長期化する新型コロナなどの影響により、仕事や生活でストレスや悩むなどを感じている人が多いようです。

そこで、2021年12月に『丁寧道 ストレスから自由になれる最高メソッド』(祥伝社)を上梓し、日々楽しく幸福感を得ながら、仕事やプライベートを充実させている書道家の武田双雲さんに話を伺いました。2回に分けてお届けする今回のテーマは、閉塞感のある世の中で、心を軽くして生きるコツについてです。

悩んだら違うことをやって、悩む時間を短くする

――双雲さんのSNSやブログを拝見すると、毎日を生き生きと過ごしていて、疲れ知らずのイメージがありますが、ストレスはあまりためない方ですか?

双雲さん: 昔はよく悩んでいましたが、自分なりに工夫するようになって、今はあまり悩まなくなりましたね。コツは悩む時間を短くすることです。

僕はADHD(注意欠陥・多動性障害)なのですが、その特性を活かして、何かに悩んだり、ぶつかったりしたら、違うことをやるようにしています。それを続けていると、長く悩まずにすむので、気持ちを切り替えられます。やはり悩む時間が長くなると、どんどんつらくなってきますから。

その他には悩みを抱えすぎて、イライラしている時の気持ちを落ち着かせる対処法もあります。

――それは、どういうものですか?

双雲さん: 「恐怖」「怒り」「不安」など……いろいろな負の感情が入り混じっていますよね。でも、それって必ずしも悪いことではないんです。傷つかないように自分を守るための「防御反応」だと、私は思います。

恐怖を感じることで危険を回避し、怒ることで相手を威嚇して自分の身を守っているのです。だから、悩みを抱えていることを否定せずに、ありのままの自分を認めるようにしましょう。

会社だと、上司や先輩から「ネガティブはダメ。もっとポジティブに考えろ」とか言われることがよくあると思いますが、それによって「このままじゃあ、ダメなんだ」と、自分をさらに落ち込ませる原因になったりするので、できる限り耳をかさないようにするのも自分を守る方法の1つです。

悩んだ時の感情は、自分のリスクマネジメントになるので、まず自分の中の感情に対して興味を持つことが大事です。そうすれば、気持ちも落ち着いてくるので、次第に悩みにも向き合えるようになります。

目の前のことに夢中になれる『丁寧道』とは

――社会の中で生きていると、周囲の評価が気になったりしますよね。あれも悩みを産み出す要因だと思いますが、いかがですか?

双雲さん: そうですね。特に仕事などでは、取引先や上司・同僚などの評価は気になると思います。僕も評価を気にしている時は、書道での筆の動きが本当に鈍いです(笑)。

評価を気にすることで、いつも以上に心や体が硬くなり、気を遣うあまり、疲れやすくなってしまいます。評価や評判を忘れるぐらい、目の前のことに夢中になって楽しんだ方が、エネルギーが入りやすいし、ミスなども少なくなります。

だからと言って、人に認められないよりは、認められた方がいいですし、地位や名誉もないよりは、あった方がいいと思います。だから、本当にそれらを得たいのであれば、目の前のことに集中して、評価を気にしない方が得られる確率は高まります。

――本番に弱いタイプなので、双雲さんの指摘される理由は非常に納得できます。しかし、周りを気にせずに目の前のことに集中するのは、口で言うほど簡単にはできない気がします。どうすれば、できるようになりますか?

双雲さん: それが、私の提唱している「丁寧道」です。これは、日常生活を視覚・聴覚・触覚・味覚などあらゆる五感をフル活動して、丁寧に楽しみながら行います。

例えば、朝食を作る時、パンやソーセージなどに包丁を通す感触、レタスなどをちぎる手触り感、スクランブルエッグを炒める時の「ジュー」という音に集中してみる。

普段、かきこむように食べているランチなどもそうです。例えば、ラーメンだったら、汁の色を眺め、豚骨だしの香りを感じながら、ひと啜りする。そして麺のコシ、チャーシュー・メンマなそのかみごたえを、楽しみながら味わってみる。

こうして対象を丁寧に感じ尽くして、無邪気な感覚を呼び戻すことで、「今ここ」に集中できるようになってきます。すべての行動を同じようにするのは難しいと思うので、できるところから始めてみてください。

「〜のため」に行動すると、義務感も増える

――「丁寧道」は、マインドフルネスと同じような考えだと思いますが、「今この瞬間」を集中したいけど、「やらなくちゃいけない」ことがありすぎて、集中できないという人も多い気がします。

双雲さん: いろいろな理由が考えられますが、一番多いのは「~のために(目的達成)、やらなければならない」と思って行動しているからではないでしょうか。目的のためにアクションを起こすのは、非常にポジティブな考え方ではありますが、その反面、目的達成ばかりがフォーカスされ、それによって「やらなくちゃいけないもの」を背負ってしまいがちです。そうなると、どんどん「義務感のために、頑張らなくては」となってしまいます。

日常生活においても「仕事に行かなきゃ」「家へ帰らなきゃ」「ご飯食べなきゃ」となっている人が少なくないと思いますが、本来は当たり前のことなのに、非常に大変な行為のように感じてしまっています。

――「しなくちゃいけない」ことを減らす方法はあるのでしょうか?

双雲さん: まず今抱えている「しなくちゃいけない」リストを作ることです。こうして、自分がどれだけの「しなくちゃいけない」ことを抱えているかを可視化するだけで、一歩前進です。次に、そのリストを眺めて、本当に「しなくちゃいけない」ものなのかどうかを、その時の気持ちになって1つひとつ検証してみましょう。

例えば、子どもとの遊びの時間も、本来は「もっと家族との時間を持ちたい」と思っていたはずなのに、忙しさのあまりいつしか義務感になってしまったということもあるはずです。「しなくちゃいけないと思い込んでいたけど、そうじゃないんだ」と気付いて、手放せる「義務感」もあるかもしれません。

このように、実はやりたかったことなんだと、義務感を意欲に変換できることができれば、「今、この時間」をもっと楽しく過ごせるようになって、「しなくちゃいけない」ことも減らせます。もし「義務感」のようなものが出てきたら、一度それを止めて、他のことをしてみることです。

目の前のことに「興味を持ったり、丁寧に行ったりすることで、今のその瞬間が楽しく過ごせるようになってきます。そうなれば、目標に固執しなくても、充実した毎日を過ごせるはずです。まずは、丁寧に行う「行動」から、認知を変えていければいいのではないでしょうか。

次回は、人生を好転させる方法についてお伺いします。お楽しみに。

取材協力:武田双雲(たけだ・そううん)

1975年熊本生まれ。就職から約3年後に書道家として独立。独自の創作活動で注目を集め、映画やNHK大河ドラマをはじめ、数多くの題字、ロゴを手がける。近年は、文化庁の文化交流使への任命、オーガニック食材を使った店舗のプロデュース、現代アーティストとしての創作や個展開催など、活動の幅をさらに広げている。