東北電力、東北電力ネットワーク、NTT東日本-東北は2021年11月、東北6県と新潟県におけるインフラ事業の業務効率化および地域課題解決の取り組みに関する連携協定を締結した。電力、通信を担う各インフラ事業者が手を取り合った理由について話を聞いてみたい。

  • (左から)NTT東日本-東北 葉玉康仁 氏、東北電力 兼子浩平 氏、東北電力ネットワーク 瀬戸寿之 氏

連携協定の「3つの柱」とは

「今回の連携協定で一番大きいのは、なによりも『東北・新潟エリアのお客さまに新しい価値を提供し、地域社会の持続的な発展に寄与していきたい』という思いです。もちろん、3社それぞれのコア事業を強化していくという面もあります。共通する事業分野が多い中で、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進によって業務を効率化し、地域の安心・安全の追求、そして災害対応力の強化を図ってきたいと考えています」(NTT東日本-東北 葉玉氏)。

  • NTT東日本-東北 設備部 エンジニアリング部門 エンジニアリング企画担当 担当課長 葉玉康仁 氏

地域のインフラを支える大手事業者らによって連携協定が結ばれた理由をNTT東日本-東北の葉玉氏はこのように述べる。東北6県と新潟県におけるインフラ事業の業務効率化および地域課題解決の取り組みに関する連携協定には、大きく3つの柱があるという。

DX推進と効率化による利便性の向上

ひとつ目の柱は、DX推進と効率化。具体例としては「立会受付WEBシステム」や「MMS活用検討」などがある。「立会受付WEBシステム」は道路工事の業務効率化を目指すもの。道路工事で掘削を行う際は、地下にある電気や水道、通信などのさまざまな埋没施設に影響を与えないよう、それぞれのインフラ企業に対して地下埋設照会の申請と立ち会いが必要になる。Webを利用してこの受付を共通化し、利便性の向上を図る。

「MMS活用検討」は、設備点検にICTを用いるDX推進。NTT東日本は、高解像度カメラ等を搭載し、道路を走行するだけで電柱やケーブルを調査できる「モービルマッピングシステム(MMS)」搭載車両を保有しており、この車両や技術を各社で活用することを検討しているそうだ。

  • インフラ事業の業務効率化および地域課題解決の取り組みに関する連携協定の3つの柱

東日本大震災の教訓を活かした災害対策と情報連携

ふたつ目の柱は、災害対策の連携と情報連携の強化だ。平時における連携強化を図りつつ、有事においては電力サービス・通信サービスの早期復旧を実現するための協力体制を整える。フィールドで仕事を行っている東北電力の作業者とNTT東日本の作業者のリアルタイムな位置や映像情報などの共有を検討しているという。

具体的には、「電柱が折れた際、近くにいる作業者がその状況を写真や動画で送り、その情報を3社間で共有して一刻も早い復旧を目指す」といったことが検討されている。

「東日本大震災では、同じ重要インフラを担う事業者として、現場レベルでかなりの連携が行われていたのです。例えば被災現場では、互いに資材や敷地のリソースを融通し合い、協力して復旧に当たっていました。平時からこのような情報共有を実現し、共同での防災訓練を行ったり、ドローンなどの技術を活用したり、意見交換や技術共有を進めていきたいですね」(東北電力 兼子 氏)。

  • 東北電力 事業創出部門スマート社会実現ユニット サブマネージャー 兼子浩平 氏

地域課題を解決しスマートシティを目指す

3つ目の柱は、地域課題の解決だ。東北・新潟エリアは、少子高齢化の影響が色濃く出ている地域といえる。影響を受ける分野はさまざまだが、例えば交通、福祉、教育に課題は顕在化してきている。3社がスマートシティ実現への貢献やアセット活用をビジョンとして大きく掲げているのには、こういった背景がある。

もちろんこれは将来的な取り組みであり、まだ具体的な内容は定まっていないが、3社は互いの持つアセットや技術を最大限に活用し、課題解決に向けたアプローチを進めていくという。一例として、スマートメーターなどが挙げられる。

「人口減少に伴い、地方ではとくにインフラ設備の担い手が減っており、非常に危機感を持っています。限られた人員でいかに効率よく設備を保守するか、そのためにも作業員の位置情報を伝え合い、人手が足りない、トラブルが発生したという場合にお互いを助け合う仕組みが必要です。また昨今は新型コロナウイルスの流行でリモートワークの普及も進んでいます。その活用も進めていきたいですね」(東北電力ネットワーク 瀬戸 氏)。

  • 東北電力ネットワーク 配電部(配電企画) 副長 瀬戸寿之 氏

連携協定への3社の期待感は?

業務の関係上、3社はもともと密接にやり取りがあったという。今回の連携協定の始まりは2020年12月ごろ、東北電力ネットワークの配電部とNTT東日本-東北の設備部が窓口となり、3社間のブレインストーミングのような形で始まったそうだ。週に一回くらいのペースで意見交換を進め、具体的に協定の形が見えてきたのが2021年7~8月ごろだった。

「同じインフラを抱えている会社同士でリレーションを活かし、一歩踏み出してみようかというところが始まりです。私どもの活動を社内でしっかりサポートする、そして社外にもそのビジョンをアピールしていくという意味でも、連携協定を結ぶべきだという流れになりました」(NTT東日本-東北 葉玉 氏)。

とはいえ、現在はまだまだコロナ禍まっただ中。現場でモノを目の前にして議論すべきところだが、お互いに直接顔を合わせるのは難しい。オンラインをコミュニケーションの主軸としながらの打ち合わせは、やはり大変な面があったという。

「現場はお互いに連携協定の必要性を感じていましたが、やはり企業と企業には利害関係があります。そのなかで意見を摺り合わせ、より良い道を探っていくことには苦労がありましたし、今後もあるでしょう。同じように膨大な設備を持つインフラ企業同士ながらも、東北電力とNTT東日本ではそのやり方が大きく異なります。しかし、そういった違いが刺激にも参考にもなりますし、連携を深めていくことが地域への貢献に繋がるという期待感を持っています」(NTT東日本-東北 葉玉 氏)。

これに続き、東北電力の兼子氏、東北電力ネットワークの瀬戸氏も連携協定への期待感を述べる。

「大規模災害時には通信・電力インフラの被災状況をお互いに把握することで、復旧の早期化が期待できます。新規事業やサービス開発などでも『NTT東日本と何か出来ないか』という発想が出てくるようになりました。それぞれの事業で培ったノウハウを持ち寄ることで、お客さまの安心・安全への取り組みを進めることが出来ますし、同時に地域の課題解決や持続的発展にも貢献できるでしょう」(東北電力 兼子 氏)。

「意見交換をしていく中で、NTT東日本が持つICTに関連する高い技術とデジタル化の浸透率には大いに刺激を受けています。連携を続けるなかで、信頼関係も醸成されてきました。社内でも多くの反響があり、本社間のみならず、現場レベルでも連携のアイデアや取り組みが進んでいます。足元はお互いの業務効率化ですが、それを実現した先にある、地域のお客さまへの還元まで協力してやって行ければと思います」(東北電力ネットワーク 瀬戸 氏)。

  • 異なる企業に所属する3名だが、インタビューの中でも信頼関係を感じられた

NTT東日本-東北の葉玉氏は最後に、改めて今回の連携協定についてまとめるとともに、東北と新潟に向けてメッセージを送る。

「今回の連携協定は、あくまで『地域のお客様に貢献していく』という大きな目的の中のひとつでしかないと捉えています。この3社でしっかりと東北・新潟のお客さまに価値を提供していくことを念頭に置きながら、効果を実感していただけるような取り組みを進めていきたいですね」(NTT東日本-東北 葉玉 氏)。