12月25日、Zepp DiverCity(TOKYO)にて、” Yu Serizawa 2nd Live Tour 2021 好きな人がいるだけで。”の東京公演が開催。声優・芹澤優による2年ぶりの全国ツアーのファイナル公演となったこの日のライブは、楽曲の披露に朗読劇も絡めた独自色の強いものに。歌やダンスに加えて芝居まで、彼女の”表現”を心ゆくまで味わえるものに仕上がっていた。本公演では、そのうち夜の部の模様をお届けする。

●ときに盛り上がり、ときに魅了し……序盤からみせるアーティストとしての多面性

まずはブルーのライトがステージを照らすなか、ポップなinterludeに乗せてまずはバンドメンバーが、続いて芹澤がステージに登場。ブルー一色に染まった客席を前に、「Voice for YOU!」でライブの幕開けを飾る。1サビ明けではステージ中央でのスピンの勢いを利用してステージ端へと駆け出していったり、大サビでは歌詞になぞらえてブルーの”景色”を覗き込んでみたりと、のっけから見せ場満載。

会場中の観客のハートをいきなり見事に巻き込んでみせる。続く「ハイハイハイハハイテンション」でも、2-Bメロの歌詞「奥の奥」に合わせて客席の奥を指差してファンとの一体感をさらに強化。サビでは芹澤の腕に合わせて、たくさんのペンライトが左右に揺れる。またDメロでは、「君だけのナンバーワン」のフレーズで客席中の”君”を次々に指さし、「ツアーファイナル、全員後悔することなく騒ぎつくせー!」とシャウトし大サビへ。会場は、さらに盛り上がりを増す。

そうして早くも熱気を帯びたファンを前にした最初のMCでは、2年ぶりとなるツアーを1stツアーと同じメンバーによる”神バンド”と回れる喜びをあらわにしつつ、「このツアーは気持ちがジェットコースターになるツアー」とこの先の展開を予告。「ノンストップでいくぜー!」のシャウトとともに「神×太陽×サマーパーティ」からライブを再開する。

声は出せずとも大きく揺れるペンライトの動きは、その呼びかけに呼応したファンの心を象徴しているかのよう。芹澤も1階・2階の客席、さらには配信用カメラにも笑顔を振りまきつつ、ときに歌詞にもマッチするぱたぱた感をダンスに織り込み、この曲ならではのみせ方でも楽しませてくれた。

かと思えば、その雰囲気をガラリと変えたのが、芹澤が『キラッとプリ☆チャン』で演じる赤城あんなのキャラクターソング「ヒロインズドラマ」。このラテン調の情熱的なナンバーでは、ときにふわっと跳ねたかと思えば切れ味鋭いスピンも織り交ぜ、メリハリついたダンスでしばしの間”魅せる”世界へとファンをいざなっていく。歌唱中の表情も単なる笑顔ではなく、堂々たるものへと変化する。

さらに、ピンクのスポットライトに当たったキーボードのソロを経ての「PRINCESS POLICY」は、そのキーボードとともにジャジーでオトナな雰囲気をまとわせた頭サビの歌唱からスタート。頭サビが明けてサウンドが激しくなってからは、時折指さしなども織り交ぜた振付で小悪魔にファンを魅了。

大サビ前のブレイクでのセリフや、大サビ高温部分の息遣いにセクシーさも醸し出して、ちょっとオトナなプリンセス像を形にする。さらに「まだまだこんなもんじゃないでしょー!?」とファンを煽って、『乖離性ミリオンアーサー』で演じるベイリンのキャラソン「Out Of Control!」へ。荒々しいサウンドに対してぐっとアクセルを踏み込み、一本の芯とパワーを兼ね備えた歌声で見事に乗りこなしていく。また、2サビ明けには髪を振り乱しながら、パフォーマンスでもさらなる盛り上がりを先導していく芹澤。だがそのなかで、思わずうれしそうな表情をこぼす瞬間も垣間見られた。

●観る者の心を揺さぶる朗読劇と、続けて披露される楽曲

ここでステージは暗転し、かすかに雨音流れるなか始まったのが、今回のツアーにおける特徴であり醍醐味でもある朗読劇。物語の主人公は、大学の写真サークルで出会った先輩に淡い恋心を抱く女性。まずここで朗読されるのは、卒業を迎える先輩へあてた出会いから今までの思い出を振り返るような手紙。表情を乗せて的確に、それでいてナチュラルに、ほのかに恋心も乗せつつ言葉にしていく。

そしてその手紙を読み終えると、ステージ上の白いポストに投函。手紙には記せなかった「好きです」の言葉をつぶやき、歌い始めたのは「Imaginary」。大きな愛を歌ったバラードは、この内容の朗読劇に続くことで、そして微笑みつつも目をうるませながら優しく歌われることでまたあらたな表情をのぞかせる。音源よりも少し息多めに、ベールのような透き通った要素を歌声にプラスしていたのも、非常に効果的に感じられた。

そしてそのまま後奏が加速すると、スタンドからマイクを外しての「片思いExpansion」へ。笑顔で歌われる爽快なロックだが、直前までの物語を下敷きにするとかえってせつなく聴こえてしまうのも不思議なところ。それも彼女が形作ろうとした世界が、しっかりとこの会場に構築されていたからこそのものだろうか。さらにもう1曲、爽やかなピアノロック「告白」を続けて披露する芹澤。手紙に手書きで書かれたような歌詞をステージ奥のスクリーンに、リリックビデオのように映しながら披露されたこの曲は、前半のヤマ場。

特に1サビのストレートな歌詞は彼女の”好きな人”であるファンへの想いにもあふれたものであるのと同時に、朗読劇の不器用なヒロイン像にも重なるもの。そんな曲だからこそ、笑顔で歌いながらも、芹澤の目からは自然と涙がこぼれていたのだろう。

……と、Dメロが終わったところで曲が閉じられ、朗読劇の続きがスタート。ここで言葉として紡がれていくのは、少々時が経ち、海外で活躍する先輩に向けた手紙だ。そこではアシスタントとして声をかけてもらい、自分の力を買ってくれたことへの感謝を述べつつも、先輩にできた彼女への配慮を装って、ほのかな後悔とともに別れを告げる。それをポストに投函し、スタンドマイクのもとでスポットライトに当たってから歌い始めたのは、「今夜も月がきれい」だった。

元々この曲自体失恋を歌ったバラードではあるのだが、ここまでの朗読劇とここでの芹澤の歌声がさらに、悲しさを膨らませる。2サビ最後のフレーズ、極限まで弱々しく、かろうじて絞り出したかのようにかすれて消えていく歌声は、それがもっとも胸にくるポイントだった。そう感じさせるほどに、芹澤がこの曲と朗読劇の主人公に没入していたのは、後奏で頬を伝う涙にも表れていたように思う。

こうしてストーリー仕立てで、8曲を続けて歌い終えた芹澤。ここでの自身としてのMCでは、ツアー序盤の緊張感や手探り感や、セットリストの調整をはじめ試行錯誤してきた2ndツアーを振り返る。また前半に盛り込まれた朗読劇は、会えない間にもファンに「どうすれば楽しんでもらえるかな?」と考え、葛藤の末に盛り込むことを決断したという経緯も素直に吐露。だが”ファン=好きな人”のことを考える時間も楽しいと語り、最後には照れながらも「みんな……好きです」と口にしていた。