会社のデスクまわりが常に散らかっている、一度はきれいに片づけたつもりでも、すぐに散らかってしまう…。「片づけが苦手」というあなた、それは「脳」のせいかもしれません。1万人以上におよぶ脳画像診断を経験してきた脳内科医の加藤俊徳さんに、脳の働きを理解し、脳の弱い部分を鍛える方法について聞きました。

  • 「片づけられない人」は、自分の弱い『脳番地』をまず知ろう /脳内科医・加藤俊徳

■脳は、トレーニングによって「作り変える」ことができる

……先生は、『部屋も頭もスッキリする! 片づけ脳』(自由国民社)という本も書かれています。片づけが苦手だと悩んでいる人は多いですが、それは『脳に原因がある』ということですか?

そのとおりです。片づけられない人は、それを「自分が持って生まれた特質」で、変えようのないものと思いがちですが、実は「脳の個性」と言うべきもので、適切なトレーニングによって「作り変えることができる」ものなのです。

私はMRI(磁気共鳴画像装置)を用いて、これまでに小児から100歳以上のお年寄りまで、1万人を超える人々の脳の画像を見て、診断・治療してきました。その結果、興味深いことがわかりました。脳は1000億個以上の神経細胞からできていますが、このうち、同じような働きをする細胞同士が集まって、脳細胞集団を構成しているのです。

思考に関わる細胞の集団はA地点、感情に関わる細胞集団はB地点、運動に関わる細胞集団はC地点…といった具合です。そして、私たちが何か行動を起こすときには、特定の脳番地が単独で働くのではなく、複数の脳細胞集団が連携して働いているのです。

■「脳番地」を知れば、自分の脳の「癖」や「弱点」が見えてくる

私は、このように同じ働きをする細胞が集まった場所を「脳番地」と名づけ、機能別に、以下のような8つの区分に分類しました。

  • 脳内にある8つの機能別「脳番地」

これらの脳番地のどこが強く、どこが弱いかは、人によってさまざまです。そのため、片づけられない人は、まず、「自分はどの脳番地が弱いのか?」を見極めることが重要です。思うように片づけられない原因を自己分析してみると、あなたの脳の使い方の「癖」や「弱点」が見えてくるはずです。

例えば、「子どもの頃から運動が好きだったから、運動系脳番地は鍛えられている。でも、人に何かを伝えるのは苦手だから、伝達系脳番地はまだまだ成長の余地があるだろう」といったことが当然あるわけです。

大切なのは、「自分の脳の特徴を知ったうえで、自分の脳に合った方法で、脳の強みを伸ばし、弱みを補強する」という発想です。

■片づけられない人は、「視覚系脳番地」をトレーニング

……8つの脳番地のうち、特に「片づけ」に関与するのは、どの領域なのでしょうか?

「片づけられない」状態を突き詰めて考えてみると、1.散らかっている状態を視覚的に認知できない、2.認知しても、何をどこに片づけるか決められない、3.散らかっていると認識していてもそのまま放置してしまう、という3つのパターンに分けられます。

1.に該当する脳番地は「視覚系脳番地」です。視覚系脳番地は空間認知機能と深く関連しているため、この部分が弱いと、目から入力された情報を正確に認識できません。そのため、部屋が散らかっていても、それが視覚情報としてインプットされずに放置してしまうのです。

最近では、Z世代に限らず多くの人が、スマホで簡単に必要な情報にアクセスできるようになったため、眼球をダイナミックに動かす機会が極端に少なくなっています。このことが、視覚系脳番地の働きを弱らせているのです。

2.と3.に該当する脳番地は、「思考系脳番地」です。思考系脳番地は、左脳・右脳それぞれの前頭葉の部分に位置しています。前頭葉は、思考や意欲、想像力など高度な機能をつかさどる部位で、思考系脳番地は「こうなりたい」と強く望んだり、集中力を高めたりする機能が集まっています。

この脳番地が弱いと、片づけの基本である「物を置く場所を決める」ことが苦手になるだけでなく、「部屋をきれいに整えたい」という意欲が希薄になってしまうのです。

……視覚系脳番地や思考系脳番地をトレーニングするために、おすすめの方法を教えてください。

視覚系脳番地をトレーニングするための、おすすめの方法は、「風景写真を撮ること」です。風景は視野いっぱいに広がっていますから、撮影するときには、より良いアングルを探そうとして、上下、左右、遠近とダイナミックに視線が動きます。これが眼球運動につながり、凝り固まった眼球を柔軟にしてくれるのです。

また、「雑踏の中でスペースを見つけながら進む」というトレーニングも効果的です。駅のホームや商店街などを歩いていると、自分の思うように進むことができずイライラするものですが、進行方向にある空きスペースを探して、どのようなルートで歩けば、ぶつからずに、素早く進むことができるかを判断しながら進んでみてください。

さらに、キャッチボールをしたり、電車の中ではスマホを見ることをやめ、視線を上げて中吊り広告や、窓の外の風景を見るのもおすすめです。

思考系脳番地を鍛えるためには、「自分の意見に対する反論を考えてみる」というトレーニングが有効です。ある事柄について、自分の意見に確信があったとしても、あえて反対意見を検討してみるのです。このように、複数の意見を頭の中で戦わせることによって、思考系脳番地が刺激され、働きやすい状態になるのです。

思考系脳番地は、運動系脳番地と連動させることによって、より活性化する性質があります。1日の始めに、スマホを家に置いて散歩に出てみましょう。「体を動かすとアイデアが浮かびやすい」という経験は誰にでもあると思いますが、これは、「思考系脳番地」が刺激されることによるものです。

こうしたトレーニングを実践して、片づけを習慣化させることで、あなたの脳はしだいに「片づけ脳」へと変化し、その状態を維持することができるようになるはずです。