いつも悩みを抱えていて仕事が手につかない、些細なことでクヨクヨ悩んでしまう…。なんとなく心当たりがあるというあなた、それは「脳」のせいかもしれません。1万人以上におよぶ脳画像診断を経験してきた脳内科医の加藤俊徳さんに、脳の働きを理解し、脳の弱い部分を鍛える方法について聞きました。

  • 「悩みグセ」のある人は、『感情系脳番地』を徹底トレーニング! /脳内科医・加藤俊徳

■あなたの悩みは「感情系脳番地の未熟さ」が原因

……仕事で思うような結果が出せない、日々の生活がマンネリで退屈…など、多くの人が悩みを抱えています。悩みグセを解消するためには、どうすればいいのでしょうか?

8つの脳番地の中で、「悩み」と特に深い関わりを持つのが「感情系脳番地」です。

例えば、大事な商談で失敗してしまった、大切な友人とケンカしてしまった、など、「すでに起こってしまった出来事」について、いつまでもクヨクヨ悩んでしまうことがありますね。

実は、こんな行動が「悩みを増幅する作用」を生み出しています。悩みが感情系脳番地を必要以上に刺激することで、不快な感情から抜けられなくなり、その不快な感情によってさらに悩みが深まっていく…という悪循環が脳内に作られていくのです。

……「悩みのスパイラル」ですね。なぜ、このような悪循環が生まれてしまうのでしょうか? 

一言で言えば、感情系脳番地の発達が未熟だからです。私たちの脳は、右脳と左脳に分かれ、脳梁でつながっています。感情系脳番地も左右に分かれていて、右脳・左脳それぞれに異なる働きをしているのです。

左脳にある感情系脳番地は、「言葉」や「文字」「数字」などの情報をもとに自分の感情を作り出す役割を果たしています。例えば、「私は●●さんが好き(嫌い)」とか、「私はこれがしたい(したくない)」など、自分自身の気持ちや意思を作り出すのが、左脳の感情系脳番地です。

これに対して右脳にある感情系脳番地は、「映像」などのイメージや、「音楽」「場の雰囲気」など形のない情報を感受し、言葉にならない「感情」や「気分」を生み出します。

つまり、左脳の感情系脳番地は、言葉で自己確認や自己主張をする「自分の感情」をつかさどり、右脳の感情系脳番地は場の空気を読む、他者の気持ちを推しはかるなど「自分以外の感情」を読み取る働きを持っているのです。

特に近年では、パソコンやスマホ、タブレットの普及によって、左脳を使う「文字によるコミュニケーション」が主流となっています。一方、新型コロナウイルスによる生活の変化も影響して、右脳を使う「対面コミュニケーション」の重要性が薄れています。その結果、左脳にある感情系脳番地に比べ、右脳にある感情系脳番地が育ちにくい環境が生まれているのです。

  • 左右の脳番地のバランスが精神の安定につながる

■「悩みのスパイラル」から抜け出すための感情系脳番地トレーニング

……では、感情系脳番地の左右バランスを整えるためには、どうすればいいのでしょうか?

感情系脳番地を鍛えるには、気持ちを表に出したり、いつもと違うことをしたりして感情を揺さぶることが大切です。

最初におすすめしたいのが「自分をほめる日記を書く」こと。日々の生活の中で「自分で自分をほめたい」と思ったことを書き留めておくのです。内容は、どんなに些細なことでもかまいません。

書き方にも決まりはありませんが、「今日は定時で仕事を終えられた、えらい!」とか、「通勤でエスカレーターを使わずに階段を上った、立派だ!」などというように、必ず「自分をほめるひと言」を付け加えるようにしましょう。

ほめるポイントは、特別頑張ったことだけがではありません。「仕事帰りに何となくコンビニに寄るのをガマンできた、よく踏みとどまった!」など、「やらなかったことでプラスになったことをほめる」のもよいでしょう。

感情系脳番地は、思考系脳番地と相関関係にあります。ほめられてウキウキすると、感情系脳番地に隣接する思考系脳番地も一緒に刺激され、2つの番地の間に良い循環が生まれます。

また、「『楽しかったことベスト10』を決める」のも、良いトレーニングになります。つらい思いをしたときや、気持ちが落ち込んだときに、マイナスの感情を心の奥に沈め、即座に気持ちを切り替えるためのトレーニングです。

具体的には、「幼いころ、両親と海に出かけて日が暮れるまで夢中で遊んだ」「学生時代、友人たちと旅行に行って羽目を外した」というような、忘れられない思い出をいくつか挙げ、それをベスト10形式で並べてみるのです。このトレーニングは、「過去の記憶を利用して、現在の感情を意識的にコントロールする」ためのものです。

「過去の記憶を思い出す」ことは、楽しかった感情を再現することですから、その再現プロセスが感情系脳番地に刺激を与えるというわけです。

なお、楽しかった出来事を思い出す際には、「何が楽しかったのか」「なぜ楽しかったのか」という点も具体的に思い出すようにしましょう。そうすることで、当時の感情が新たな形で脳に刷り込まれるため、感情の記憶をさらに強化することができるのです。

……自分の感情をコントロールすることで、冷静な思考ができるようになり、「悩みのスパイラル」から抜け出すことができる、ということですね?

そのとおりです。人は、思考を盛り上げたいときは感情を高ぶらせ、冷静に思考したければ感情を抑えなければなりません。ところが、感情が不安定だと思考が揺さぶられてしまい、理路整然と考えることができなくなってしまいます。そのため、感情の起伏が激しい人は、感情系脳番地を鍛えることによって穏やかな気持ちを保つ必要があるのです。