自動車技術分野のモノづくりコンテスト「学生フォーミュラ日本大会2022-モノづくり・デザインコンペティション-」(学生フォーミュラ)が、9月6~10日の5日間にわたって小笠山総合運動公園「エコパ」で開催された。

69チームが参加し、今年で第20回大会となった本大会だが、今回はそのEV部門に初出場した静岡大学と、そのサポート企業であるヤマハ発動機を取材。両者の本大会にかける思いなどをうかがった。

EV部門出場は過去最大14校に

産学官民が支援する日本最大級の総合モノづくりコンペティションとして、自動車技術や日本の産業界の発展・振興を牽引する人材の育成を掲げる「学生フォーミュラ」。

さまざまな設計や安全に関する要件に従い、学生がオープンコックピットのフォーミュラスタイルの小型レーシングカーを自作し、静的審査(車検)や動的審査(競技走行)に挑戦するコンテストだ。

審査クラスにはICV(ガソリン自動車)とEV(電気自動車)があり、今年度大会では上智や青学、静岡大など4チームがEVへシフト。過去最大14校がEVで本戦に参加した。

  • 学生たちのブース

審査では車両の要件の適合性確認に始まり、車両45度傾斜で燃料漏れなどの確認を行う「チルト」や「ブレーキ」、排気音レベルの確認(110dBC以下)を行う「騒音」(ICVクラスのみ)、絶縁がされているかを確認する「レイン」(EVクラスのみ)などのテストを実施。

走行性能のみならず、各チームを車両開発ベンチャーと想定し、車両コンセプト、製造販売のためのプレゼンテーション技術、コスト管理なども審査される。

本大会の車両には、トランスミッションやスターターを搭載する小型エンジンが求められるため、バイク用エンジンが使われており、国内バイクメーカー4社が分担するかたちで出場チームの支援にあたっている。

  • スポンサー企業のブースが立ち並ぶエリア

第1回大会からのサポート企業であるヤマハ発動機は、本大会で名工大、京工繊大、千葉大、日大理工、明星大、トヨタ名古屋大、鳥取大、日本自動車大学校(NATS)、名城大学、広島大学、静岡大学の11校を支援。そのうち今年からEV部門に出場する静岡大学には、試作電動モーターとインバータを貸与した。

「時代の流れを若い方は敏感に察知されているようで、とくにコロナ禍では学生の間で急速にEVシフトが加速した印象です。油と煙まみれになるような従来の自動車部のイメージもEVで変わってきていることもあるようで、EV化したことで女子部員が増えたといった大学の話もあるみたいですね」とは、ヤマハ発動機の技術・研究部門のグループリーダー・西城(さいき)雄二氏。

  • ヤマハブースでは電動モーターユニットや、不快な振動などを吸収して操縦の安定性や快適性を向上させるダンパーを紹介していた

ヤマハは一泊二日の合宿形式でエンジンのオーバーホール講習会を支援する全大学合同で開催。コロナ禍でもウェブ上で各チームの課題や悩みを共有して相談する技術相談会を実施するなど、学生同士・チーム同士で学び、意見交換する場を積極的に設けてきたという。

「なるべくオープンなかたちで各チームが切磋琢磨してもらいたいと考え、学生がより伸びるフィールドや機会を与えるような支援のあり方を目指しています。ヤマハ側が支援する各チームに求める姿勢として、風通しの良さは重視しているところです。グループ会社や海外の連携会社など、自動車業界では外部の人たちと働くことも多いので。早くから横の連携を大切にする文化に触れることが重要だと思っています」

サポート企業にとっても刺激的な大会

一方、2003年に発⾜した静岡大学の「Shizuoka University Motors」は、2004年の第2回大会より学⽣フォーミュラ日本大会に参戦。2009年総合5位、2010年総合6位・アクセラレーション2位、2013年アクセラレーション2位といった実績を持つチームだ。現在は約40名の学生が所属する。

駆動の部分を担当した静岡大学機械工学科の4年生・朝倉龍斗さんは、「最初はEVについての知識がなさすぎて、何をすればいいのかというところから始まったんですが、手厚いサポートがあってここまで来られました」と振り返る。

産学連携の一環で静岡大の研究室とヤマハは共同でEV用モーターの研究を行なっていることなどが、今回の取り組み背景となっているようで、今回のEVマシンの特徴について、次のように紹介した。

「昔から採用してきたシャフトドライブという駆動方式を、今回のEV車両でも引き継いでいます。おそらくEVでシャフトドライブというのは、うちとトヨタ東京自動車大学校さんくらいかなと。チェーンを使ってタイヤを回す方式に比べ、難易度は上がるんですが、設計やレイアウト面での自由度の高さがメリットです」

「Shizuoka University Motors」は昨年暮れの設計段階でヤマハの専門家によるレビュー実施を申し出て、自分たちが納得できるまでフィードバックを反映してきたという。

電気系の設計を担当した機械工学科3年の野田健将さんは、「基盤内での断線や接触不良がEV化で最も苦労したポイントです。トラブルの原因究明にも時間がかかって大変でした」と、開発の苦労を述べた。

EV化にあたってバッテリー購入資金をクラウドファンディングで集めるなど、幅広い経験ができたそうで、西城氏は静岡大学の学生たちの印象を「のんびり屋なところはあるんですが、愚直に車づくりに向き合っていて、地道に努力をする子たちです」と語る。

  • 野田健将さん(左)、朝倉龍斗さん(右)

「本当に1からEVについて自分たちでいろんなことを調べながら、一歩一歩進めてきたように思いますね。当社が正式にEV化の支援を始めたのは昨年2月からで、最初の1年ほどは少しもどかしい時期もあったんですが、その間にたくさん勉強して自力をつけたんだなと。とくにこの1〜2ヶ月ほどの追い込みで感じました」

各大学をサポートするヤマハの担当者の多くは、学生フォーミュラOBの若手社員たち。部署や企業の垣根を超えて協働する機会もある学生フォーミュラの舞台は、サポート企業にとってリクルーティングや若手社員の育成の場にもなっているという。

本大会で静岡大学は総合成績で63チーム中39位、EV部門は13チーム中4位となった。動的審査は未審査だったものの、特別賞として「ルーキー賞(EV部門)」を受賞。西城氏は「当社としても学生のEVマシンづくりは静岡大学が1校目で、とにかく車をこの場でお披露目できれば合格点と考えていました。まさかEV車検の審査をすべて通るとは正直、当初は思っていなかったです。本当によく頑張ってくれたと思います」とコメントした。

  • エンデュランス走行の様子

大学4年の朝倉さんは、「今年度は競技走行テスト『アクセラレーション』に出場できませんでしたが、加速性能の高さがEVの強みでもあるので、来年は『フォローアップ走行完走』と『アクセラ出場』を目標に頑張ってほしいです」とのことだった。

来年度大会でヤマハ発動機はEV部門に初出場する名古屋工業大学のサポートも決定している。