コロナ直撃世代の就職活動が佳境
新型コロナの感染症法上の位置付けが5類に変更され、日本でもアフターコロナが定着しています。マスク姿も減り、オフィスに人が戻りつつあります。街角にはインバウンド観光客の姿も目立つようになりました。
時を同じくして、「24年卒」の新卒採用が佳境に入っています。大手企業も採用情報を公開し、具体的な選考が進んでいるころだと思います。
24年卒の学生は、ちょうどコロナ禍が直撃した世代です。日本各地で行動制限が行われる中、各大学ではオンライン授業の取り組みを進めました。
彼らはそんな環境変化にうまく適応してきた世代である一方、いわゆる普通の学生生活を送れなかった世代でもあり、リアルな体験を希求する傾向もあると思います。
「ガチの仕事体験」を求める学生たち
東北大学文学部4年の比留間さんもその一人です。入学以降、オンライン中心の学生生活が続き、「このままでは成長できない」と危機感を持ったそうです。
そんな時、つながりがあった地元の社会人から、「まちづくりの会社が長期インターンシップを募集している」と聞き、比留間さんは参加を決意。
その時点では「長期インターン」がどんなものか知らなかったそうですが、以前からまちづくりやインフラの仕事に興味があり、面白そうだと思ったのと、大学生の間しか経験できないことをやってみたいという思いから、インターンを始めたそうです。
インターンとして実務経験を積み重ねるなか、マーケティング分野にも関心が芽生えた比留間さん。特にWEBマーケティングについてしっかり学んでみたいと思い、別のベンチャー企業での長期インターンシップも始めました。
BtoBのWEBマーケティング事業を展開するその企業で、比留間さんはプレスリリースやサービス導入事例の作成、リスティング広告の運用や、自社WEBサイトの改修などを担当。毎月決まった額の予算も与えられ、社員とほぼ同じ業務をこなしていたそうです。
「ここまでやらせてもらっていいのかな、と思うくらい任せていただいている」(比留間さん)
変わりゆく日本企業の新卒採用
日本企業の競争力低下が叫ばれ、その一因として「終身雇用」「年功序列」といった日本型雇用の問題があげられています。
新卒採用にも変化が起きています。以前は過度な早期化・青田買いを避ける目的で、経団連が「指針」を定めていましたが、2018年より「指針」は廃止。それ以降、就活スケジュールは政府主導となり、各企業では採用プロセスの前倒し傾向も見られるのです。
その中で活用が広がっているのが、「短期&長期インターンシップ」。インターンシップには、大きく分けると、大学1、2年時からでも参加ができる「長期有給インターンシップ」と、主に大学3年の夏や秋冬に実施される「短期インターンシップ」の2種類があります。
長期有給インターンシップは、大学1、2年時から、場合によっては卒業時まで、文字通り長期にわたり実務をにない、給料も出るので、学生・企業ともに社員として働く感覚に近いとも言えます。
一方、「短期インターンシップ」は通常5日以上~1ケ月程度で就業体験ができるものが主で、様々な企業が積極的に実施しています。また他にも「オープン・カンパニー」と呼ばれる単日といった超短期の就業体験プログラムも、多くの企業が実施しています。
インターンの情報がSNSで拡散している
今、特に意識の高い学生の間で、長期有給インターンシップに積極的に参加する動きが広がっています。先述の比留間さんは、「将来の就活活動を考えた時に、実務を経験しているのは強みになると思った」と語ります。
「東京の学生に比べて地方では積極的にインターンシップに参加する学生はまだ少ない印象。『自分の成長』に加えて、いわゆる『ガクチカ(学生時代に力を入れたこと、就活においてアピール材料となるもの)』作りにもなると思った」(比留間さん)
採用難易度の高い大企業が実施している「短期インターンシップ」は人気があり、インターンシップへの参加自体が高倍率となっています。
そのため、「短期インターンシップ」の選考を突破するために、大学1、2年のうちから「長期インターンシップ」に参加し、実績をアピールするという動きもみられます。
SNSの普及により情報がすぐ拡散することも、こうした動きの背景にあり、SNSを活用して早期から積極的に動く学生と、比較的マイペースな学生に二極化する傾向も見られます。
学生の約6割がインターンシップ参加を検討
インターンシップ重視の流れはデータにも現れています。マクロミル社が2023年2月2~6日に行った調査によると、25年卒学生の約6割が23年夏のインターンシップ(短期インターンシップ)への参加を検討しているそうです。
ベネッセi-キャリアが『dodaキャンパス』会員向けに2022年9月18~30日で行った調査によると、24年卒学生がインターンシップ参加の決めてとして「インターンシッププログラムに魅力を感じたから」の割合が20年卒の14%から、24年卒の20%へと急増しています。
学生側が、「どのような仕事体験ができるか」を精査している実態がうかがわれるのです。
長期有給インターン先に就職するわけではない
インターン先として特に人気が高い分野として、WEB系の職種があげられます。近年急速に進む社会全体のDX化を反映した動きだと思われます。
また、WEB系の会社にはベンチャー企業が多く、業界全体も急成長期のため人手不足に悩んでおり、インターン学生に「即戦力」を求める傾向があります。学生側としても「自身の成長」「実績づくり」として、「即戦力」として迎えてくれる企業を好む傾向が見られます。
そのほか、特に「実績づくり」の面から、成果が数字として可視化されやすい営業系の職種も人気があります。
ただ、長期有給インターンシップはあくまで「ガチの仕事体験」「実績づくり」であって、学生本人は必ずしも「就職先との接点」だと考えておらず、就職先の「本命」は、大学3年時の短期インターンシップ企業である場合が多いのです。
長期有給インターンシップを提供する企業は、新卒採用に直結しない場合があるものの、労働力を確保できるメリット。学生も、「ガクチカ」作りとして、また自分の成長のために、実務に近いガチ体験を求めており、両者のニーズがかみ合っているのです。
「就活対策」として見るのは注意が必要
とはいえ、インターンシップを「就活対策」として捉えることには注意が必要です。
そもそも、新卒採用の早期化・長期化にはかねてより批判の目が向けられています。各大学にはそれぞれのカリキュラムがあり、学生はそれをこなすことが最優先で、過度に早期から就職活動を始めるのは本末転倒だからです。
また、「日本型雇用」がまだまだ残る中、新しい動きを慎重に見定める必要もあるでしょう。
欧米ではインターンシップ経験が採用の決め手になることも多いのですが、日本の場合、まだまだジョブ型ではなくメンバーシップ型雇用が中心であり、良くも悪くも新卒採用ではポテンシャル観点や、自社の企業文化・価値観との合致度の観点も大事な要素です。
一見、インターンシップを経験した学生は経歴上良く見えてしまいがちですが、なぜそのインターンを選んだのか、具体的にどのような活動をし、学んだことを将来どのように活かしたいのか、企業側も注意して精査しないと、ミスマッチにつながる危険性もあります。
コロナ直撃世代の「悩み」に目を向ける
現在の就活市場は完全な売り手市場です。ほとんどの学生は就職できる中、それでも早い段階からインターンシップへの参加を模索するのは、やはり「自分の成長」を真剣に考えていることのあらわれだと思います。
特に24年卒はコロナが直撃し、世界の激動を体験した世代。大学に入ってもオンライン授業ばかりで、学校で友達を作る機会もなく、文化祭なども自粛で、学生ならではの体験ができなかった。
「このままでは自分の成長が止まってしまう」という危機感を強く抱いています。
25年卒のインターンも既に始まっていますが、彼らも24卒と同じようにコロナ禍の影響を受けている世代です。一方で、24卒の先輩達の就職活動を見ながら、限られた期間・条件の中で、自分の志望先や志望理由を考える難しさを知り、早めにキャリアを考え、行動することの大事さを理解している世代でもあります。
そうした中で、彼らなりに悩み、葛藤して出した答えの1つが、「インターンシップへの参加」だったのだと思われます。それを安易に「就活のための実績づくりのために、打算的に行動している」と見るのは間違っています。
これから彼らを受けいれる社会、企業の側が、「今の学生は打算的だ」「学生の本分は勉強」と決めつけるのではなく、また「インターンシップ実績だけで近視眼的に採用」するのでもなく、きちんとした理解のもとに接していくことが、ミスマッチを防ぐために最も重要ではないでしょうか。
著者プロフィール:桜井貴史(さくらい・たかふみ)
パーソルキャリア株式会社 エグゼクティブマネジャー、doda副編集長
大学卒業後、大手人材紹介会社に入社。新卒領域のプロダクト責任者のほか、海外勤務も経験。2016年パーソルキャリアに入社。グループ会社の株式会社ベネッセi-キャリアにて「dodaキャンパス」の立ち上げにかかわる。2023年にパーソルキャリアへ戻り、doda副編集長を務める。