若者人口が減少し、企業の新卒採用意欲が高まっている今、売り手市場だから楽に就職できるのではというイメージが広がっているかもしれません。

さて、実際はどうなのでしょう。

マイナビが「2024年卒採用の振り返りと2025年卒の展望」をテーマに調査結果を発表し、24年卒の就職活動の特徴と今後の新卒採用についてどのようなことが予想されるかについて分析しているので紹介します。

  • 新卒採用は今後どうなる?

エントリー数は減少、インターン数は増加しているのはなぜ?

マイナビ キャリアリサーチラボ 主任研究員の東郷こずえ氏は「以前は新卒採用をしなくても、中途採用で補充できました。でも、今後は若者の人数が全体的に減少するので、中途採用での補充が難しくなる可能性が高いです。そのため企業の新卒採用に対するニーズは向上していて、今後もその傾向は続くと予想されています」と、新卒採用が増えている背景を解説します。

そのような事情を反映して、24年卒学生への内定出しのタイミングは例年を上回って早くなっています。

「採用選考の時期を前倒しして、3月には面接を開始し、4月には内定を出している企業が多いというのが現状です」(東郷氏)

  • 採用時期の比較資料と内定出しの推移 提供:マイナビ

過去3年間の3~5月の内々定率は毎年5%ほど上回っていることが分かります。ただし、これだけ早く内定を出しているにもかかわらず、採用まで至っていない企業が増えているのも事実です。

  • 採用充足率(6月時点) 提供:マイナビ

なぜ、採用充足率が下がってしまうのか。

一番大きな原因として、広報活動開始後の学生の活動量の低下が考えられると東郷氏は指摘します。エントリーや個別企業セミナーなど学生の活動量を直近3年で比較すると明らかに減少しています。

一方でインターンシップや仕事体験へのエントリー数は増加しています。その理由として東郷氏が挙げているのは、企業選びの時期が2月までのインターンシップ、仕事内容の体験期間に移っているということです。

今後もこの傾向が続くと予想されていますので、25年卒以降の学生も早めに就職活動を開始することで、より自分の希望に沿った企業と出会いやすいと言えるでしょう。

  • 広報活動開始後の学生の活動量が減少 提供:マイナビ

「配属ガチャ」が不安? 学生が就職先に求めるものは?

東郷氏によると、6月末時点で複数の企業から内定を得ている学生は6割いるそうです。

企業は、入社予定の1社に選ばれるために学生のニーズを知ってコミュニケーションを重ねる必要があります。

では、学生が働くことに対して大切にしている価値観は?

マイナビの調査によると、就職活動をしている学生の半数以上が「勤務地・職種ともに自分で適性を判断して、選びたい」と希望しています。

  • 入社後の配属先(勤務地・職種)に対する学生の考え 提供:マイナビ

新卒採用は配属先を限定しないで実施することが一般的な採用形態でしたが、学生のいわゆる「配属ガチャ」への不安に対応するため、一部対応も含めると現在では6割以上の企業が「職種別コース」を設定していると、東郷氏は説明します。

さらに、「福利厚生への関心」も高まっていると言います。

  • 福利厚生に対する就活生の考え 提供:マイナビ

学生が「配属先」や「福利厚生」に関心を持つ理由を東郷氏は、次のように分析。

「まずは、安定志向の高まりです。あらかじめ配属先が想定できると準備がしやすく、安心して働けそうな職場を選択できます。最近は、男子学生も共働き希望者が増えていますが、夫婦それぞれに転勤がある場合は共働きが難しくなるため、今後のライフイベントを考えるうえでも勤務地が選べることが重視されています」(東郷氏)

  • 共働き希望の推移 提供:マイナビ

さらに、終身雇用が当たり前ではなくなった環境下で働き続けるためには、働き手としての能力・スキルを身に付けたいと考える学生も増えていると言います。

過度な残業や長時間労働はないものの、成長実感が得られない、将来性を感じられないという、いわゆる「ゆるブラック」な企業・職場はブラックと同様に離職意向が高くなっているのです。

  • 離職志向が高まる職場環境 提供:マイナビ

「売り手市場」でも就活の大変さは複雑化!

24年卒学生の就職活動の傾向やニーズを分析し、25年卒以降の学生に東郷氏は次のように提唱しています。

「現状では大学3年生になってから志望先を決めるのが主流です。ただ、職務経験がなく、人生経験が浅い学生が、短期間で仕事や働き方、勤務地などを同時に決めて、納得するというのは、かなり困難であると言えるでしょう。本格的な就職活動を始める前に、自分なりの成功とは何かを広い視野で検討し、深く掘り下げて考えてみる時間が必要です」(東郷氏)

企業の新卒採用ニーズは、今後も高まっていくと予想されているものの、企業側の学生を見る目線も変化。「売り手市場」とはいえ、十分な準備をしないまま就職活動にのぞんでも採用にはつながりにくくなっていると指摘するのです。

学生・企業の双方が納得できる、より精度の高いマッチングが求められている時代、就職活動の大変さもより複雑になっているようですね。