残業は大変ですが、その分残業代が出るのは嬉しいですよね。しかし、「4~6月に多く残業すると、手取りが減る」という噂を聞いたことはないでしょうか。もし本当だとしたら、4~6月の残業には気を付けたいものです。
今回は、社会保険料が決まる仕組みを解説しながら、「この時期に多く残業すると手取りが減る」と言われる理由を解説します。
■4~6月の残業代が多いと社会保険料が上がる?
「4~6月に多く残業すると、手取りが減る」というのは、本当なのでしょうか。実は、この時期の給与額は、社会保険料の金額に影響を与えています。
私たちが受け取る給与は、税金や社会保険料が引かれていることをご存知でしょう。社会保険料とは、「厚生年金保険料」「健康保険料」「介護保険料(被保険者が40歳以上の場合に徴収)」「雇用保険料」のことです。
このうち、雇用保険料を除く3つの社会保険料は、4~6月の給与額の平均をもとに算出されています。つまり、4~6月に支給される残業代が多いほど、社会保険料も高くなるのです。
ただし、残業代は月末にその月の残業時間を確定させて翌月に支払われることが多いため、正確には、「3~5月に多く残業すると、4~6月に支給される残業代が多くなり、社会保険料が高くなる可能性がある」ということになります。
■3~5月に残業すると手取り額が減る仕組み
社会保険料が決まる仕組みについて、もう少し詳しく見ていきましょう。「厚生年金保険料」「健康保険料」「介護保険料」の3つについては、「標準報酬月額×各保険料率」で計算されます。また、各保険料率のうち、健康保険と介護保険の保険料率は加入している健康保険組合によって異なり、厚生年金保険料率は一律に決められています。
つまり、保険料に影響を与えるのは、主に「標準報酬月額」の部分なのです。標準報酬月額とは、社会保険料を計算しやすくするため、報酬月額を1等級から32等級までの32段階に分け、その等級ごとに設定している金額のことです。
標準報酬月額は、毎年7月1日に、「4~6月の給与額の平均」をもとに算出されます。また、ここでの給与額は「実際に支払われた給与総額」を指しますので、基本給だけでなく、残業代やその他諸手当も含まれています。
先ほどもあったように、残業代は翌月に支払われるケースが多いため、標準報酬月額の基準になる4~6月の給与額には、「3~5月にどれだけ残業したか」が関係するのです。
ちなみに、7月1日に決められる標準報酬月額は、基本的に、9月~翌8月の1年間利用されます。4~6月の残業代が多いと標準報酬月額が上がり、その後1年間の社会保険料も増え、手取りが減ってしまうというわけです。
■残業すると社会保険料はいくら高くなる?
「残業してせっかく残業代がもらえても、その後の社会保険料が高くなってしまうなら、3~5月は残業したくない」と考える人も多いでしょう。では、この時期に残業すると、社会保険料はどのくらい高くなるのでしょうか。
厚生年金の保険料率は、一般の被保険者で18.3%です。これを会社と折半しますので、従業員は9.15%を納めます。
健康保険の保険料率は、加入している健康保険組合によって異なります。全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)に加入して東京都、40歳未満(介護保険料の支払いなし)の場合、保険料率は10%です(令和5年3月分から)。厚生年金と同様、これを会社と折半しますので、従業員の負担は5%になります。
■残業あり、なしで社会保険料はいくら変わる?
標準報酬月額表(保険料額表)を見ると、標準報酬月額ごとの等級とその保険料がわかります。残業をしない場合とする場合では、社会保険料にどのくらいの差が生じるのか比較してみましょう。
・報酬月額20万円のケース(残業なし)
まず、残業をせず報酬月額が20万円だった場合、社会保険料の計算に用いる標準報酬月額は20万円となります。この時、厚生年金保険料は1万8,300円、健康保険料は1万円、合計で2万8,300円です。
・報酬月額25万円のケース(残業あり)
では、残業をして報酬月額が25万円になったらどうでしょうか。この場合、等級は2つ上がり、標準報酬月額は24万円です。その結果、厚生年金保険料は2万1,960円、健康保険料は1万2,000円、合計で3万3,960円となりました(いずれも、全国健康保険協会管掌健康保険料、東京都で40歳未満の場合。令和5年3月分から)。
残業をすると、残業をしなかった場合と比べて、厚生年金保険料は3,660円、健康保険料は2,000円、合計で5,660円もアップしています。
こうして比較してみると、「1ヶ月で5,000円以上も社会保険料が高くなるのはキツイ」「3~5月はできるだけ残業を控えたい」と感じるかもしれません。確かに、手取りを減らしたくない場合、この時期の残業は極力控える工夫が必要でしょう。
ただし、社会保険料が上がって手取りが減ったからといって、必ずしも損をするわけではありません。社会保険料を多く納めれば、そのぶん、給付をもらう時にたくさん受け取ることができるからです。
たとえば、厚生年金保険料を多く支払うと、老後に受け取る年金額も多くなります。また、病気やケガで働けなくなった時には健康保険から「傷病手当金」が支給されますが、この支給額も標準報酬月額をもとに計算されているのです。
4~6月の残業代がその後の社会保険料に関わるのは事実ですが、「3~5月の残業を控えれば得」というわけでもありません。社会保険料を多く納めると将来の給付が手厚くなることを踏まえつつ、この時期の残業について考えてはいかがでしょうか。
■社会保険料が増えても損とは限らない
今回は、「4~6月に残業すると手取りが減る」と言われる理由について解説しました。この時期の残業代が増えれば社会保険料も増える可能性がありますが、将来の給付を考えると、一概に損とは言い切れないのです。
一方で、「手取りの多さを優先したい」という人もいるでしょう。残業するしないを自分で決められる時ばかりではありませんが、手取りを減らしたくない場合、3~5月の残業には注意しておきましょう。