いつ終わるともわからないコロナ禍のなか、将来に対する「不安」や漠然とした「不安」を感じている人も多いでしょう。コロナ禍の影響で、「日本人のうつ病が倍増した」「アメリカではうつ病患者が3.6倍になった」といった衝撃のニュースがあるほどです。
そんな時代に生きるわたしたちは、目の前の不安とどのようにつきあっていけばいいのでしょうか。心理カウンセラーの中島輝さんは、「不安を逆手にとって強いエネルギーに変えること」を提案します。
■人間は本質的に「不安になる生き物」である
「不安になる」「心配する」というと、心地がいいものではありませんし、それこそネガティブなものとしてとらえる人がほとんどだと思います。しかし、不安になるという機能がわたしたちに備わっている以上、不安になることも本来的に人間にとって必要なのだと考えるべきです。
その必要性は、不安が持つ「危機察知能力」にあります。不安とは、いわばわたしたちの生命維持機能なのです。
もし一切の不安を感じない人がいたとしたらどうなるでしょう? ただ道路を歩くだけでも、「車なんて来るわけがない」と思っていたら、その人は遅かれ早かれ事故に遭うでしょう。運にもよりますが、おそらくその人が寿命を全うする可能性は限りなく低いはずです。
そうではなく、わたしたちは「車が来たらどうしよう…」というふうに、無意識下であっても考えています。つまり、不安になっているのです。でも、そのおかげでわたしたちは事故に遭う可能性を減らし、こうして大切な生命を守っていると見ることができます。
しかも、不安になる「回数」はなかなかすごいものです。人間は1日に6万回もの思考をしているといわれています。驚くべきはその内訳で、6万回の思考のうちじつに75%にあたる4万5000回の思考が、「もしこうなったらどうしよう…」というネガティブな思考だというのです。つまり、人間は本質的に「不安になる生き物」といっていいのです。
■必要以上に不安になってしまう時代
ただ、そうはいってもやはり不安を感じ過ぎることは問題です。不安を感じ過ぎるあまりに、自信をどんどん失って将来に対する希望も見えなくなってしまえば、それこそ心身における疾患を招きかねません。
不安から希望を失い、それがどうしようもない絶望になった際、サポートをしてくれる人がそばにいてくれればどうにか立ち直れるかもしれません。でも、そうでない場合は社会生活を営めなくなる可能性もあるし、うつになることだって珍しくありません。最終的には自らの命を絶つという最悪のケースも考えられます。
とくに、コロナ禍のいまは十分な注意が必要でしょう。先にお伝えしたように、危険に対して敏感であり、その察知能力に長けているのが人間です。そもそも不安になる生き物であるところにきて、いまは起床してテレビをつければ不安をあおるコロナ関連のニュースが次々に飛び込んできます。
また、ニュースサイトのユーザーコメントを見ても、その内容の大半は、批判や否定をしたり不安をあおったりするようなネガティブなものばかり。こういったサイトが登場したことで、かつての時代には触れることもなかったネガティブな情報に数多く触れることとなり、ますます不安になるという時代になっているとわたしは感じています。
実際、わたしにカウンセリングを依頼してくる人たちのなかにも、うつ傾向にある人は多く、「ネガティブに覆われている」ような人が急激に増えていると感じています。
■不安をエネルギーに変える「未来志向」
そんな時代だからこそ、「不安を逆手にとって強いエネルギーに変える」ことを考えてほしいと思っています。
そうするためには、まず視点を変えてみましょう。うつ傾向にある人など、一般の人より不安を多く感じてしまう人は、それだけ多くの不安を感じられるエネルギーに満ちあふれています。精神が正常であればまず考えられないほど落ち込んでしまうようなうつ傾向の人は、「エネルギーが強い人」ということもできると思うのです。
ですから、そのエネルギーをいい方向へと使っていくことを考えてほしいのです。このことには、不安とは別のネガティブな感情とつきあうときと同じ方法が使えると思います。
そのネガティブな感情とは、たとえば「劣等感」「悔しさ」「怖さ」といったものです。どうしても苦手なことがあって、抱いていた劣等感をなんとか払拭したいと努力をしたとか、打ち込んでいたスポーツの試合で負けて味わった悔しさをバネにして「今度は絶対に見返したい!」とさらに練習に励んだといった経験は、誰しもにあるはずです。
その経験をもとに、いま心のなかにある不安などネガティブな感情にしっかりと向き合って、それを乗り越えた先をイメージするのです。いわゆる、「未来志向」というものです。もちろん心理学の観点からはたくさんのアプローチがあるわけですが、まずそうすることが、不安をエネルギーに変える方法だとわたしは考えます。
■不安を乗り越えた先に目を向けて、理想の未来を描く
そのための具体的な方法としては、「タイムライン」というものを紹介しておきます。タイムラインとは、「あらかじめ長期的な楽しい人生設計をしておく」というメソッドです。
わたしたちは、日々の生活を送るうえで目の前のことに対処する必要があるため、どうしても短期的な視点ばかり持つ傾向にあります。コロナ禍のいまなら、それこそその傾向が強まっているでしょう。職種によっては、「いまの仕事を失うことになるかもしれない…」と強い不安を感じている人もいるはずですから、それも仕方のないことです。
それでも、その不安をエネルギーに変えるために、未来に目を向けてほしいのです。目の前の不安をいま解消するためにどうするかではなく、コロナ禍が落ち着くであろう1年後、2年後、3年後のことを考えましょう。そして、不安を乗り越えてどんな自分になれていたら幸せだろうかと考え、理想像を描きます。その理想に近づくために、必要なことややっておきたいことを細かくリストアップするのです。
どうでしょうか? 少し想像するだけでも、どことなく希望を見出せるのではないでしょうか? 目の前の不安に対症療法的に対処するのではなく、不安を乗り越えた未来に目を向ける—。そうすれば、少々の不安に飲み込まれることがなくなるどころか、その不安をエネルギーに変えて力強く前に進むことができるようになっていくと思います。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/川しまゆうこ