理科の実験をしているようで、料理は子どもの頃から好きだった。魚をキレイに捌くのはいまだに上手くない。でもそれ以外だったらだいたいできる。

プロの料理人のような完璧な見た目でなくてもいい。とにかく、食べたいものを自分で作るのは楽しいし、家族に「美味しい」と喜んで食べてもらえたら、これほどうれしいことはない。

■子どもたちにいつもリクエストされた料理

初めて自分の包丁を持ったのは、20代の後半に実家を出てひとり暮らしを始めたとき。実家にあった切れ味の鋭い包丁。それが最初の自分の包丁だった。

包丁はできるだけ切れ味が良い方が使いやすいし、料理も美味しく仕上がる。だが「切れる刃物は怖い」といって使わない人もいる。僕の母もそうだった。そこで使われていなかったその包丁を貰って使うことにしたのだ。

とはいえ、毎日自分で家族のために料理をするようになった、料理が本気で楽しいと思うようになったのは、会社を辞めて独立して、さらに結婚し、子どもが保育園に行くようになってから。奥さんが仕事に復帰したので料理の機会も自然に増える。

そんな頃、子どもたちにいつもリクエストされた料理が「鶏の唐揚げ」。多いときは週に2回は作っていた。

ちなみにレシピは「家庭料理の巨人」としてフジテレビの「料理の鉄人」に「じゃがいも料理」の回で登場し、中華の鉄人・陳建一さんを破った小林カツ代さん(1937〜2014)の料理本「こはんによく合う 小林カツ代の人気おかず みんな大好きBESTレシピ150」(2009年主婦の友社刊)に掲載されていたもの。

カツ代さん御本人には、友人がマネージャーだったので生前、行きつけのイタリアンレストランで何度かご一緒してお話したこともある。ただ小林カツ代さんは2014年に、陳建一さんも2022年に突然亡くなられたので、おふたりとも故人になってしまった。いまだに信じられない気持ちだ。

ところで、鶏の唐揚げのレシピは「鶏もも肉をひとくち大にカットして、事前にタレに漬け込む」ものが多い。だがこの本に掲載されている「カツ代レシピ」で肉の「漬け込み」は一切不要。にんにくのすりおろし、お酒、醤油、ごま油を鶏肉に直前に揉み込んで、すぐに片栗粉をまぶして油で揚げるだけ。

とにかく簡単で美味しいので、200回以上は作っている。漬け込まないためか、醤油とごま油の香りがフレッシュで食欲をそそる。

今から15年ほど前、そんな日々が始まる少し前に手に入れたのが、1983年の発売開始で今年2023年に誕生40周年を迎えた吉田金属工業のオールステンレス包丁「GLOBAL(グローバル)」のペティーナイフ(GS-3)だ。2012年には本社で「研ぎ直し」もしてもらった記録がある。

  • 奥が刃渡り18cmの三徳包丁(G-46)、手前が私が愛用する刃渡り13cmのペティーナイフ(GS-3)。価格はそれぞれ 1万1000円、8800円(ともに税込み)。簡易シャープナー付きのセットは1万9800円。 単品なら1650円の簡易シャープナー(GSS-01)付きで、その分がお得だ。有料だが研ぎ直しサービスも用意されている。

■最大の特長が「オールステンレス」構造

このペティーナイフ、この唐揚げづくりでも大活躍した。牛刀やふつうの三徳包丁よりも小さいが、不便を感じたことは一度もない。切れ味抜群で、普通の鶏もも肉はもちろん、骨付きの肉でも快適に切ることができるし、とがっている先端を使って鶏の皮に穴を開けたり、にんにくを潰したり…これ1本ですべての作業が心地良く快適に行える。

  • 上が刃渡り18cmの三徳包丁で、下が13cmのペティーナイフ。刃はもちろん、ハンドル部の形状もかなり違う。コンパクトなペティーナイフはとにかく握りやすい

40年前の発売当時からこのグローバルは日本はもちろんのこと、世界中で圧倒的な人気を博して、プロアマを問わず世界中のキッチンで愛用されてきた。

そしてこの包丁の最大の特長が、ブレードとハンドルが一体になっている「オールステンレス」構造。

この構造だから、使い込んでもハンドル部分が劣化してグラグラする、外れるというトラブルは絶対に起こらない。また食材や調味料でベタベタの手で触っても、すぐに洗い流せるから衛生的。しかも使用後にキッチンのシンクでガンガン洗っても、洗剤液の中に一時的に漬けても、ふつうの包丁のように水が染み込むハンドル部分がないから大丈夫。

ところで、ペティーナイフの「ペティー=petit」は、フランス語の「小さい」という意味。刃渡り15cm以下の小さな包丁のこと。フランス料理では、料理の前の野菜の下ごしらえや細かな加工、果物の飾り切りなどに使われる。

料理好きな人、グローバルの製品情報サイトをご覧になった方なら「刃渡り20cm前後の製品があるのに、わざわざなぜ刃渡り13cmの小さなペティーナイフを使っているのか?」と思うかもしれない。

でもグローバルのペティーナイフは、刃渡りが短くても切れ味抜群で使いやすく普通の家庭料理を作るには充分。とにかくコンパクトで、ミニまな板の上で使うのにもピッタリだ。

  • マッシュルームに隠し包丁を入れたり薄くスライスしたり。ペティーナイフは、こんな作業にピッタリだ。

実はわが家のキッチンには、ドイツの有名なブランドの牛刀&ペティーナイフのセットや、ステンレス包丁より切れ味が格段に鋭いセラミック製の包丁もある。でも日々の料理はグローバルのこのペティーナイフ1本で済ませている。

だから、ひとり暮らしを始める人などの料理初心者はもちろん、いま使っているものよりコンパクトで使いやすい万能包丁がほしい人には、ぜひこのグローバルの包丁をおすすめしたい。特に料理の初心者には、私と同じペティーナイフが絶対のおすすめだ。

このペティーナイフ、少なくとも15年間は使い続けてきた。けれど「切れ味が鈍ったな」と思ったらシャープナーで研ぐ以外、大した手入れはしていないのに、切れ味も使いやすさも下ろしたての頃と変わらない。たぶんこのまま一生使い続けることになるだろう。

  • グローバルの包丁は1本1本、職人の手作業で研磨され(左)、厳しい検査(右)をパスして出荷される。

ただ個人的には今、同じグローバルの新ライン、和洋両方の家庭料理を作る“日本のマイホームシェフ”のために生まれた国内限定モデル「GLOBAL-IST(グローバル・イスト)」が気になっている。その中でも購入しようかと思っているのが、刃渡り19cmの万能包丁(IST-01)だ。

  • これが「グローバル・イスト」の万能包丁(IST-01)。価格は1万2100円(税込)」

グローバルの刃の断面が、刃先から背までなめらかなカーブになっている“ハマグリ刃”なのに対して、GLOBAL-ISTの刃の断面は和包丁に近い、直線的でシャープな“エクストラエッジ”と呼ばれる形状。だから「よりシャープな切れ味」が期待できる。この説明を読んだだけでワクワクする。

  • 誕生40周年を記念したグローバルのスペシャルロゴマーク。現在、購入者を対象にこれを記念した期間限定のスペシャルプレゼント企画が進行中だ。

ところで先にご紹介した小林カツ代さんの料理本、ネット書店で購入しようとすると「品切れ」になっている。だが今も主婦の友社のサイトには掲載されているので絶版ではないようだ。

とはいえ、料理研究家は一種のタレントであり、常に世代交代が運命付けられている。そのため、著書も逝去されると絶版になることが多い。もしかしたらこの本も最悪の場合、増刷されぬまま事実上絶版になってしまう可能性もある。

でもこの本のレシピは「美味しい時短レシピ」として完璧に通用するものばかり。だから絶版にするのはもったいない。編集者としては、たとえば「現役の料理研究家が作ってみる」というカタチなどのダブルネームでいいから、ぜひ再編集版を出してほしいと思う。

文/渋谷ヤスヒト