村田製作所がタイヤに内蔵できる「RFIDタグ」を作っているらしい。RFIDタグといえばアパレル業界で普及が進む技術で、洋服に付いているのを見かけたこともあるが、これをタイヤに埋め込んで何の役に立つのか。「人とくるまのテクノロジー展 2023」で村田製作所の担当者に話を聞いてきた。
「RFIDタグ」とは?
RFID(Radio Frequency Identification)タグとは情報が書き込まれたICタグのこと。ワイヤレス通信でタグ内に書き込まれた情報を読み込める技術で、大手ファストファッションブランドではほぼすべての衣料品にRFIDタグを採用し、製品情報の確認や在庫管理などに活用している。洋服を買ったとき、薄い金属のようなタグが付いているのを見たことがある人も多いだろう。
そんなRFIDタグをタイヤに内蔵することで「輸送業界のDX推進」に役立つと村田製作所はいうのだが、どういうことなのだろうか。
輸送業界ではドライバーだけでなく、整備・点検を行う人員の人手不足も課題といわれている。中でも、タイヤの点検や修理といったメンテナンス作業が人手不足で長引けばダウンタイム、つまりトラックの稼動停止時間の長時間化につながる懸念がある。そこで村田製作所では、RFIDタグを内蔵した「自動車用タイヤ内蔵RFIDタグ」をタイヤメーカーのミシュランと共同で開発した。
タイヤにRFIDタグを内蔵することで、タイヤごとに異なる溝のすり減り具合などを素早く確認したり、記録したりすることが可能となる。さらに、すり減ったタイヤの表面を削って、新しいゴムを貼り付けて再利用するリトレッドの履歴を記録しておくこともできる。もちろん、保管してあるタイヤの在庫・物流管理にも利用可能だ。
過酷な使用環境に耐えられる?
従来のRFIDタグは洋服に取り付けられるなど、さほど過酷な環境での使用は想定されてこなかった。例えば洋服に取り付けられたRFIDタグは、買った人の手元に届けば、すぐに破棄されるようなものだった。
しかし、タイヤに内蔵されるとなると、振動は加わる、悪天候にはさらされる、タイヤが破棄されるまでの長期間にわたって使用されるなど、環境は過酷になる。そうした厳しい環境でも使用できるRFIDタグにするため、村田製作所はRFIDを小型化しつつ堅牢性も高める技術「マジックストラップ」を活用している。
また、一般的なRFIDタグはゴムや金属によって通信特性が大きく変化してしまう。そのため、村田製作所は独自のアンテナ設計により、タイヤ内蔵後でも良好に通信できて正確に機能するRFIDタグに仕上げているそうだ。
こうした技術的な課題をクリアして誕生した「自動車用タイヤ内蔵RFIDタグ」は縦1.8mm、幅40mm(最大)という小型化を実現。タイヤ加工時や走行中の衝撃にも耐えられる高い耐久性を備えている。
専用の端末をタイヤにかざせば、RFIDタグに書き込まれたさまざまな情報を素早く確認できる。その際、同社のRFIDソフトウェア「id-Bridge」を活用すれば、本数の多いタイヤの在庫管理や点検記録などをスムーズに一括管理できるソリューションも用意している。
RFIDタグを内蔵したタイヤを使用することで、タイヤのメンテナンス時期を予測しやすくなり、すり減ったタイヤの使用を回避でき、タイヤの安全性向上が目指せる。使用するタイヤの最適化が図れるため、収益構造の改善にもつながる。結果として、生産性向上に大きく貢献できると村田製作所の担当者は話す。
乗用車にも使える技術?
すでに導入が始まっている「自動車用タイヤ内蔵RFIDタグ」だが、現時点ではトラックなどの輸送業界が中心だという。しかし今後は、商用車だけでなく乗用車向けのRFIDタグも展開していきたいとのことだ。一般ドライバーであっても「タイヤのメンテナンスはめんどうに感じている人が多いはず」と村田製作所は認識している。この意見には筆者も賛同したい。
そのため、専用端末ではなく、例えばスマートフォンのアプリなどを活用して自家用車のタイヤの状況が把握できれば、メンテンナスの手間が軽減されるだけでなく、タイヤに起因する交通事故の減少にも役立つだろう。
どんなにクルマが好きでも「タイヤのメンテンナスはめんどうだ」と感じているのは筆者だけではないはず。「自動車用タイヤ内蔵RFIDタグ」が一般ユーザーにも広く普及していけば、日々のタイヤトラブルを低減しつつ、メンテンナスにかかる負荷さえも少なくなっていく。早急な普及拡大を期待したい。