お笑いコンビ・コロコロチキチキペッパーズのナダルさん初となる著書『いい人でいる必要なんてない』(KADOKAWA)には、「友だちと仲良くできないことは悪いことではないし、仲良くできなくても当たり前だとすら今の僕は思っている」という一節があります。

職場や友人との人間関係に問題を抱える多くの人たちの悩みを、まさに一刀両断するかのような歯切れのいい言葉—。一方で、ナダルさんは芸人仲間などから慕われ、仲良く交流する様子もSNSなどで発信しています。一見相反するようにも映る、人間関係のスタンスについて聞きました。

■「友だち100人できるかな」という呪縛

——著書『いい人でいる必要なんてない』では、人間関係の考え方についての記述も多く、なかでも「友だちと仲良くできなくても当たり前」という言葉は、胸に刺さる言葉でした。「悩みの9割は人間関係」ともいわれるなか、ナダルさんがそのような考えに至った経緯を教えてください。

子どものときって、「友だちをたくさんつくりましょう」という言葉を親や先生から聞かされますよね。「友だち100人できるかな」なんて歌をみんなで歌うこともあったと思います。でも僕は、友だちは多い方ではありませんでした。子どもの頃の自分は、相手に正論を強く押しつけてしまったり、その反動からくるクラス内でのいじめの対象になってしまったりして、人と関係をつくるのにすごく苦労していたんです。

でも、親や先生からの「友だちとは仲良くしなければいけない」という刷り込みがあったので、それができていないことがつらかった。いわば、無条件に押しつけられた言葉の呪縛があったということです。ただ、大人になって当時を振り返ったとき、学校という小さなコミュニティのなかで仲良くできない相手がいたとしても、それはもう仕方ないことだよなと思ったんです。

環境が合わないことはあるし、相性もありますからね。もちろんそれは、大人の社会でも子どもの社会でも同じことです。仲良くできるにこしたことはないけれど、できなかったとしても自分を責める必要はない。

——当時は、どうにか友だちと仲良くしようと試行錯誤をしていた?

「友だちと仲良くできなくても当たり前」だと気づけたのは大人になってからなので、当時は「どうしたらいいんだろう…」と悩みながら日々を過ごしていました。とくに高校時代は友だちがまったくといっていいほどいませんでしたね。当時の僕は真面目過ぎるところやとがっているところがあって、他人から笑われることも我慢できなかった。

でも同時に、友だちがいない寂しさもあった。「もっと普通に人と関われるようになりたい」という願望はいつもあって、「早く普通の人間になりたい…」ともがいていた時期でしたね。妖怪人間ベムじゃないですけど。

——(笑)。高校時代まで友だちが少なったナダルさんに、そこからどんな変化があったのでしょう?

地元を離れて大学に入りまったく新しい仲間たちと交流するようになって、僕自身、少しずつですけどとがって人を遠ざけないようにしたり、意図的にいじられるようになったりと変わることができて、友だちもたくさんできました。そのころの仲間とはいまでも一緒に釣りをするなど、卒業後もずっと交流があります。

そんな経験ができたから、友だちと仲良くできずダメな人間だと思っていた子どものころの自分を、優しいまなざしで振り返ることができるのかなとは思います。いまは気軽に連絡を取れる友だちは20人くらい、芸人を友だちといっていいのかわからないですけど、それも含めると50人くらいはいますかね。残念なことに、ほぼ男だけですけど…(苦笑)。

■売れない時代をともに味わった芸人同士の絆は強い

——芸人になられてからは人間関係に悩むことはありましたか?

僕は一度サラリーマンになったあとNSC(吉本総合芸能学院)に入りました。まわりは高校を出たてとかのとがりまくった若者ばかりだったので、自分はいじられる側にまわっていましたね。だから、ぶつかることはほとんどなくて…いや、ありました。同期の霜降り明星のせいやと大ゲンカして、3カ月くらい口を聞かなかったかな。せいやは8歳も年下なのに大人気なさ過ぎますよね、自分(笑)。

——テレビやYouTubeなどで芸人さん同士の関係を見ていると、とても強い絆を感じます。

売れていないときの芸人の日々って、かなりエグいし悲惨ですからね。ひたすら出口の見えないトンネルを掘っている感じとでもいうか…。掘る方向があっているのかもわからないし、がむしゃらに掘ったからといって必ず報われるわけでもない。

そういう経験を一緒にしてきた者同士だからわかりあえる部分はやっぱりあって、それが絆のように見えるのかもしれません。同期の霜降り明星やミキ、売れないころに一緒に仕事することが多かった見取り図さんなどとテレビ局で会えると、いまでもうれしいですよ。

——そのように苦労してきた芸人さん同士に限っては、強い信頼も生まれ誰とでも仲良くなれそうですね。

いや…でもやっぱり合わないやつは合わないですよ。ZAZYとかね。同期ですけど、あいつは会うといつも嫌なことしかいわへんので(苦笑)。

■競争になるのは、「同じようなこと」をしているから

——ただ、たとえ絆があったとしても、芸人さん同士は「競争相手」でもありますよね。そういう関係性からくる難しさはあるのでしょうか。

そこに関しては、「競争しなければいい」のだと思っています。競争になるのは「同じようなこと」をしているからであって、そうであるなら同じことをしなければいいだけのこと。自分だけの道を開拓して、その道を究めて自分を研ぎ澄ませていけば誰とも競争せずに済みます。

もちろん、芸人の世界は第一に「面白い」ということが重要なわけですけど、面白ければ必ず売れるという世界でもないから難しい。だから、面白さに自分の色を乗せていくというのは意識していますね。そうしていくことで、競争相手という意識もなくなっていくと考えています。

——競争をうまく避けられれば、見下したり見下されたりということもなくなり、人間関係は円滑にいきそうです。

そうですね。あとポイントになるのは、お笑いの基本となる「ボケ」と「ツッコミ」みたいなノリですよね。そういうものは、人と人との関係性をつくりやすくするためにとても重要だと感じています。一般の方でもそういうノリをうまく人間関係に取り込めたら、だいぶ楽になれると思うんですけどね。

でも、僕もそういうノリに甘えているところがあるのかもしれない。以前、ある先輩芸人の方が僕にネタをくれたんですよ。とても面白かったし、先輩が少し元気なさそうに見えたので「僕、このネタで『R-1グランプリ』に出て、優勝したら3万円払いますわ!」ってボケてみたんですよ。

そしたら「3万円やったら、ええわ…」って静かなトーンで返されてしまって…。あらためて、ボケってムズいなって思いました(苦笑)。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/秋山健一郎 写真/塚原孝顕