藤井聡太王将に羽生善治九段が挑む第72期ALSOK杯王将戦七番勝負(毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟主催)は、第6局が3月11日(土)・12日(日)に佐賀県三養基郡「大幸園」で行われました。対局の結果、88手で勝利した藤井王将がスコアを4勝2敗として自身初となる王将防衛を果たしました。

羽生九段の積極策

2勝3敗とあとがない状況に立たされた羽生九段は、先手番で迎えた本局の命運を角換わり早繰り銀に託します。早々に3筋の歩をぶつけて仕掛けたのが羽生九段用意の作戦で、居玉のまま右銀を五段目に繰り出しました。羽生九段が後手番で戦った本シリーズ第1局と類似した形ながら、6筋の駒の配置の違いから本局はこのあと全く異なる様相を示します。

定跡化された応酬が続いたのち、羽生九段は自陣角を放って後手の飛車をけん制しました。このあたり、羽生九段が後手番を持って指した昨年11月の実戦例(叡王戦・対永瀬拓矢王座)を想定する両者は比較的早いペースで指し手を進めます。この直後、羽生九段が7筋の歩を突いて戦線を拡大したところで、藤井王将が本局初の長考を記録しました。

見逃された勝負所

形勢は互角ながら、後手に飛車先の歩を詰められている羽生九段としては積極的に主張点を見出す必要があります。盤上五段目に繰り出した後手の右銀をめがけて左銀をぶつけたのはこの方針に沿ったもので、この銀がいなくなれば後手の桂頭を狙えることを見越しています。6筋での銀交換の後、藤井王将が攻防の自陣角を放って局面は一段落を迎えました。

戦いが1日目の夕方に近づくころ、盤上では静かな陣形整備のやり取りが続いています。先手が角と銀を手持ちにしているのを見た後手の藤井王将は、自陣への駒の打ち込みを警戒してバランス重視の中住まいの囲いを目指しました。対局開始からまだ50手ほどの局面ながら、これに対する羽生九段の方針が早くも本局最大の分岐点となりました。

藤井王将の反撃決まる

すぐの戦いは無理と見た先手の羽生九段は自玉を盤面右方に囲う構想を採りますが、局後この方針を悔やむことになりました。代えて示された6筋への合わせの歩は飛車を大きく使って後手に持ち駒の銀を自陣に使わせるもの。直後にこの銀を起点とした後手からの押さえ込みを気にした羽生九段ですが、振り返ってみるとひとつの勝負所を逃した格好です。

羽生王将の封じ手が立会人の深浦康市九段によって開封され、2日目の戦いが始まります。持ち駒の銀を温存することに成功した後手の藤井王将は、先に打った自陣角とこの銀の連携で先手玉への直接攻撃に照準を合わせました。手順に自陣の左桂まで攻めに活用できては攻めが途切れることがなくなり、後手の藤井王将の優位が明らかになりました。

この直後、角銀桂の攻め駒を一気に先手陣に向かわせた藤井王将は無駄のないさばきで羽生九段の玉を追い詰めます。終局時刻は15時56分、自玉の詰みを認めた羽生九段が投了を告げて七番勝負に幕が引かれました。これで勝った藤井王将は4勝2敗で自身初となる王将防衛に成功。並行して戦う棋王戦、4月に始まる名人戦と合わせて最年少六冠および七冠達成への期待が高まります。

  • 王将防衛に成功した藤井五冠はタイトル獲得数を12期に伸ばし歴代8位タイに(提供:日本将棋連盟)

    王将防衛に成功した藤井五冠はタイトル獲得数を12期に伸ばし歴代8位タイに(提供:日本将棋連盟)

水留 啓(将棋情報局)