公開初日を迎えた空想特撮映画『シン・ウルトラマン』(企画・脚本:庵野秀明/監督:樋口真嗣)の舞台挨拶が13日、東京・TOHOシネマス六本木ヒルズにて開催され、本作のメガホンを取った樋口真嗣監督と、日本を襲う巨大不明生物=禍威獣(カイジュウ)に挑む「禍特対(カトクタイ)」キャスト5名が結集。映画の公開を祝うとともに、撮影時の興味深い裏話を語った。
まず初めに、円谷プロダクション代表取締役会長兼CEO・塚越隆行氏がスピーチを行った。塚越氏は「この映画が、ここまで素晴らしい作品になったのは庵野秀明さんの功績です。当初、庵野さんには企画・脚本として参加していただきましたが、製作委員会の強い要望により、さらにデザインコンセプト、ビジュアルアイデア、撮影指示、編集、選曲、VFXチェックなどなど、多岐にわたっての作業をしていただき、作品全体の管理から細かなところまで、心血をそそいでいただきました。改めて、この作品の最大の功労者である庵野さんを『総監修』とクレジットさせていただいて、感謝の意を表します」と語り、企画・脚本の枠を超え、作品クオリティ向上のため最大限の力を注いだ庵野氏を称えた。
続いて、『シン・ウルトラマン』キャストと樋口真嗣監督が登壇。キャスト陣には観客への挨拶とともに、公開初日を迎えた現在の心境が語られた。
禍特対の作戦立案担当であり「ウルトラマンになる男」神永新二を演じる斎藤工は「今朝8時の回にチケットを取り、本作を観ました。あいにくの天気と交通事情で上映時間に間に合わないというハプニングがありましたが、受付で名前と個人情報の確認をしまして、なんとか入場できました(笑)。みなさんと同じく、観客として作品を体感した直後です」と、自身も通常の手順を踏んで映画を観に行っていたことを明かし、この場にいる観客と思いをひとつにしていると伝えた。
神永とバディを組む分析官・浅見弘子を演じる長澤まさみは「映画の宣伝活動をしていくにあたり、言えないことがたくさんありまして、この作品の良さをもっと伝えたいという思いがあったのですが、まだちょっと自分の口から言うのはやめておきます。たくさんの方に映画館へ行っていただき、ご自分の目でこの作品の良さを確かめてほしいと思います」と、映画を新鮮な気持ちで楽しんでもらいたいため、細かな物語の内容に触れないようにして、とにかく観てほしいと強く主張した。
非粒子物理学者・滝明久を演じる有岡大貴は「今日という日が来るのを、僕自身も心待ちにしていました。みなさん、映画をご覧になったばかりでまだ興奮さめやらぬ状態。この余韻の邪魔をしないよう、お話をしていきたいと思います」と、映画上映直後の観客のことを思いやる優しさをのぞかせつつ挨拶した。
汎用生物学者・船縁由美を演じる早見あかりは「映画を観たときの感動と興奮は、今のみなさんと同じだと思います。公開初日を迎え、やっとこうやって(映画の内容についての)おしゃべりができるのかと感動しています。これまで、ずっと『言ってはダメ』なことが多く、いくつもの『ダメなことリスト』がありました」と、チェックが厳しかったことを打ち明けた。
禍特対専従班班長・田村君男を演じる西島秀俊は「僕にとってウルトラマンは、子どものころからのヒーローです。この映画に参加することができて、嬉しく思っています。まさに度肝を抜かれ、圧倒させられる内容の作品。これからみなさんと感想を共有できるというのが、ほんとうに嬉しいです」と、公開を迎えて多くの人たちと本作についての感想を分かち合いたいと笑顔を見せながら語った。
樋口真嗣監督は「庵野から『こんどウルトラマンをやるから撮って』と声をかけてもらってから、もう4年もの歳月が過ぎました。完成するまでこんなに長い期間をかけられた映画というのは僕にとって初めてですし、ここに並ぶメンバーと撮影中、撮影の後もずっと同じ時間を共有できたのは、得難い経験でした。感謝しています」と話し、盟友・庵野秀明氏からの依頼で取り組んだ本作の充実した撮影の日々と、すばらしいキャスト陣との結束の強さに心からの喜びを見せた。
本作は1966年にテレビ放映された空想特撮シリーズ『ウルトラマン』がベースとなっており、神永神二はかつての「ハヤタ隊員(演:黒部進)」と同じく「β-CAPSULE(ベーターカプセル)」なる変身用アイテムを用いる。ウルトラマンへの変身シーンについての話題をMCから振られた斎藤は「ベーターカプセルの“重量”に助けられました。物語のキモとなるアイテムで、とても美しく造型されているんです」と、ベーターカプセルの意外な「重さ」と宇宙的な造形美について感想を述べた。長澤もベーターカプセルの重みを撮影時に体験しており「ちょっとしたダンベルくらいの重さがあった」と感想を語っている。
樋口監督はベーターカプセルの造型について「シャープな線を出すために、あえてエッジを落とさず鋭いままにしているんです。そんなベーターカブセルに長澤さんが触れたとき、指を切ったりしないかどうか、撮影中はずっとドキドキしていました」と、今回のベーターカプセルで長澤が怪我をしないかどうか心配していたことを打ち明けた。また「変身ポーズで特にこだわったのは、カプセルを掲げる腕の“角度”です。一度テンプレート的にこの角度だと決めて、そこからブレないよう注意しました」と、ウルトラマンの「変身」をカッコよく見せるためのこだわりを語った。これについて斎藤は「そういうところにこだわるのがウルトラマンの現場。監督のウルトラマン愛を感じた瞬間でした」と、樋口監督のこだわりこそがウルトラマンの醍醐味であることを説明した。
「浅見がウルトラマンの巨大な手の上に乗るカット」の撮影について、長澤は「撮影のときはグリーンバックの前での演技でしたので、たぶんこうなっているだろうなという想像で演じていました。つい先日、完成した映画を観て初めて“ちゃんと(手の上に)乗っている”と確認できました」と、合成カットが想像どおりうまく行っていたことに安堵しつつコメントした。これを受け、樋口監督は「(長澤は)日本で屈指の、グリーンバック経験値の高い女優さんでしたから、まったく心配なく(合成カットを)やってもらえました」と、以前長澤が『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』(2003年/東宝)で身長数十cmもの「小美人」を演じた「実績」を挙げて、実物が目の前にない状態での演技も見事にこなせると信頼していたことを明かした。
個性派ぞろいの禍特対メンバーをまとめるポジションにいる西島は「人類がこれまで経験したことのない危機に直面していても、どこか前向きで絶対に解決できると思って最前線に立っている集団。撮影では、そういう空気を出すように心がけました。その場で対処している人たちが動揺していても、このチームは常に最善の努力をする、覚悟を決めていると思って演じましたね」と、禍特対メンバーの特色を説明した。
有岡演じる滝の見せ場のひとつに、超難解な数式をスラスラと書いてみせるシーンがあるという。これについて有岡は「撮影に入る前、科学専門誌をドサッと受け取りまして『宇宙のすべてを支配する数式』を現場で書けるようにしてほしいと言われ、まるでおまじないを唱えるかのような思いで練習をしました。その後、現場に入ったらそれとは別な数式を、新たに覚えなければならなくなりました。禍特対のみんなで空き時間におしゃべりしていると、僕だけスタッフさんに呼び出されて『数式の練習をしましょう』って(笑)。そういうときは寂しかったですけど、専門家の先生がついてくださったおかげで、撮影を乗り切ることができました」と、2種類もの数式を暗記し、書きおこすためにずいぶんと苦労したことを打ち明けた。樋口監督は有岡の労をねぎらいつつ「もしも今後何かあったら、宇宙を支配できるからね(笑)」と語り、いたずらっぽい笑顔を見せた。
早見演じる船縁もまた科学者特有の難解な専門用語を多用するセリフが多く、まず言葉の意味や読み方を調べるなど、苦労を重ねたという。斎藤は早見、有岡の役どころを「2人のキャラクターがいてくれたおかげで、非現実と現実をつなぐことができた。『シン・ウルトラマン』の世界観を築くことができたのは、2人の努力のたまもの」と絶賛した。早見は船縁のセリフを「早口」で話すことについて「もともと私は早口なんですけれど、理系の人ってスイッチが入ると自然に言葉が早くなるイメージがありました。専門用語が頭の中から普通に出てくるように話すためには、自分自身の違和感を無くさなくちゃいけないので、現場ではずっとセリフを呪文のように唱えていました。その甲斐あって、禍特対メンバー同士のセリフのかけあいをしているとだんだんリズムが乗ってきて、グルーヴ感が生まれ、気持ちよくなっていきました」と、難解なセリフの意味を調べ、理解して、自分の言葉として話す練習をしたことが禍特対メンバー同士の連帯にもつながったと語って、満足そうにほほえんだ。
ここで、『シン・ウルトラマン』主題歌「M 八七」を担当した米津玄師からの映像メッセージがスクリーンに映し出された。以下、米津のコメントをご紹介しよう。
「映画『シン・ウルトラマン』公開おめでとうございます。米津玄師です。今回、主題歌を担当させていただき『M 八七』という曲を作らせてもらいました。『シン・ウルトラマン』という映画の主題歌をまさか自分が担当させてもらえるとは夢にも思っておらず、本当に青天の霹靂というか、物凄く光栄なことだなと思っております。ウルトラマンと言うと、日本国民みんなが愛する、強く優しいヒーロー。生半可なものは作れないという意識があって大変ではあったんですけど、ウルトラマンの姿を眺めながら影響を受ける部分があり、自分自身、成長させてもらったんだろうなと思います。製作陣みなさんの熱量が痛いほど伝わってくる作品で、ここに関わらせていただいたことに非常に感謝しております。どうもありがとうございました」
最後にマイクを手にした樋口監督は「2回、3回観ていただけると、いろいろな“仕掛け”がわかってくる映画ですので、ぜひ何度でも繰り返しお楽しみください!」と、尋常ではない密度の情報が詰まっている上に、初代『ウルトラマン』への愛情がたっぷり詰め込まれている作品である『シン・ウルトラマン』を何度でも鑑賞し、味わい尽くしてほしいと語った。
早見は「さまざまなプロフェッショナルの方たちがウルトラマンへの愛を込めて作った映画だということが、観ていただければすごくわかると思います。私自身、この作品に携わることができて幸せです。今日ここに立っているのが不思議なくらいです。公開初日を迎え、やっとみなさんに届いて、これからもっといろいろな方に届くと思うと、嬉しい限り。ご覧になった方同士で語り合い、この映画のよさをわかり合ってもらいたいです」と、これからたくさんの人が『シン・ウルトラマン』を体験し、思う存分語り合ってほしいと語って目を輝かせた。
有岡は「どんな世代の方にも響く作品になっていると思います。ウルトラマンをなんとなくしか知らない人にもこの映画を観てもらって、ウルトラマンへの入門というか、好きになってもらえる入口のような作品になってほしいです。映画を観てくださったみなさんは、禍特対の一員になったつもりで、多くの人たちに映画を広めてください!」と元気よく語って、これまでウルトラマンのことを詳しく知らない人でも『シン・ウルトラマン』は心に響く作品になりうると、強くアピールした。
西島は「初日を迎えた今日、たくさんの方たちがすでに劇場にかけつけ、映画をご覧になっていると聞き、この作品がこれからますます大きく育っていくんだな……と実感しています。映画が面白かったと思われた方は、2度、3度観ていただいて、周りの人にもお伝えください。そうすると、ますます凄い作品になると、個人的に思っています。ぜひ劇場にお越しくださり、ウルトラマン、禍威獣、禍特対に会いに来てください」と、待望の公開初日を多くの観客と共に迎えられたことを喜ぶコメントを残した。
長澤は「禍特対、外星人、ウルトラマン、彼らがどんな思いでそこに居るのか、いろいろな視点で見ることのできる映画です。私自身、観終わったあとすぐに立ち上がれないくらいの感動と興奮を覚えました。同じ体験をたくさんの方にしてもらいたいです」と、『シン・ウルトラマン』の深いストーリー性に触れ、映画館でしか得られない貴重な「映像体験」を多くの人々と分かち合いたいと語った。
斎藤は「今朝、自分にとって二度目の『シン・ウルトラマン』を客観的に鑑賞するつもりが、またもやこの世界にひきずりこまれて、圧倒されました。一度目以上に、映画のメッセージ性を鋭く感じることができました。1960年代に円谷英二(円谷プロ創設者/特技監督)さんがウルトラマンに込めた『他者を思いやる気持ち』や『原初的な優しさ、愛』という思いのバトンを、当時子どもだった庵野さん、樋口さんたちが受け取って、作ったのが『シン・ウルトラマン』です。分断・孤立が加速しているような昨今、いちばん失われている『必要な概念』こそが、ウルトラマンの狭間から見られる景色なんじゃないかと、強く思います。生命の尊さも含めて、この作品に込められたものが、これから作り出される未来への希望になることを願っています」と語り、1966年に放送していた初代『ウルトラマン』から半世紀を経て、ウルトラマンの持つ深いメッセージ性と魅力の継承を目指して作られた『シン・ウルトラマン』が、新しい未来を切り拓く作品になると期待を寄せた。
『シン・ウルトラマン』は全国東宝系にて公開中。
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