素晴らしい商品があっても、良さを伝えるためにはプレゼンが欠かせない。オンラインプレゼンが普及した今、その重要性はさらに増したと言える。そんな企業のプレゼンをプロデュースしているのがグローバルプロデュースだ。代表取締役社長 兼 クリエイティブディレクターを務める光畑真樹氏のお話から、プレゼンの極意を探ってみたい。

  • グローバルプロデュース 代表取締役社長 クリエイティブディレクター 光畑真樹 氏

心に響く企業イベントを手がけるグローバルプロデュース

グローバルプロデュースは、2012年4月に代表取締役社長 兼 クリエイティブディレクターの光畑真樹氏と3人の仲間によって立ち上げられたイベントプロデュース会社だ。2022年現在は、国内外で年間150本以上のイベントを企画制作している。

その主な業務は、さまざまなクライアントの代わりにプロとしてイベントを作ること。イベントには全社会議や株主総会、メディア向けの発表会といった社内向けのインナーイベント、セールスプロモーションをはじめとした社外向けのアウターイベントがあるが、同社はインナーイベントを得意としている。

光畑氏はイベントプロデュースと経営の両輪を回しつつも、企画からコンセプト策定、会場選定、プログラム作成に至るまで、多忙な毎日を送っている。当然、数多くのプレゼンテーションもこなしており、その経験から「ビジネスに革命を起こすトッププレゼンテーションの技術」(出版社:クロスメディア・パブリッシング)も執筆している。

本稿では、そんな光畑氏のプレゼンテーションに対する考え方、そして若手ビジネスパーソンに向けてアドバイスについて伺っていきたい。

プレゼンが目指すべき目標とは?

「スティーブ・ジョブズはプレゼンテーションで世の中を魅了し、あらゆるものを市場に普及させていきました。iPodを発売するときは、"ポケットに1000曲"というシンプルな言葉を強く何度も続けたり、MacBook AirのときはA4封筒から筐体を取り出して見せたり。機能を説明するのではなくて、ライフパートナーとして紹介し、そのワンシーンを切り取って見せたのです」

自ら「私はジョブズ教」と話す光畑氏は、スティーブ・ジョブズのプレゼンテーションをこのように言い表した。

「iPhoneなんて、命名の段階からプレゼンが始まっています。電話を名乗りつつも、あれはどう考えても小さなPCです。しかし、携帯電話に代わるものとして、すでにある携帯電話のシェアを奪うためにPhoneと名付けたわけですよ。すごいですよね。私は、聞いている人の意識や行動を変えることこそ、プレゼンが目指すべきものだと思っています」

目標によって具体的に目指す結果は変わるが、製品発表会であれば購買を、選挙演説であれば得票を目指すのがプレゼンだ。その結果が達成できたと言うことは、つまりプレゼンを聞いた人の意識や行動を変えたことに他ならない。

「プレゼンをする以上、その対象はまだ望む結果をもたらさない相手であるわけです。その相手にどういう効果を与えたいか、それにマッチするプレゼンを考えるのがポイントだと思います。そのためには、まず『相手のことを知る』が第一です」

大前提として、ただ自分の考えを好き放題に話したところで、プレゼンが相手に刺さる見込みは薄い。プレゼンを聞く人たちが、どういう意図でここに来ているのかを知らなくてはならないという。「参加者にプレゼントを届けるような言葉選びをし、参加者を導いていくのが良いプレゼンター」と光畑氏は自説を述べた。

そんな光畑氏自身は、あるときを境にプレゼンで照れることがなくなり、いまではどんな相手であっても変わらずにプレゼンできるようになったと話す。

「20代のころはずっと照れてたんですよ。でもある日気づいたんです。照れの根底にあるのは『恥をかきたくない』という思いだと。なんてダサいんだ、自分のことしか考えてないと思いました。相手にとって重要なのはプレゼンの内容であり、それを理解したくて来ているわけです。相手目線に立てるようになったことで照れなくなったんだと思います」

  • 「自分を捨て、相手の目線に立つことで"照れ"がなくなった」と話す光畑氏

プレゼンの心構えと技術の伸ばし方

では、光畑氏はプレゼンを行うにあたり、どのような心構えをしているのだろうか。そして、どうすればプレゼンの技術を伸ばすことが出来るのだろうか。

『ちゃんと準備をする』、つまり納得するまでプレゼンに備えることではないでしょうか。私は直前に準備することはありません。効率化や生産性が謳われる時代ですが、世界のイチロー選手が他の人より2時間早く来て柔軟しているわけですから、プレゼンの準備も人より長くやれば良いと思いますね」

そのうえで光畑氏は、自身が以前、プレゼン時に行っていたテクニックをひとつ紹介してくれた。

「プレゼンにPowerPointを使う方は多いと思いますが、スライドの下に余白があるじゃないですか。私はその部分に細かく台本を書いていました。そして本番では台本を割愛して読むだけ。もちろん情熱的に、です。『台本を読むと、アマチュアが来たと思われる』と思うかも知れませんが、しっかり台本を用意すれば話がダラダラ長くならないし、ちゃんと伝わります」

もちろんこれは、台本をみっちり書いたスライドを見せれば良いという話ではない。スライドは、説明文を読ませるものではないからだ。「現在では台本を書く機会は減っているものの、いまでも書くことはありますよ」と光畑氏は言う。

「もうひとつは『専門性を研ぎ澄ます』ではないでしょうか。みなさんは、それぞれ専門的なスキルをお持ちだと思います。見せかけのトークが上手になってもそれは相手に刺さりません。せっかくの良い商品をより魅力的に見せるには、専門性を磨き続けることが大切です。やはりこの3つがプレゼンの極意だと思いますね」

光畑氏の考える3つの「プレゼンの極意」
【1】相手のことを知る
【2】ちゃんと準備をする
【3】専門性を研ぎ澄ます

  • 『相手のことを知る』『ちゃんと準備をする』『専門性を研ぎ澄ます』が光畑氏の考えるプレゼンの極意だ

オンラインとオフラインの違いは?

通信技術の進歩と働き方の多様化、そしてコロナ禍を経て、近年はオンラインプレゼンの機会も増えている。オンラインとオフラインで違いはあるのだろうか。

光畑氏は「基本的には変わらないと思いますが、オンラインのほうが目線や表情は拾いやすくなっていると感じる」と話す。グローバルプロデュースがオンラインイベントを行う際は、リハーサル時間をより多く取るようにしているという。重要なキーワードを述べるタイミングをカメラクルーが把握し、オンラインだからこそより映えるものにしなければならないからだ。

「イベントをプロデュースする以上、ただのウェビナーとは異なる価値を生まなくてはいけません。例えば1,000万円の予算で依頼を受けたら、考えるべきはいくら利益を残せるかではないのです。大切なのは、クライアントに『超ウルトラ安い買い物だった』と思ってもらうこと。そして、それこそが当社の存在意義だと思っています」

  • 光畑氏は「与えられた予算よりも多くの価値を生まなくてはならない」とグローバルプロデュースの矜持を語る

トップのプレゼンが広告に変わる時代

イベントにおけるプレゼンの効果は非常に大きく、その影響力は情報化が進むにつれ増している。最後に、グローバルプロデュースの展望について伺ってみたい。

「『ビジネスに革命を起こすトッププレゼンテーションの技術』執筆のきっかけは、コロナ禍の中で放送された『トヨタイムス』でした。豊田章男社長がいろいろなメッセージを発信しているのを見て、『これからはトップのプレゼンが広告に変わる時代になる』と感じたんです。社長自ら発信する言葉や表現が、顧客の信頼を得るのだと。『社長は表に出るものじゃない』と考える人も多いと思いますが、市場はそれを求めています。みんなもっといろいろな企業の社長を知りたいし、好きな社長がいる企業の商品を買いたいんです。グローバルプロデュースは、そういう波を作っていきたいと思います」