8月1日、岡山県内14の蔵元が集う「岡山蔵元大集結」と、「雄町」で醸した全国のお酒が集まる「第14回雄町サミット」がホテル椿山荘にて開催された。

  • 岡山の地酒の魅力に迫る! 幻の酒米「雄町」や食用米を使った日本酒に出会った

「岡山蔵元大集結」では、『「雄町の酒」その真髄と岡山地酒のブランディングを語る』をテーマにトークが繰り広げられたほか、「雄町」の酒を中心とした試飲会も実施。今回はその様子を紹介していこう。

■「雄町」とは?

岡山県が生産量の約95%を占める「雄町」は、1859年(安政6年)に備前国上道郡高島村字雄町(現岡山市中区雄町)の農家によって発見された酒米。雄町は、背丈があり栽培が難しく、一時生産量が激減したことから"幻の酒米"と呼ばれていた。

  • 雄町の稲穂は160センチ近くあるのだとか!

だが、酒蔵の根強い要望と生産者の努力によって再び生産量が回復し、近年は全国の酒蔵に愛用されるまでに。また、最近では“オマチスト”と呼ばれるファン層も現れ、人気を博しているという。

イベント内のトークセッションでは、岡山の6つの蔵元に加え、きき酒師でありライターの市田真紀氏が登壇し、雄町で造られる酒の魅力や、岡山地酒のブランディングについて意見を交わした。

■蔵元が雄町の酒を語る

  • 「岡山蔵元大集結」トークセッション 登壇者の6名

はじめに、雄町の特徴について尋ねられると、十八盛酒造の石合敬三氏は、「なんと言っても野性的。酒造りにおいても、どっちにいくかわからない」と、原生種・雄町を扱うことの難しさを伝えた。

手のかかる米ではあるが、一方で「うまく付き合えた時には、想像の上をいくような味もときどき生まれるんですね」と、辻本店の石井麻衣子氏はその魅力についても口にした。

  • (左から)十八盛酒造 石合敬三氏、辻本店 辻麻衣子氏、菊池酒造 菊池大輔氏

そんな雄町が有名になっていく中で、ある悩みも抱えているそうで……、辻本店の辻総一郎氏は「雄町って岡山だったんですねってよく言われるんですね。地元の岡山の蔵として非常に情けないというか、悔しい思いがずっとあって……」と話す。

  • (左から)辻本店 辻総一郎氏、白菊酒造 渡邊秀造氏、室町酒造 花房利宇氏

この状況に対し、今後のブランディングのひとつとして、蔵元同士で情報交換や勉強会を行うといった研鑽を積み、地元の人が誇りに思えるいい酒造りをして盛り上げていきたい、と熱の入った想いを蔵人たちは伝えた。

■岡山の酒を楽しむ!

トークセッション後は試飲会が開催され、参加者は実際に岡山の酒を味わうことができた。その中から印象的なものをいくつか紹介していこう。

■御前酒蔵元 辻本店

  • 御前酒蔵元 辻本店

「御前酒蔵元 辻本店」は、"全量雄町宣言"を掲げ、すべての日本酒を雄町だけで醸す、いわば雄町の探究者。「御前酒 雄町3部作」は、雄町の魅力や可能性を探るべく、真庭・瀬戸・高島の3産地の雄町を使用して作ったシリーズで、同じ雄町でも土地によって全く違う味わいになるというから面白い。

そんな同社ブースでは、「御前酒 特等雄町2.2」をいただいた。栽培に特に手がかかる雄町米の中でも上質なものだけを使用したという希少な酒は、エレガントな香りがたまらない。甘みを感じつつもすーっとキレのよい後味が非常に印象的だった。

■白菊酒造

  • 白菊酒造

雄町をはじめ、食用米「朝日」なども使用した酒を醸す「白菊酒造」。このブースでは、岡山県産の朝日米、アケボノ、アキヒカリを使用したお酒「トリプルA」をいただいた。3つの米の頭文字"A"をとって「トリプルA」と名付けられたお酒は、引き締まった軽快な味わいが魅力的。

そのほか、炭酸割専用日本酒と聞いて少々驚いた「&SODA」は、日本酒をソーダ割りで飲むというユニークな一品。実際に割ってもらうと、まろやかでさっぱりとした喉越しとともに米の甘みがふわっと広がる。日本酒を飲み慣れていない人でも飲みやすいと感じる一杯だった。

■室町酒造

  • 室町酒造

雄町にこだわって酒を醸す「室町酒造」は、1688年から続く岡山で最も古い蔵。同社のブースでいただいたのは、2種類の酵母をブレンドして醸した海外輸出用の純米吟醸酒「左近レアル」。白ワインのようなスイートな香りと豊かな味わいが特徴的だ。

また、「極大吟醸 原酒 室町時代」のとろっとやわらかい芳醇な味わいもまた魅力的で、思わず目をつぶって飲み干してしまった。

■山成酒造

  • 山成酒造

「山成酒造」は働き手が全員、酒造りだけでなくかりんとうやマスカット栽培などを”兼業”しているというユニークな蔵。

現代的な働き方をする同社の酒は、驚くことに飲み方も今風。濃厚な米の旨みが特徴の「原酒 蘭の誉」は、もちろんこのままで十分うまいのだが、ソーダで割って飲むのもおすすめだとか。しっかりとした味わいの日本酒に、ソーダを足すことで軽快な一杯へと変化する。

薄めることなく、そのまま飲むのが日本酒だと思っていた筆者にとっては、まさに新しい発見。「(日本酒も)変わらなきゃいけないと思うんですよね」と笑顔で話す蔵人からは、日本酒の自由な楽しみ方を学んだのだった。

■丸本酒造

  • 丸本酒造

酒造りだけでなく、米作りも行う「丸本酒造」。「米の味をいかすため、米にこだわるんです」と、6代目当主の丸本仁一朗氏は話す。3つの有機認証を取得し、オーガニック栽培で作られた「オーガニック竹林」は、力強い旨みがつまっていながらもキレのある爽やかな後味が魅力。ついついもう1杯……!、と手が出てしまうほどの酒だった。


また、この日、別会場では「第14回雄町サミット」歓評会が行われており、「吟醸酒」「純米酒(精米歩合60%以下)」「純米酒(精米歩合60%超)」などの各部門で、選ばれた優等賞の受賞酒が発表された。

トークセッションの中で「(岡山の雄町の酒は)よそいきのお酒というよりは、普段飲みのおおらかな味のお酒が多い」との話があったように、食事と一緒に楽しみたくなるような酒も多かった。ぜひ、機会があればあなたも雄町の酒、岡山の地酒に触れてみてはいかがだろう。