「空也上人(くうやしょうにん)」と聞いて何が思い浮かびますか? その姿がパッと思い浮かんでこない人も、歴史や美術の教科書などで1度はこの"絵"を目にしたことがあるはず。

お寺仏像研究家・芸人のみほとけ(@mihotoke_chan)さんが投稿した、人間用の"あの6つの小さい仏像"が「インパクトありすぎ」と話題を呼んでいます。

  • (@mihotoke_chanより引用)

6つの小さな仏像が口から出ている「空也上人立像」の写真を見れば、誰もが「知ってる」「見たことある」と感じるのではないでしょうか。なんと、投稿者のみほとけさんは、プロの仏師の方から人間用の"あの6つの小さい仏像"をプレゼントされたというのです。

空也上人の口から出ている 「あの6つの小さい仏像」の人間用バージョンを、仏師の三浦耀山さんがプレゼントしてくれました。これはヤバいです。
本物の仏師の方が彫った、人用のまじな6つの仏像はおそらく史上初ではないでしょうか。今日から基本的にこれをつけて生活したいと思います。(@mihotoke_chanより引用)

このツイートに対し、リプライや引用リツイートでは、「ワタシも欲しいです!」「マスクの先に付けたいな」「解脱できそう」「授業用のネタに欲しいと思った日本史教師は多いのでは……」など、さまざまな反応が。特に、歴史好き・仏像好きにはたまらないアイテムのようです。

このツイートをした、お寺仏像研究家であり芸人のみほとけさんに、"あの6つの小さい仏像"の使い方や入手の経緯などをうかがいました。

"あの6つの小さい仏像"、投稿者に聞いてみた

――口から飛び出す"あの6つの小さい仏像"、どのように身につけるのでしょうか。

長いワイヤーがついており、首や耳などつけやすいよう好きな形にワイヤーを変形させて装着します。

  • (@mihotoke_chanより引用)

動くときは耳にかけるのもありですし、自分が喋ったり念仏をとなえたりするときは、首にかけて6つの「化仏(けぶつ)」が口元にくるまでワイヤーをグインと曲げたりと、自由に動かせて便利です。

――着け心地はいかがですか?

素晴らしいです。喋るとワイヤーが揺れてビヨンビヨンってなるのもなんだかリアルでいいです。

――「欲しい!」という声も多いこの6つの仏、仏師の三浦耀山さんからプレゼントされたそうですが、経緯を教えてもらえますか?

私が昔から一番好きな仏像として挙げていたのが、空也上人でした。芸人として「仏像ものまね」をしていたのですが、このことを知ってくれていた三浦耀山さんも空也上人立像について並々ならぬ想いがあったことが背景にあります。

そして、3月1日から東京国立博物館で始まる特別展「空也上人と六波羅蜜寺」に際して発足した「空也上人ファンクラブ」の公式サポーターに私が就任したことが直接のきっかけになりました。「みほとけさんがこれから空也上人のモノマネをされるのかなと思って、それに使っていただけましたら面白いかなと……」という連絡をもらい、超大喜びで「お願いします!」と返事をしました。

  • みほとけさんが公式サポーターを務める「空也上人ファンクラブ」(@mihotoke_chanより引用)

――三浦さんから制作のオファーがあったのですね。

今までは自分で紙と割り箸を使って作っていたので、かなりグレードアップしたことと、より空也上人に近づけることを嬉しく思いました。

知っているようで知らない、空也上人立像の魅力とは?

今回話題になった、“あの6つの小さい仏像”の人間用バージョンを制作されたのは、仏師であり、仏具系ポップユニット「佛佛部」の部長を務める三浦耀山さん(@biwazo)。

なお三浦さんは、Twitterで話題になった阿弥陀来迎を立体的に表現する「おきあがりドローン仏」の作者でもあります。

三浦さんに制作時のお話を聞いたところ、できるだけ本物と同じ形になるように空也上人像の写真をよく観察し、サイズ感には特にこだわったそう。また実際の空也上人立像は像高が約117cmのため、実際の人間の顔と6体の化仏の大きさのバランスが合うようにサイズを調整したとのこと。仏像で使われる「ヒノキ」を使った、プロの技術とこだわりが詰まった仏像です。

みほとけさんと三浦さん、そして多くの人々を魅了しつづける空也上人は、今からおよそ1000年前、平安京に流行していた疫病がおさまり世の中が穏やかになるようにと、十一面観音菩薩立像を造像し西光寺(現在の六波羅蜜寺)を創建した僧侶。「南無阿弥陀仏」の念仏を広めたとも言われています。

空也上人立像は鎌倉時代に仏師運慶の息子・康勝によって作られたものですが、一体空也上人のどんな姿を表しているのか、またあの6つの仏像はどんな意味があるのか、知っているようで知らないこの立像の魅力をみほとけさんに聞いてみました。

――空也上人立像は、どのような場面を表しているのでしょうか?

平安時代、空也上人が京都の街中を疫病に苦しむ人々のためにお念仏をとなえて歩き回ったという生き様の表れなのですが、本当に荒れた街中を歩いている様子が脳裏に浮かびます。

  • 特別展「空也上人と六波羅蜜寺」開催に際して制作された「空也上人立像」初の公式フィギュア。空也上人立像は約117cmのところ、こちらは全高約13cmとミニサイズだが、とにかくリアルな仕上がり。制作は海洋堂が手掛けているそう(@mihotoke_chanより引用)

――みほとけさんが考える空也上人立像の魅力は?

なんといっても、空也上人が一生懸命に歩いている姿だと思います。しかもほぼ裸足で、砂埃で汚れているようで、筋肉質で痩せた足元がとてもリアルに彫られているのが六波羅蜜寺の空也上人像のすごいところです。

また、自分が頑張りたいときに空也上人が一緒に歩いてくれるような気がするのも魅力に感じます。当時と同じく疫病の流行という困難に直面した今、この姿に惹かれ救われる人も少なくないはずです。今まさに拝みたい僧侶です!

――苦しいときに空也上人が寄り添ってくれるのですね。“あの6つの小さい仏像”にはどのような意味が込められているのでしょうか?

口から出ているアレは、「南無阿弥陀仏」という6字の名号が仏様の姿となって表れた「六体の化仏」です。お寺では「阿弥陀仏」と呼んでいます。

言葉が可視化される、しかも仏様の姿をしている、というのは、空也上人の言葉に多くの人が救われて仏をみたという事実があるのだと思います。とても言葉に力があり、心に響く念仏を全身全霊でとなえてくれていたのだなというのが伝わってきて、めちゃくちゃかっこいいですね!

――“あの6つの小さい仏像”には空也上人の言葉の力が表れているのですね。またみほとけさんは、特別展「空也上人と六波羅蜜寺」に際して発足した「空也上人ファンクラブ」の公式サポーターを務められていますよね。特別展の見どころは?

  • 特別展「空也上人と六波羅蜜寺」(@mihotoke_chanより引用)

ひとつめは、展示室の特別な照明で空也上人立像を360度拝めることです。普段、空也上人立像を所蔵する六波羅蜜寺では壁付きのガラスケースに入っているので、頑張っても斜め横の角度からしか拝むことができません。特別展ではぜひ、真横や後ろ姿まで拝んでいただきたいです。きっと新しい発見があると思います。

しかも、照明の入り方が普段のお寺の様子とは大きく違うので、さらにグッとかっこよくなること間違いなしです。水晶の入った瞳(玉眼)に注目してみてください。

――過去に六波羅蜜寺を訪れたことがあったとしても、見ごたえがありそうですね。

ふたつめは、空也上人立像に限らず、六波羅蜜寺の素晴らしい仏像のオールスターが集結することです。

空也上人が生きた平安時代の仏像、目がギラっとしている平清盛と伝わるお像、仏師・運慶が彫った仏像や運慶自身の肖像の彫刻、大迫力の閻魔王像などなど。すべて六波羅蜜寺にまつわる歴史的・仏教的な意味が背景にあることも重要なポイントで、各時代のスターが集結しているような展覧会です。

コロナ禍での開催となったことは心配されますが、タイミングを見てぜひとも足を運んでいただけたら嬉しいです。


空也上人立像のビジュアルは知っていても、空也上人の人物像や立像に込められた意味は意外と知らなかったという人も多いのではないでしょうか。特別展「空也上人と六波羅蜜寺」は3月1日から5月8日まで、東京・上野の東京国立博物館 本館特別5室で開催されます。

東京では半世紀ぶりに公開されるという重要文化財「空也上人立像」。この機会に、知れば知るほど面白い空也上人と六波羅蜜寺の世界ふれてみてはいかがでしょうか。

特別展「空也上人と六波羅蜜寺」
会期:2022年3月1日(火)~5月8日(日)
開場:東京国立博物館 本館特別5室
※事前予約(日時指定券)推奨