この数年のコロナ禍は、ウエディング業界にも大きな影響をおよぼした。結婚式を検討していたカップルは二の足を踏み、人生の記念すべき晴れの日は先延ばしに――。あるいは規模を縮小して身内だけで祝った、というケースも多いと聞く。ようやく感染状況も落ち着いてきたここ最近。式場の現在の状況は? そして最新のトレンドは? 赤坂アプローズスクエア迎賓館の担当支配人 西千波さんに話を聞いた。

  • ニューノーマルが浸透しつつある現在。ウエディングの形はどう変わった?

■赤坂アプローズスクエア迎賓館の特徴

取材で訪れたのは、東京メトロ赤坂駅から徒歩1分の好立地にある「赤坂アプローズスクエア迎賓館」。さくら坂と呼ばれる緩やかな坂道を降りていくと、その右手にヨーロッパ建築風の同館にたどり着く。庭付きの一軒を完全貸切にしたウエディングが叶う結婚式場だ。

  • 赤坂アプローズスクエア迎賓館(東京都港区赤坂5-3-1)

今回、話を聞いたのは、同館で担当支配人を務める西千波さん。ウエディングプロデューサーとして10年間勤め、すでに2,000組以上の新郎新婦の幸せに携わってきたと言う。

  • 2階にあるのは、光の差し込む純白のチャペル

はじめに、赤坂アプローズスクエア迎賓館ではどんな結婚式が多いのか聞いてみた。

「特に、オリジナルウエディングにこだわる方が多い印象です。例えば海外の映画をテーマにした結婚式、というオーダーもありました。かなりテーマ性に特化した結婚式を実施しています。またwithコロナの時代になり、ペットと一緒の挙式も増えました」

  • 1階には3面採光の大きな窓が気持ちの良い、緑と光に包まれる披露宴会場

■大事なことは「気づき・寄り添うこと」

結婚式場を選んでいる新郎新婦への接客や、挙式当日に向けてのプランニングも行っている西さん。仕事で大切にしていることを尋ねると『気づくこと』だと言う。その理由を落ち着いた口調で、話してくれた。

  • ウエディングプロデューサー 担当支配人の西千波さん

「私はいま30代なんですが、20代の頃とは自分の考え方も変わりました。20代のときは、とにかく楽しい結婚式を創ろう、というのを思っていました。でも30代になって、1人ひとりの思いに刺さる結婚式を創りたい、という考えに変わりました。お客様のご家庭の事情は様々。結婚式に対してどんな思いを抱いているか、こちらから気づくべきなんだ、という思いが強くなったんですよね」

そのうえで、過去のエピソードを明かしてくれた。

「赤坂で担当を始めた頃、ある新郎新婦さんが打ち合わせの際に『実は20歳の息子がいます』と話してくれました。新婦さんは30代後半、新郎さんも40代。2回目の結婚なんですと、以前の結婚生活はうまくいかなかったとあっけらかんと話してくださいました。新郎さんは『息子に結婚式って素晴らしいものなんだよって言いたいんだ、結婚に対して良いイメージを持たせてあげられてないから』って。そのとき、気づき・寄り添うことの大切さを学びました。お客様にはどういうバックボーンがあって、どういう人生を歩んできたか、まずはそれを知らないといけない。お客様の人生の背景に触れる大事さを知った瞬間でした」

さらに西さんはこう続ける。

「お客様の立場で考えると、おそらく言いたいことがたくさんあるはず。でもプランナーとの相性があったり、接する時間が短かったりで、思いをすべて伝えられないケースも、たくさんあると思うんです。そこは私たちが気づきたい。お客様の本当の意図に気づくことで、新たに提案できることもある。以来、そんな思いを大事にしています」

西さんは普段、結婚式にどんな思いを描いているのだろう。そんな漠然とした質問には「とても大げさな話になるんですが、後世に語り告げる、と言いますか……」と笑顔を見せる。

「お子さんが生まれたときに、どこでどんな結婚式をしたか、親子で写真や動画を見ながら話し合ってほしいんです。お父さんとお母さんは、こんな結婚式をしたんだよ、って。それって本当に素敵なことだと思うんですよ」

■コロナ禍で変わった風景

実はこのコロナ禍で、お子さんと一緒に結婚式をするファミリーウエディングのカップルが増えたんだそう。「結婚式が2年延期になった方など、その間にお子さんが誕生しています。だから『生まれたばかりの子に、いつか結婚式の思い出を伝えましょう』というような話題になることもあって」

本稿の冒頭でも触れたが、コロナ禍により「ペットウエディング」も増加した言う。在宅時間が長くなったことでペットを飼う人が増え、その結果、愛犬、愛猫を挙式に参加させたいと願う人が増えたようだ。「赤坂アプローズスクエア迎賓館の場合、大きな庭があります。そこでペットウエディングのニーズに応えられるんです。来年には、ウサギをお連れになる新郎新婦さんもいらっしゃいます」

ここからは話しにくい内容も聞かせてもらった。コロナ禍で結婚式をキャンセルした結果、違約金が発生するなど、新郎新婦が納得し得ない問題もあったのではないだろうか。

「ありました。新型コロナウイルスが流行しだした頃は、情勢の兼ね合いで、結婚式もキャンセルせざるを得ない状況もありました。有事でしたから、お客様それぞれのご見解は当然ございます。しかし、お客様の気持ちに寄り添いたいという思いから会社の約款も変わり、お客様にご安心して頂ける内容に一新しました。具体的には、結婚式の前日までなら日程変更が無料で行えるようになったんです」

また、同館の一軒家貸切と言う"自由度"に救われた部分もあったと西さん。

「ウエディングは、ほかのお客様が誰もいない状況で挙式できるんです。だからコロナが気になる、感染症対策が気になる、というお客様にも安心していただけます。あと赤坂界隈って、土日はぱったり人がいなくなるんです。エリア的な部分も含めて、お客様に寄り添える環境ですね」

コロナ禍に入って、イベント(演出)も変わったのだろうか。

「赤坂アプローズスクエア迎賓館の場合、あまり演出は変わらなかったんですよ。ほかの会場のように、他人の目を気にしなくて良いことが幸いしました。演出の中で需要が高いのはデザートビュッフェです。お庭でやりたいという声も多いんですが、どうしても人が集まりがち。そこで感染症対策として、順番、ルールをこちらで決めさせていただきました。ワンプレートを配り、取りに行き、戻る、といった感じですね」

依然として、オンラインウエディングのニーズも高いと言う。

「海外にいる、あるいは地方にいるご家族や友人とオンラインで繋ぎます。弊社ではテーブルのうえにスクリーン(iPad)を置き、式の進行を見てもらうと同時に、リアルの会場にいる同じテーブルの方とオンラインでしゃべる時間、一緒に集合写真を撮る時間をもうけたりしています」

またオンラインの参加者には、料理も宅配で送る徹底ぶりだ。

「お料理が前日に届くので、時間を合わせてお食事を楽しんでいただきます。ドリンク、引き出物も届きますよ。そしてオンライン参加の皆さんもドレスです。ただ単にオンラインで繋げるだけでなく、オンライン参加の方にも『一緒に参加している』気分を味わってもらいたくて。こちらでもこの2年間でオンラインウエディングの体制をしっかり整えました」

感染症対策ももちろん徹底していると言う。

「東京オリンピックの選手村などでも衛生対策に入っていたダスキンさんと共に、感染症対策のポイントを分かりやすくリスト化して招待状に同封することもやっています。『結婚式のため、私たちはこんなことをお客様に約束します』という形ですね。ゲストのお客様が『結婚式に呼ばれちゃったけど、コロナが心配で……。どうしよう』と悩まなくて良いように。また、新郎新婦さんが『ここまで対策している会場だから、ぜひ結婚式に来てね』と言い出しやすいように。その両方の意味合いがあります」

コロナ禍前後で変わったことをさらに聞いてみた。

「挙式の少人数化が進みました。ただこの少人数化のため、参加者の関係性は前にも増して密になったと感じます。従来の結婚式だと、同じグループだったから、といった理由で呼んでいたものを、コロナ禍では、本当に呼びたい人、本当に繋がっていたい人を厳選されていましたね。コロナ禍が落ち着いてきた現在は、ご招待人数も徐々に戻りつつあります。あとは新郎新婦さん、ともに挨拶されるパターンが増えた印象があります。ウエルカムスピーチを2人で挨拶したり、最後の謝辞でも、新婦さんもお話しをされるケースが増えました」

女性の社会進出とも関係があるのかも知れませんが、としたうえでその理由も話してくれた。

「コロナで簡単にお会いできなくなってしまった方に、式場でようやく会える。だから改めて挨拶したい、そんな気持ちが強くなったためだと思います。それと関連することだと思うんですが、いま『なぜ結婚式をしたいのか』と聞くと、『周りの皆さんに感謝の思いを伝えたいから』と答える方が増えました。コロナ禍でそんな思いがより強くなったのを感じます」

■結婚式とは?

西さんの考える結婚式の良さは?

「いっぱいあるんですが――。こんな幸せなことに携われる仕事って、ほかにないと思うんですよね。コロナ禍となり、お客様も辛かったですし、正直、私たちスタッフもやっぱり1人の人間なので、とても辛かったんですけど、でも改めて、こんなに幸せに囲まれた仕事はありません。お客様に『結婚式を挙げて良かった』と言われたとき。参加した方に『幸せを感じてもらえたのでは』と実感できたとき。そんなとき、最大の幸せを感じます」

最後に、結婚式を挙げようか悩んでる2人に向けてメッセージをもらった。

「結婚式は、いろんな幸せに包まれる日だと思うんです。自分だけじゃなくて、そこに来てくれた人たちにも幸せを感じてもらえます。人生の中で自分のために3度、人は集まってくれます。それは自分が生まれたときと、結婚式、そして人生を終えるとき。その中で、自分の記憶にも残るイベントって結婚式しかありません。そんな最大のチャンスを逃すのって、やっぱり非常にもったいない。もしその不安が感染症なら、それは結婚式場とプランナーの力量によって最小限のリスクまで抑え込むことができます。結婚式は、周りの皆様にとっても幸せなものです。周りの人の説得が大変なら、我々が説得します」

全社的な取り組みとして感染症対策、そしてオンラインウエディングなど、この数年で様々な選択肢が用意できた、と西さん。このコロナ禍でウエディングの幅を広げることができたのでは、と爽やかな笑顔で振り返っていた。