ホテル雅叙園東京で、企画展「大正ロマン×百段階段 ~文豪が誘うノスタルジックの世界~」が始まりました。東京都指定文化財「百段階段」という幻想的な空間で、まるで太宰治や谷崎潤一郎などの文豪たちが紡いだ物語の世界に入り込むかのような“没入体験”ができる、ここでしか味わえない贅沢な企画展となっています。
舞台となる文化財「百段階段」は、1935(昭和10)年に建てられた、同館で現存する唯一の木造建築。99段もあるこの長い階段廊下がつなぐ7つの部屋には、当代屈指の画家たちによってそれぞれに趣向を凝らした装飾がなされ、その破格なまでの絢爛豪華さから、“昭和の竜宮城”とも呼ばれています。
今回の企画展は、この貴重なレトロ建築の6つの部屋を舞台に、6つの物語の中の印象的なシーンを立体展示するというもの。長い長い階段廊下を進んでいくと、萩原朔太郎の「猫町」や泉鏡花の「外科室」、太宰治の「葉桜と魔笛」など、文豪たちがつむいだ6つの物語を再現した部屋が現れます。
ノスタルジックな家具や調度品、そして美しい装飾によって、作品が描かれた当時の雰囲気と物語の世界観を感じとり、部屋に一歩足をふみいれると驚嘆の声がもれてしまうほど。そしてまた階段をあがって次の部屋に入ると、まったく異なる次の物語に出会うのです。
たとえば、谷崎潤一郎の「秘密」。官能と倒錯が交わるこの物語を再現した部屋では、2つのシーンを描いています。物語前半の女装をする「私」が出かける準備をする場面は、化粧をするための鏡台や箪笥に女物の着物が散乱している様子から、まるで主人公が“女に変身”する過程をこっそりのぞいているかのよう。
隣の間には、物語後半で「私」が「T女」と逢引きをする部屋が再現され、なんともなまめかしい雰囲気。トルソーが身につけている葡萄柄の着物、黒レースの手袋などの衣装、その仕草など細かな部分にもこだわりが感じられ、谷崎らしい独特のフェティシズムあふれる空間になっていました。
また本展では、「乙女の本棚」(立東舎)とのコラボレーションで、6名のイラストレーターの独自の感性で新たな魅力を吹き込まれたイラストを、各部屋でパネル展示しています。イラストが場面ごとにストーリーを紹介していくので、まだ作品を読んだことがなくても大丈夫。さらに、ヨダタケシ氏が手がけたオリジナルBGMが、作品世界をいっそう引き立てます。
そして、この建築装飾に囲まれた文化財の中には、大正ロマンの雰囲気あふれるフォトスポットも随所に用意されているのです。アンティークな長椅子に腰かけたり、ステンドグラスをバックに当時のカフェ気分を味わったりと、楽しみ方が盛り沢山。ぜひ贅を尽くした歴史的文化財の中で、文豪たちの名作世界に没入してみてはいかがでしょうか。
■information
「大正ロマン×百段階段 ~文豪が誘うノスタルジックの世界~」
会場:ホテル雅叙園東京
期間:3月25日~6月11日(11:00~18:00 会期中無休)
観覧料:平日 一般1,200円、学生600円/土日祝 一般1,500円、学生800円