トヨタ自動車の新型「ランドクルーザー」が大人気だが、このクルマを待ち望んでいた人は世界中にいるはずだ。日本では街中を優雅に走っているランクルも、世界では砂漠を駆け抜けたり、地引網を引いたりと、さまざまな使われ方をしている。
世界はランクルをどう使っているのか
ランドクルーザーは初代が誕生してから70年間で累計1,060万台の生産台数を誇る人気車種。各世代のクルマが世界170の国と地域で活躍しているという。それぞれがどんな舞台で使われているか、トヨタの発表資料から探ってみる。
まず、今回の新型ランクル(300系)が属する「ステーションワゴン系」は、中東が販売の中心だ。例えばサウジアラビアでは、首都のリヤドと商業都市のジェッタが900km以上離れているが、ランクルユーザーは摂氏50度を超える砂漠の高速道路を、暑いので止まることをなるべく避けつつ、可能な限りのスピードで一気にぶっ飛んでいくのだという。
アラビア半島南部の国境には険しい山岳オフロードがある。UAEやオマーンの海岸線にある平らな砂漠では、漁師がランクルで地引網を引いているそうだ。ランクルで巡る砂漠ツアーもある。
またオーストラリアでは、轍で路面が洗濯板みたいになった「コルゲート路」、通過後には何分間か視界が遮られる「アンシールド路面」、降雨後に泥濘になった場所など、過酷な環境の中を何時間もガンガン走るという使われ方をしている。ここでは、ヘビーデューティの「70系」を加えた3つの系統が均等な割合で選ばれているという。
さらにアフリカでは、ケニアの高速ダート路やタンザニアの山岳路、カメルーンの泥濘路など、整地されていない道なき道で70系が圧倒的な支持を集めている。国際機関の人道支援や医療、教育活動のためにはステーションワゴン系も少なからず使われているとのことだ。
こうしたハードな場所での使用に関しては、「どこへでも行き、生きて帰ってこられる相棒」と呼ばれるほどの走破能力とともに、壊れないという信頼性と耐久性、また壊れたときに簡単に修理できる整備のしやすさも重要な要素になる。
そのためランクルの開発では、コンピューターによるシミュレーションだけではなく、耐久テストのため延べ100万km以上を実際に走っている。どこが壊れるかを探るため、限界強度を試す「壊し切り」というテストも実施しているそうだ。
結果として「40系」は24年、「70系」は37年も生産が続き、世界各地で走り続けている。20~40~55系とか40~60~70系という一連のシリーズ間では、驚くほどの流用パーツが存在する。モデルサイクルが長くなり、販売地域が広がればスペアパーツの数が増え、修理がしやすくなる。それにより、ランクルの信頼性がますます向上していくというわけだ。
日本におけるステーションワゴン系の割合は?
一方の日本では、販売の9割がプラド系で、ステーションワゴン系は1割だという。その1割の中には、筆者の思い出のクルマも入っている。
実は筆者は若い頃、とある通信社(ニュースの配信会社)で報道カメラマンをやっていて、その時代(1980年代)の社有車には、ステーションワゴン系の2代目である「60系」が採用されていたのだ。実用一点張りということでベース車には下位グレードが選択されていて、カーキ色のボディサイドにはブルーで社名が入れてあり、左フロントには社旗を立てるためのサイドポールも装着されていた。
装備としては大型バンパーにウインチが装着されていたり、ラゲッジには電動伸縮式の巨大な八木アンテナ(天井のカバーを開け、上方に高く伸ばして通信を行う)が取り付けられたりしていて(当時はインターネットという言葉すらなかった)、ハードな外装はなかなかカッコよかった。インテリアについては、シートはグレードの関係もあってそれほど高級なものではなかったけれど、70系ほどシンプルではないので長距離の移動でも疲れ知らず。撮影した写真を現場で現像し(フィルムです)、送信機で送り終えてランクルに乗り込んだ時にはホッとしたものだった。日航機墜落事故現場をはじめとする山中での取材や、地震や台風などによる災害現場にどんどんと入っていける頼もしさは、ランクルならではのものだった。
そんなことを思い出しつつ最新のランクルを見ると、エントリーグレードの「GX」(ガソリン)はなんと510万円から手に入る。AVS(電子制御サス)や電動操舵アクチュエーター付パワステ、電子制御ブレーキ、マルチテレインモニターなど、電子系の装備は省かれてしまうけれども、これに自分専用の装備を取り付け、オリジナリティを出して楽しむのもひとつの手だと思う。
もちろん、アーバンSUVとして街乗りオンリーで楽しむなら、「GR SPORT」や「ZX」を選んでおけば自慢のタネになるのは間違いない。後から出てくるレクサス「LX」をどう捉えるかも大事なポイントになるだろう。