昨年12月にバンタム級「4団体世界王座統一」を果たした井上尚弥(大橋)は、今年1月にWBA、WBC、IBF、WBOの4本のベルトを返上し階級をアップ。7月のスーパーバンタム級緒戦で、いきなり王座に挑戦しスティーブン・フルトンを8ラウンドTKOで下した彼は4階級制覇を果たした。この後、12月に予定されている次戦で2階級における「4団体世界王座統一」に挑むことになる。
ところで、井上が返上した4本のベルトはどうなったのか? すでに4団体すべてで王座決定戦が行われ新チャンピオンが誕生している。「モンスター」と称された絶対王者が去り群雄割拠となったバンタム級戦線の今後はどうなる─。
■尚弥の弟、拓真が新王者に
プロボクシングの世界は、いささか歪だ。
世界チャンピオンになったとしても、それがイコール「世界最強」とはならない。なぜならば世界王者を認定している主要な団体が4つあるからである。
よって「世界最強」を証明するためには、その階級において4団体すべての王者にならなくてはならない。それを井上はバンタム級でやってのけた。これは日本人、いやアジア人初の快挙だった。
だが、井上は階級アップに伴い統一王座を返上。よって統一された王座が再びバラバラに。新たに4人のバンタム級ファイターが腰にベルトを巻いている。
先陣を切って王座決定戦を行ったのはWBA。
4月8日、東京・有明アリーナ、那須川天心(帝拳)のプロボクシングデビュー戦で注目を集めた『Prime Video Presents Live Boxing 4』で、井上拓真(大橋)とリボリオ・ソリス(ベネズエラ)の間で王座が争われている。派手さのない試合ではあったが井上が判定完勝、兄から弟へベルトは受け継がれた。
次いで王座が定まったのはWBO。
5月13日、米国カリフォルニア州ストックトン・アリーナでジェイソン・モロニー(オーストラリア)がビンセント・アストロラビオ(フィリピン)に2-0の判定勝利を収めベルトを手にした。
モロニーは2020年10月に井上尚弥と闘い生涯初のKO負けを喫したが、再起後に4連勝で遂に念願の世界王者となった。
WBC王座には、7月29日、米国ラスベガスのTモバイルアリーナでノニト・ドネア(フィリピン)から判定勝利を収めたアレハンドロ・サンティアゴ(メキシコ)が就いている。28勝(14KO)3敗5分けの戦績を誇る27歳の気鋭だ。5階級を制覇した40歳ドネアの王座返り咲きはならなかった。
最後の王座決定戦はIBF。
8月12日、米国メリーランド州MGMナショナルハーバーでエマニュエル・ロドリゲス(プエルトリコ)とメルビン・ロペス(ニカラグア)が対峙。ロドリゲスが3-0の判定勝利、再びIBFのベルトを腰に巻いた。2019年5月、英国グラスゴーで井上尚弥に2ラウンドKO負け、プロ20戦目に初黒星をつけられた彼だが、その後も粘り強い闘いを続け健在ぶりを誇示している。
各団体の世界チャンピオンが決まったわけだが、井上尚弥のような絶対王者は見当たらない。また4団体の王座決定戦は、すべて判定決着で闘い模様が地味になった観も否めず。それでも各王者の実力が拮抗しており、今後の世界バンタム級戦線では熾烈な闘いが繰り広げられそうだ。
■日本勢が絡んでのサバイバルバトル
「4団体世界王座統一が目標」
WBA世界バンタム級新王者になった井上拓真は、そう話している。
(兄に続きたい)
彼にその思いは強く期待はしたいが、道は険しそうだ。
それぞれの団体の王者には今後、トップランカーとの指名試合が義務付けられるため王座統一戦が組まれるには時間を要する。加えて4人の王者の実力が拮抗。
このような状況下では「4団体世界王座統一」は生じにくい。
それでもバンタム級戦線が面白いと予測するのは、現時点で各団体の世界ランキング5位以内に4人の日本人選手が名を連ねているからだ。
石田 匠(井岡/WBA1位、WBO4位)
西田凌佑(六島、WBOアジア・パシフィック王者/WBO2位)
堤 聖也(角海老宝石/WBA3位)
栗原慶太(一力、OPBF王者/WBC4位)
彼らは近い将来、世界タイトル挑戦の機会を得るだろう。
ほかにも元WBC世界フライ級王者の比嘉大吾(志成/WBA、WBOともに8位)がいる。成長著しい元K-1王者の武居由樹(大橋、OPBFスーパーバンタム級王者)も階級を1つ下げることを決めておりWBAではすでにバンタム級ランキング10位に入った。
そして、スーパーバンタム級で4月にデビューした”キックボクシング無敗“の那須川天心も階級移行が濃厚である。
井上尚弥のようなスーパー王者は不在だが、それにより群雄割拠─。
今後、日本人ファイターが多く絡んでの「バンタム級サバイバルバトル」繰り広げられることになろう。
来年、いやおそらくは再来年に那須川天心が世界王座をかけて井上拓真、武居由樹に挑むことになれば、さらにヒートアップする。
文/近藤隆夫