睡眠の時間と質は、人生を豊かにするか否かに大きく影響すると言われます。そして睡眠不足は肥満をも誘発、ダイエットの妨げにもなるとも。「寝ないと太る」は本当なのか─。
睡眠専門医の白濱龍太郎氏は言う。「ぐっすり眠る習慣は大切。寝ないと太るは本当です」。その理由とは? 睡眠とフィジカルの関係とは?
■「食べて即寝」を続けると…
──「睡眠」と「食」において、「寝る前に食べると太る」と一般的に言われます。就寝の何時間前に夕食をすませるのがよいのでしょうか?
白濱 何時間前がベストとは一概に言えませんが、「早すぎず遅すぎず」が望ましいでしょう。あまり早いと空腹感におそわれ、なかなか寝つけないことは想像できるのではないかと思います。
逆に遅すぎると(特に寝る直前だと)、さまざまなマイナス要素をもたらす。まず、睡眠の質が低下しますね。
──それはなぜでしょう?
白濱 ものを食べると血糖値が上がり、それを正常に戻すためにインスリンが分泌されます。すると今度は低血糖にならないように交感神経が働く。そのため食べてすぐに布団に入って寝ると睡眠が浅くなってしまいます。食べた量にかかわらず睡眠の邪魔をするわけですね。
また肥満の大敵という側面も見逃せません。食事をしてすぐに眠りにつくとカラダに取り込まれたエネルギーが中性脂肪として体内に溜め込まれてしまいます。寝る前の食事は睡眠障害と肥満のダブルパンチを受ける可能性があり、そこからさまざまな健康リスクを高めてしまいます。
中でも、もっともいけないのは夜中に食べてすぐに寝ること。理由は、深夜帯に脂肪を蓄積する作用のある「BMAL1(ビーマルワン)」というタンパク質が多く分泌されるからです。
大袈裟ではなく、深夜のドカ食いからの即寝は寿命を縮める行為。そこにアルコールが加われば、さらに健康リスクが高まりますから避けてください。
■米国の大学での調査結果は…
──睡眠時間が短いと太りやすい、というのは本当ですか?
白濱 本当です。
一つ、米国のスタンフォード大学が行った調査結果を紹介しましょう。
食欲を促す「グレリン」、食欲を抑制する「レプチン」、この2つのホルモンの分泌量を睡眠時間別に調査しました。すると、8時間以上眠った人に対して、5時間しか眠らなかった人の「グレリン」分泌量は15%も多かったのです。逆に「レプチン」分泌量は15%低下していました。つまり、睡眠が少ないと食欲を感じやすくなってしまうのです。
さらに睡眠不足は、基礎代謝を上げる働きをする成長ホルモンの分泌も抑えてしまい、それが消費カロリーの低下にも結びつきます。食欲が旺盛になったうえに、食べたものを効率よく消化できない体質を睡眠不足がつくってしまうわけですね。
──そんな研究結果が出ているんですね。
白濱 まだあります。
米国のコロンビア大学では、32~59歳の男女1万8千人を対象に睡眠時間と肥満の相対関係について調査しています。結果、平均睡眠時間7~9時間の人に比べ5時間の人は50%、4時間以下の人は73%も肥満率が高いことがわかりました。
しかもそれは、たった一晩でも影響します。『アメリカ臨床栄養学会誌』によれば、質の悪い睡眠をとった翌日は代謝が落ち、最大20%もの消費エネルギーが減少してしまうそうです。さらに睡眠不足状態だとジャンクフードに手を出しがちになるとも言われており、まさに悪循環。太りたくなければ、毎日ぐっすりと眠ることは欠かせません。
「寝ないと太る」は、紛れもない事実です。
文/近藤隆夫 監修/白濱龍太郎