現在、45ケ国の国籍からなる約3,700名ものコワーカー(従業員)が従事しているイケア・ジャパン。

一人ひとりがいきいきと自分らしく働けるように、同社では「真摯で前向きな方に、プロフェッショナルとして、人間として、成長する機会を提供すること」を人事理念に掲げ、コワーカーのキャリアなどを支援している。

具体的に、どのような人材育成や採用を行っているのだろうか。イケア・ジャパン本社の人事マネジャーの小山寛さんに伺った。

  • イケア・ジャパン 本社人事マネジャー 小山寛さん

新卒・中途関係なく、誰もが応募できる「通年採用」を導入

――ホームページを見ると、各店舗や各部署で多くの職種を募集しています。基本的には中途採用がメインなのでしょうか?

小山さん: 以前は新卒採用も行っていましたが、現在は誰でも応募できるように「通年採用」に切り替えました。採用の際には、経験やコンピテンシーなどで判断しますが、その結果、新卒入社するケースも少なくありません。

――新卒者だと経験のない人が大半だと思いますが、経験だけで採用しないということでしょうか?

小山さん:イケアには「8つのバリュー」があり、これに基づいて選考を行っています。もちろん経験はアドバンテージになりますが、必ずしも経験だけで評価は行っていません。面接では、面接官が当社の大切にしている「8つのバリュー」に合致しているかどうかを必ず見るようにしています。

  • イケア「8つのバリュー」

経験だけでなく「コンピテンシー」や「ポテンシャル」などもチェック

――採用面接はどのように行っているのでしょうか?

小山さん:募集しているチームのマネジャーがその採用の責任者になりますので、マネジャーと人事スタッフが一次面接を行います。マネジャーは、おもにコンピテンシー(性格や行動特性)、人事スタッフは当社のバリュー&カルチャーに合致しているどうかをチェックします。

二次面接では、チームのマネジャーの上司が新たに面接官として入り、イケア・ジャパンに入社した後の「ポテンシャル」をチェックします。それによって、入社後のさまざまな能力開発につなげていきます。

自分でキャリアを選べる「オープン・イケア」

――御社は「自分のキャリアを自分で決めていく」という考え方があるとお聞きしていますが、コワーカーの皆さんは、入社後どのようにキャリアを築いていけるのでしょうか?

小山さん: イケアでは、世界各国の「空きポジション」を公開し、コワーカーは興味のあるポジションに自由に応募できます。

例えば、今人事マネジャーだから、次はその上のポストに「必ずしも就く」と決まっているわけではないのです。傍から見れば一貫していないキャリアを築くことも可能ですし、家族の状況に合わせて雇用形態を変えたりすることもできます。自分が納得してやりたいと思うことをどんどん選べる。これを当社では「オープン・イケア(社内公募制)」と、呼んでいます。

――具体的には、どのようなキャリアを歩んでいるのでしょうか?

小山さん: そうですね、例えば、300~500人のコワーカーをまとめるストアマネジャーという職種のなかには、今は家族との時間をもっと持ちたいという本人の希望で、フルタイムの正社員ではなく、短時間正社員として勤務している人が海外のイケアにいます。もちろん、再び仕事に集中したいとなれば、フルタイムに戻ることも可能です。

また「セールス」からスタートして、次に「安全管理」のポジションに就いた後、人事として他国でコーチなどを経験し、今はイケア・ジャパンのタレントを育てるマネジャーを務めている同僚もいます。

本人が「次はこれをやりたい」と思えば、異動をして、いろんな仕事を経験することができるのです。

  • イケア・ジャパン本社オフィス

メンバーのキャリアをサポートすることで、チームのモチベも高まる

――新たな部署へ配属になると、現部署のマネジャーは非常に困ると思いますが、マネジャーの皆さんは反対したりしないのでしょうか?

小山さん: チームを運営するマネジャーからすると、メンバーが抜けるのは大きな痛手だと思います。

ただ同時に、こういうふうに「自分で自分のキャリアを選べる」土壌というのはみんなが周知していることなので、「あのマネジャーは、メンバーのキャリアについても一生懸命サポートして快く送り出してくれる」ということがチームに伝わると、次は「私も頑張ろう」と他のメンバー(コワーカー)もやる気になり、そのチームのモチベーションが一気に上がります

だからイケアのマネジャーは、日頃からメンバーのキャリア相談にも乗りますし、「これやってみない?」と声をかけて、将来のキャリアにつながる仕事をどんどん与えていきます。この好循環を作れるかどうかが、マネジャーの腕の見せ所だと思います。

メンティーが目指すキャリアをメンターが手厚くサポート

――やりたいことに手を挙げて行ってみたが、「思っていた仕事と違う」「思うような成果を上げられなかった」と言うことにならないように、事前に上司などに相談できる機会などはあるのでしょうか?

小山さん: それで言うと、2つの方法があります。1つは、直属のマネジャーからアドバイスをもらうこと。マネジャーは、メンバーのキャリアを支援してくれるので、「次にあのポジションにチャレンジするなら、◎◎能力が必要なので、今はもっとこういう仕事に注力したほうがいい」という話をしてくれます。

もう1つは、同じキャリアを歩んできた先輩(メンター)から、定期的にアドバイスをもらえる「メンター制度」を活用することです。後輩(メンティー)は「手を挙げて選ばれると」誰でも受けられますが、メンターは社内でコーチングなどのトレーニングを受けた人だけがなることができます。

メンティーが目指すキャリアと、メンターが持っている経験をもとに、人事課でマッチングを行ってメンター・メンティーを組み合わせます。このメンター制度は2020年にスタートして、多くのコワーカーが利用しています。私自身、今の人事マネジャーになる前は、このメンター制度を活用しました。

当社としても、次世代のリーダーを積極的に育てていきたいと考えから、この「メンター制度」を推進しています。

――メンター制度を活用して、良かった点はどこですか?

小山さん: 私は半年間メンターについてもらいました。ミーティングの頻度は、当事者同士で決め、私の場合は月に1回ペースでアドバイスを受けました。やっぱり一番の魅力は、自信を持って新しいポジションにチャレンジできる点だと思います。

自分のやりたいことや自分の目指すポジションにつけるので、自分自身のモチベーションにつながります。その状況で、周りからの信頼を勝ち取れるかどうかは、やはりその仕事に自信を持って取り組めるかどうかが、大きく左右します。

一歩前を歩んできたメンターから、その仕事への向き合う姿勢や失敗したときの対策などを学び、「君なら大丈夫だ!」という後押しをもらえることで、勇気をもらえたり、先が見えない今の立ち位置を再確認できたりするので、メンティーにはものすごく大きなメリットだと思います。


自由にキャリアを選択できる環境があるだけでなく、自信を持って自分のキャリアを選択できる制度も整っている同社。人生100年時代と言われる今、ビジネスパーソン一人ひとりがキャリアオーナーシップを持てるかどうか重要になってきている。

例え今の仕事を離れても、先を見据えて、自身のキャリアをしっかり構築できるスキルが身に付く企業を選ぶ。就活生、転職希望者ともにそうした視点が必要だろう。

取材協力:小山寛

2007年にイケア・ジャパン入社。店舗(IKEA鶴浜、IKEA長久手)の人事マネジャーを経て、2019年に本社オフィスの人事マネジャーに着任。趣味はアウトドア散策。IKEA Dagis(事業所内保育施設)に3歳の娘と通勤・通園する父親でもある。