思うようにならないことも多いというより、思うようにならないことだらけというのが人生です。それこそ社会人であれば、多くの人が自分のキャリアに関する悩みを抱えているでしょう。
PwC、マーサー、アクセンチュアなどの外資系大手コンサルティング会社を経て独立し、数多くのビジネスパーソンのキャリア形成を支援する人事・戦略コンサルタントとして活躍する松本利明さんによれば、その悩みは「大きく3つにわけられる」といいます。多くのビジネスパーソンが抱える代表的な悩みの解決法を解説してもらいました。
■20〜30代が抱える悩みは大きく3つの軸に絞られる
これまでの仕事を通じて、多くのビジネスパーソンと会ってきた経験から、20〜30代のキャリアに関する悩みは大きく3つの軸にわけられると考えています。それは、「好きなこと・やってみたいこと」の軸、「得意なこと・向いていること」の軸、「儲かること」の軸の3つです。それぞれ解説していきましょう。
◆「好きなこと・やってみたいこと」の軸
どうせ働くのなら、嫌いなことややりたくないことより、好きなことややってみたいことを仕事にしたいと思うのは当然ですよね。「好きなことを仕事にできていない」「好きなこと・やってみたいことが見つからない」といったものがこの軸での代表的な悩みです。
◆「得意なこと・向いていること」の軸
「好きなこと・やってみたいこと」と似ていると感じるかもしれませんが、これは、好き嫌いは抜きにして、とくに意識せずともうまくこなせるようなことです。たとえば、子どもの頃から短距離走が速かったという人は、好きか嫌いかはともかく大人になっても短距離走が速いもの。この軸の代表的な悩みは、「得意なことを仕事にしていて、評価されたり出世したりもしたけれど、人生これでよかったのか、なんだかむなしい」といったものです。
◆「儲かること」の軸
社会人であればほとんどの人が持つ悩みです。たとえば、同じ人事の仕事をしていたとしても、テレビ局に勤めているのか、低収入がたびたび問題視される介護業界で働いているのかでは、その収入に大きな開きがあります。
とくに、社会人になって間もない頃と比べると、30代ではその差はよりはっきりとしたものになりますから、「儲かること」について悩むのは必然です。代表的な悩みは、「働いた分だけの報酬を得られていない」「働いて出世しても報酬が上がらない」といったものです。
■「楽しいと感じるポイント」から、好きな仕事を見つける
では、それぞれの代表的な悩みを解決するヒントをお教えしましょう。まずは、「好きなことを仕事にできていない」「好きなこと・やってみたいことが見つからない」という悩みについて。そもそもの話をすると、20〜30代の若い人がいう「好きな仕事・やりたい仕事」というのは、ほとんどすべてがただの「情報」に過ぎません。
なぜなら、ユーチューバーの仕事について知ったからユーチューバーになりたい、ウェブニュースの記事で見た若手のベンチャー経営者が格好よかったからその会社で働きたいなど、なんらかのかたちで情報が入ってこないと「好き」だとか「やりたい」とは思えないからです。
でも、それではただ情報に振りまわされているだけ。しかも、世の中にはいまの自分がまだ知らない仕事が数限りなく存在します。うわべの情報を追うだけでは、本当の意味で自分が好きな仕事ややりたい仕事は見つからないでしょう。
そこで、本当に自分が好きな仕事ややりたい仕事を見つける方法をお伝えします。それは、「楽しいと感じるポイント」をリストアップすることです。同じ仕事をしていても、人によって楽しいと感じるポイントは異なります。
同じITエンジニアの人たちでも、画期的なアプリをつくって周囲から「すごい!」と認められることが楽しいのか、自分のつくったアプリを使った多くの人から感謝の声が届くことが楽しいのか、それともアプリをつくり上げた瞬間に達成感を得られることが楽しいのか、それは人それぞれ。
そこで、いまの仕事はもちろんのこと、これまでの仕事の経験のなかで自分が楽しいと感じる、あるいは感じたポイントを書き出してみましょう。そうすることで、自分が楽しいと感じるポイントの多い、つまり好きな仕事を見つけるヒントを得られます。先の例でいえば、誰かに感謝されることが楽しいと感じる人なら、ITエンジニアより日常的に多くの人に接する接客業に就いたほうが、より楽しいと感じられるかもしれません。
「好きな仕事」というと、つい「職種」で考えてしまうものです。しかし、「楽しいと感じるポイント」にフォーカスすれば、職種にとらわれることなく本当の意味で好きな仕事が見つかるはずです。
■得意なことだけをしていると、むなしさを感じる
続いて、「得意なことを仕事にしていて、評価されたり出世したりもしたけれど、人生これでよかったのか、なんだかむなしい」という悩みについてです。得意なことを仕事にすることが理想的だと多くの人が考えますが、得意なことだけをしていると人生がある程度進み、ふと、振り返った時に人生がむなしく感じられるようになります。
得意なこととは、自分の「資質」に合っていることです。そして資質とは、心理学的にいうと、だいたいその半分が遺伝的に決まっており、残りの半分が20代半ばまでに決まるという、「変わりにくい個人の特性」だといいます。これは、好き嫌いとは関係ありません。絵を描くことにまったく興味がないにもかかわらず、なぜか器用で絵がすごくうまいという人もいますよね。
資質に合っていることを仕事にしていると、それにかかわるスキルは伸びやすく結果も出やすいものです。もちろん、そのためにその業界での評価もどんどん高まっていきます。仕事内容によっては、周囲より儲かるようになるということもあるでしょう。
ところが、その得意なことがまったく好きではないことだったとしたらどうですか? ある日突然むなしさを感じ、「仕事にやりがいを持てない」と悩むようになってしまいます。では、どうすればいいかというと、その仕事のなかに「好き」を見つければいいのです。
過去にわたしがアドバイスをした人を例に挙げましょう。彼はコンサルティング会社に勤務する30代のエース会計士で、リスクマネジメントをクライアントに提供する仕事をしていました。慎重派で分析能力に長けた人だったので、クライアントが抱えるリスクを見抜くことが得意だったのです。しかし、そのようにクライアントにダメ出しばかりをして嫌な顔をされることに、彼の心は疲弊してしまいました。
わたしがよくよく話を聞いてみると、彼はリスクマネジメントを得意としながらも、誰かに感謝されることが好きだということがわかりました。そこでわたしは、「リスクを指摘するだけでなく、リスクの回避法まで提案してはどうか?」とアドバイスしたのです。すると、クライアントはびっくりするくらいよろこんで感謝してくれたそうです。もちろん、その後の彼は生き生きと働いています。
もともと得意なことであれば、最初から資質に合っていることなのですから、そのなかに「好き」を見つけることは難しくないものです。。少しだけ工夫をして、得意なこととのなかに好きなことを組み込めるようにしましょう。
■資質を活かせなければ、稼ぐための転職にも意味はない
最後は、「働いた分だけの報酬を得られていない」「働いて出世しても報酬が上がらない」という悩みについて。お金だけが人生ではありませんが、お金がなければそれだけ人生の選択肢が狭まるのも事実です。どうせ働くのなら、しっかり儲けることを考えたいものです。
儲かるか儲からないかは、事業の収益性で決まります。わかりやすくいうと、ビジネスモデルのちがいです。儲かりやすいビジネスモデルであればたくさん利益が出て従業員に高い給料を払えますが、儲かりにくいビジネスモデルであれば多くの利益が出ないため従業員に高い給料を払えないということです。
たとえば、ドラッグストアやスーパーで安売りされるティッシュペーパーやもやしにはとんでもない高級品というものはないでしょう。庶民が日常的に使うものですから、コストを抑えて安く売ることしかできないからです。そのため、それらの会社の従業員に払える給料にも自ずと限度が出てきます。ですから、より儲かるビジネスモデルを確立している業界や企業への転職を考えることが第一となります。
ただ、その転職先で活躍できなければ意味がありません。格闘技ゲームのキャラクターがレースゲームに登場したところで活躍できるはずもないですよね? つまり、稼ぐためには、自分のキャラクターなり得意なことをしっかり認識することが大切なのです
では、得意なことを見つけるにはどうしたらいいでしょう? それにはいくつも方法がありますが、ここでは「ありがとうの声を集める」という方法を紹介します。自分ではあまり自覚できていなくても、じつは得意だというものはあります。それを知るために、周囲の人からどんな「ありがとうの声」をもらっているのかを振り返ってみるのです。
「仕事が『速くて』ありがとう」なのか、「『気が利く』提案、ありがとう」なのか、「『正確な』仕事をしてくれてありがとう」なのか—。周囲からの「ありがとう」の中身を知ると、自分の得意なことが見えてきます。転職するのなら、その得意なことを活かせる業種や職種を選ぶべきです。もちろん、先にもお伝えしたように、そのなかに「好き」を見つけることも忘れないでください。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人