の手に触れやすい新サービスに関しても展示があった。1つ目は「リアルタイム提案型旅行コンシェルジュ」。現在、JR西日本の公式プラットフォーム「WESTER」、インターネット予約「e5489」を通して、スマホひとつで各種予約やポイント利用が簡単に行えるようになっている。しかし、複数のサービスを併用して予約した情報をまとめることや、予定変更が生じた場合の対応に時間を要する人も多いと思われる。
「リアルタイム提案型旅行コンシェルジュ」は、目的地・日付・宿泊数という最低限の情報を入力するだけで、移動手段や食事・宿泊先などを一括で手配できる。急な予定変更が生じた場合も、変更する内容に応じてこのアプリがきめ細かに提案するという。現在開発中とのことで、展示のディスプレイにはアプリのイメージが表示されていた。
2つ目は「新しい決済手段」について。昨今のキャッシュレス化にともない、決済が便利かつ手軽になる一方、複数の決済アプリが混在することで、その管理が複雑化する傾向もある。そこでJR西日本は、スマートフォンひとつで行えるコード決済型の新たなキャッシュレスサービスを開発しているという。他店も導入しやすいように開発中とのことで、決済可能な場所は増える見込みだが、シンプルにスマホひとつで完結できる。
会場で流れた動画の中では、買い物の会計時や自動改札を通る際、スマートフォンをタッチする場面が放映されていた。動画の中で、スマートフォンの画面に、おそらく仮称と思われるが「JRWウォレットで支払う」という画面が見られ、端末をかざして決済する様子も見られた。新しい決済アプリは2024年度中のサービス開始を予定している。サービスの正式名称は未定だが、「WESTER」ブランドの一環として提供予定とのことだった。
なお、今回展示された内容の一部に関して、実現が可能か不可能かも含めて今後取り組んでいくと考えているという話もあった。将来的にそのすべてが本当に実用化されるかどうか、現時点では未定であることをご承知おきいただきたい。
■JR東日本のデジタルツインプラットフォーム「JEMAPS」も展示
「CEATEC 2023」では、JR西日本の他にJR東日本も出展。10月10日に公表した、鉄道運行に関わるデジタルツインプラットフォーム「JEMAPS」(JR East Mashup Probe System)を会場で展示した。
「JEMAPS」は、鉄道運行情報や気象・防災情報など、膨大な社内外データをシステム、データ基板から自動収集し、ひとつの地図上に表示するプラットフォームで、2022年6月から使用開始しているという。収集したデータはデータベースに保管されるため、履歴の検索もできる。導入以前、各データは社内システムや社外のサイト等で別々に取得していたため、データの集約に労力がかかっていたが、「JEMAPS」では自動収集したデータを地図上に見やすくまとめることができる。
筆者がJR東日本のブースを訪ねた際、ディスプレイに「走る列車グラフ」が表示されていた。各路線で運行中の車両の位置や、混雑率をグラフで表示。実際の列車の動きに応じてリアルタイムでグラフも動いていた。同一路線内でも列車によって異なる乗車率に合わせ、列車のグラフの高さにも違いがあった。
このような鉄道運行情報と合わせ、自然災害時は警報・注意報および危険度分布の確認、輸送障害時は当該列車の混雑状況を把握したり、利用者の救済措置を講じたりする際の参考情報として活用でき、社内利用が進んでいるという。一般公開は基本的に行っていないが、7月29日から8月25日まで鉄道博物館でも展示していた。他にも今回のような展示会で一般公開する可能性があるとのことだった。
JR東日本ブースでは、他にもバーチャル空間上に秋葉原駅と周辺の街並みを再現した「Virtual Akiba World」、昨年10月の「超駅博 上野」などで実施経験のある「鉄道車両VR」などについて紹介していた。
JR東海グループのジェイアール東海コンサルタンツも出展し、名古屋駅のデジタルツインについて紹介していた。JR東海コンサルタンツのYouTubeチャンネルでこのデジタルツインを閲覧でき、膨大な量のレーザースキャンやフォトグラメトリ撮影によってVR空間上に名古屋駅をリアルに再現していた。
鉄道会社に関わるデジタルテクノロジーは、一般利用者の目には触れにくいかもしれないが、安全運行を支える裏方で確実に役立ち、社員らを支えていることが出展を通してうかがえた。今後、AIや最新技術を駆使していまより高精度なサービスが展開されていくかもしれない。「Virtual Akiba World」をはじめとするバーチャルコンテンツ上の鉄道駅も、一度はのぞいてみると面白いだろう。