ダイハツ工業の「タント」といえばファミリーカーの印象が強いスーパーハイト系の軽自動車だが、「人とくるまのテクノロジー展 2023」(パシフィコ横浜で5月26日まで、名古屋で7月に開催)の会場には最新のセンサーを満載した近未来的なタントが展示してあった。なかなかカッコいいが、どんな目的で作ったクルマなのだろうか。
軽の無人タクシーは実用化できる?
タントは「スーパーハイトワゴン」と呼ばれる背の高い軽自動車。現行型はダイハツの新世代のクルマづくり「DNGA」(Daihatsu New Global Architecture)を採用して2019年7月に登場した4世代目だ。もともとは通常版と「タント カスタム」の2本立てだったタントだが、2022年秋の大幅改良でアウトドアテイストの「タント ファンクロス」がラインアップに加わった。
「人とくるまのテクノロジー展」に登場したのは、ダイハツが兵庫県神戸市で行っている自動運転の実証走行で使用しているタントだ。ボディにはさまざまなセンサーやカメラを搭載。レーザー光を照射して対象物までの距離や対象物の形状を測定する「LiDAR」や歩行者を検出するための前方カメラ、自車位置推定のためのGPSアンテナなどで武装したタントは近未来的な雰囲気だ。
ダイハツでは2018年から神戸市北区で移動サービスの実証を進めている。当初は6人乗りに改造した手動運転の「アトレー」で実証を行っており、高齢者を中心にクルマによるオンデマンドの移動サービスにはニーズがあるとの手ごたえも得られたそうだが、社会実装に向けては採算がとれるかどうかがネックになっていた。
実証を行っている地域は人口1万人以上の町で、実証中の移動サービスを頻繁に活用したのは500~1,000人くらいだったそう。アンケート調査の結果、利用者からは「月額1,500円くらいで乗り放題」であれば、社会実装されたとしても利用を続けたいとの声が多く届いたという。ただ、これでは年間の収益が数百万円にしかならないわけで、移動サービス運営のためのドライバー1~2人を雇えば採算割れとなってしまう。そこから、自動運転の導入を念頭に置いた実証が始まった。
実証中はセーフティードライバーが乗車し、何かあったらすぐに手動運転に切り替えられるよう万全の準備をしているが、基本はハンドルもペダルも操作しない自動運転状態でタントを走らせている。これまでに事故などのアクシデントは起きていないそうだ。
無人運転タントの移動サービスが実用化すれば、免許の返納が進んでも高齢者の足として役に立ちそうだし、子供の塾の送り迎えに使うなどファミリー層にも需要がありそうだが、今のところの手ごたえはどうなのか。ダイハツの説明員によれば、「空で走らせるのは無駄なので、オンデマンドで、なるべく1度の運行で多くの人を運べるようなシステムが整備できて、ある程度の人数に乗っていただければ、採算として成り立つか成り立たないかギリギリのところ」という試算になっているとのことだ。
オンデマンドの運行を行うには、スマートフォンか何かを使った予約システムのようなものが不可欠となりそうだが、そうした仕組みを利用者の人たちに理解してもらい、日常的に使ってもらえるようにできるかどうかも課題となるかもしれない。