藤井聡太棋聖に佐々木大地七段が挑戦する第94期ヒューリック杯棋聖戦(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)は、第3局が7月3日(月)に静岡県沼津市の「沼津御用邸東附属邸第1学問所」で行われました。対局の結果、107手で勝利した藤井棋聖がスコアを2勝1敗として4連覇まであと1勝としました。

驚きの桂跳ね

1勝1敗のタイで迎えた本局、先手となった藤井棋聖は得意の角換わり腰掛け銀を採用。この戦型の代名詞ともいえる玉移動の駆け引きののち後手の佐々木七段が右玉への組み換えを完了した局面で、藤井棋聖は研究手を披露します。自玉そばの桂をそっぽの9筋に跳ねたのがそれで、これには佐藤康光九段をはじめとする控室の面々も驚きを隠せません。

藤井棋聖の意筋の桂跳ねは、後手玉が左辺に近づいたのを見て8筋からの逆棒銀を用意する狙いでした。これを見た佐々木七段も1時間弱の長考で対策を練ります。盤上中央に玉を戻したのは一刻も早く戦場から逃れる意図ですが、この間にも藤井棋聖は一歩ずつ着実に左銀を前進。形勢は互角ながら、藤井棋聖がうまく先攻の利を生かした格好です。

藤井印の玉さばきが決まる

守勢に回った後手の佐々木七段は歩の手筋を駆使してなんとか先手の飛車筋を止めます。直後に先手の攻めの要である銀を奪った局面は反撃成功を思わせましたが、ここから藤井棋聖は巧みな方針転換を用意していました。飛び出してきた飛車めがけて力強く玉を前進させたのが好着想で、歩切れの後手からうまい攻め筋がないのを見越しています。

藤井玉はいかにも危ない形ですが、藤井棋聖は持ち味の深い読みで自陣のスキをすべてカバーしていました。佐々木七段からの反撃が一段落する頃には藤井玉は安全な5筋への移動を完了。8筋からのと金攻めが間に合う形になっては藤井棋聖の優勢は疑いありません。終局時刻は18時37分、攻防ともに見込みなしと見た佐々木七段が投了を告げました。

勝った藤井棋聖はスコアを2勝1敗として、棋聖4連覇ならびに七冠堅持まであと1勝としました。敗れた佐々木七段も「気持ちを奮い立たせていい将棋でフルセットにしたい」と気合十分。注目の第4局は7月18日(火)新潟県新潟市の「高志の宿 高島屋」で行われます。

  • 勝った藤井棋聖は「玉を5筋に逃げ出す形になって玉を安全にできた」と終盤戦を振り返った(提供:日本将棋連盟)

    勝った藤井棋聖は「玉を5筋に逃げ出す形になって玉を安全にできた」と終盤戦を振り返った(提供:日本将棋連盟)

水留 啓(将棋情報局)

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