弁護士ドットコムはこのほど、「公共交通機関におけるベビーカー利用」に関するアンケートを行った。

公共交通機関(電車やバスなど)のベビーカー利用やベビーカーの取り扱いをめぐって、ネット上でたびたび議論になっている。2022年11月には、元バレーボール選手の大山加奈さんが、双子対応のベビーカーで都営バスなどに乗ろうとしたところ「乗車拒否」されたと投稿したことが話題となった。

こうした中、同調査は2022年11月29日〜12月6日に実施。弁護士ドットコムの一般会員902名(男性509人、女性381人、その他12人)を対象に、ウェブアンケートを行った。

  • 公共交通機関でのベビーカー利用は4割

公共交通機関でベビーカーを使用したことがあるかを尋ねたところ、6.4%が「現在使用している」と回答。「現在は使用していないが、以前使用したことがある」という回答も35.6%あり、合計では4割を超えていた。

  • ベビーカーを最後に使用したのは「2009年以前」が最多

回答者のうち、公共交通機関でベビーカーを使用したことがある379人を対象に、ベビーカーを最後に使用したのはいつか聞いたところ、「2009年以前」が44.9%と最も多かった。次いで「2020年〜今も使っている」が22.4%、「2015年〜2019年」が18.2%、「2010年〜2014年」が14.5%だった。

  • 6割弱が、ベビーカーは「混雑状況に応じて畳むことがある」

公共交通機関でベビーカーを使用した際、ベビーカーを畳んでいたかについては、「混雑状況に応じて畳むことがある」が56.7%と最多に。次いで「常に畳んでいる」が30.9%、「畳むことはない」が12.4%だった。

2014年3月に国土交通省は、公共交通機関等におけるベビーカー利用について「ベビーカーを折りたたむことを一律に求めるのは子どもの安全面で困難」とし、ベビーカーを折り畳まずに乗車することができる方針を示した。

アンケートでも「2009年以前」の使用者では「常に畳んでいる」が35.8%だったところ、「2020年〜今も使っている」の使用者では「常に畳んでいる」が17.6%という結果となった。国土交通省は2014年から公共交通機関などでベビーカーを利用しやすくするための啓発キャンペーンを始めており、こうした動きが徐々に利用者や社会の認識や行動を変えたと考えられる。

  • 利用者の6割超「不快な思いや居心地の悪さを感じたことがある」

公共交通機関でベビーカーを使ったことで、不快な思いや居心地の悪さを感じたことはあるか(あったか)を尋ねたところ、「ときどきある」が38.3%と最も多く、次いで「あまりない」が32.7%、「よくある」が18.2%、「ない」が10.8%となった。ベビーカーを「2020年〜今も使っている」人に絞って分析しても、「よくある」「ときどきある」の合計は6割を超えていた。

  • 約6割が、「嫌な顔、舌打ちをされた」と回答

「よくある」「ときどきある」と回答した人に、当時の状況を選択式で質問すると、「嫌な顔、舌打ちをされた」が59.3%と最も多かった。以下、「専用スペースを占拠され、どいてもらえなかった」が45.3%、「乗り降りや通行について協力を求めたものの無視された」が21.5%と続く。

その他では、「無言の圧力を感じた」「冷ややかな空気を感じる」「邪魔になっていて申し訳なく感じた」など、直接何か言われたわけではないものの肩身の狭い思いをしたという意見が複数あった。

  • 他人のベビーカーの使い方で迷惑や不快な思い、7割弱が「ない」

回答者全体に対して、公共交通機関で他人のベビーカーの使い方について、迷惑に感じたり不快な思いをしたりしたことはあるかを聞いた。その結果、「あまりない」が36%と最も多く、次いで「ない」が29.5%、「ときどきある」が27.3%、「よくある」が7.2%だった。

  • 迷惑に感じたり不快な思いをした場所は、「電車」が最多

「よくある」「ときどきある」と回答した人に、どこで迷惑に感じたり不快な思いをしたか選択式で聞いたところ、「電車」が77.8%と最も多かった。

  • ベビーカーでの迷惑行為は、「通路を塞ぐ」「混雑時の利用」など

具体的にどのような出来事か選択式で尋ねたところ、「通路を塞いでいた」が68.8%と最多に。次いで「車内などが混雑している時にベビーカーを利用している」が55.9%、「踏まれたりぶつかったりした」が35.7%だった。

自由回答では、電車でのベビーカー利用について、「専用車両があればいい」「混雑する時間帯だけでもベビーカーや車いすなどの優先車両があってもいい」と優先・専用車両を設けるべきという声があった。「車椅子と同じように利用出来る環境が増えるとよい」と車椅子と同様に周囲のフォローや手伝いが必要だという意見もみられた。

子育て経験者からは「他の方の邪魔になるので、公共交通機関ではよっぽど空いていない限り、ベビーカーを広げて子どもを乗せることはありませんでした。重くても抱っこ紐で我慢」(2015年〜2019年使用、女性)、「ベビーカーを畳んでいても嫌な顔をされたため、抱っこ紐で乗るようにしていた」(2020年〜今も使っている、女性)など、公共交通機関では抱っこ紐を利用していたという人が複数いた。

双子用ベビーカーの経験者からは「横並び型はとても幅をとるので、狭いバスや混雑時にはかなり邪魔になる。混雑時は避けたり一人は抱っこ紐等で抱っこして一人用のベビーカーを使ったりする工夫も必要なのではと思います」との意見があった。

今回の調査結果を受けて、宇都宮大学の大森宣暁教授(都市計画)は以下のようにコメントしている。

公共交通機関でのベビーカー使用は、主に人口密度が高い大都市に住んでいる人が関係する話題だと思います。アンケート結果からは、ベビーカー利用者も周囲に配慮しながら公共交通機関を使う努力をしていることが伺えます。公共交通というのはベビーカー利用者だけでなく、高齢者や子ども連れ、大きな荷物を持った旅行者など様々な方が利用するので、皆でお互い配慮するという意識を持った上で使う必要があると思います。
 
アンケートでは、「電車やバスでベビーカーを折りたたまずに乗車することができる」という方針を国土交通省が打ち出した2014年以降、常に畳む人が少なくなったことが分かります。
 
一方で、交通事業者は鉄道車両内で、車椅子スペースと兼用する形でベビーカー優先スペースを設けているにもかかわらず、「ベビーカーの優先・専用車両を設けるべき」という自由回答があることからすると、世間的には車椅子と同じようにベビーカーを優先しようという意識がまだまだ国民に広まっていないのかもしれません。
 
ベビーカー利用者と周りの人との両方が関係する問題です。ベビーカー利用者はルールやマナーを守って使い、周りの人はベビーカー利用者の大変さを理解してあげて協力することで、お互い嫌な思いをする割合が減るのではないでしょうか。