慶應義塾大学(慶大)などの研究グループは5月17日、3400人以上の日本の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者を分析した結果、重症化に関わるアジア人集団に特有の遺伝子多型(バリアント)を発見したこと、ならびにABO式血液型と日本人における新型コロナの関連性を調べた結果、A型・B型の人と比べて、O型の人は新型コロナにおける重症化リスクが約0.8倍と低い一方、AB型の人は重症化リスクが約1.4倍と高くなる傾向が判明したと発表した。

同成果は、慶大、東京医科歯科大学、東京大学医科学研究所付属ヒトゲノム解析センター、北里大学、京都大学などで構成される共同研究グループ「コロナ制圧タスクフォース」によるもの。詳細は、学術雑誌への投稿に先立ち、プレプリント・サーバー「medRxiv」に一部掲載された

研究グループでは今回、収集した検体のうち約2400名分のDNAを用いて、ゲノムワイド関連解析を実施。その結果、日本人の新型コロナウイルス感染症患者において、免疫機能に重要な役割を担う「Dedicator of cytokinesis 2(DOCK2)」という遺伝子領域のヒトゲノム配列の多型(バリアント)が、65歳以下の非高齢者において約2倍の重症化リスクを有することを発見したという。

このバリアントは、日本人を含む東アジア人集団では約10%と高頻度に見られる一方で、欧米人集団ではほとんど見られないバリアントであるとのことで、研究グループでは、今後、さらに症例数を増やした解析による追認検証が必要としつつも、これらの知見は、DOCK2遺伝子領域のバリアントが日本人集団を含むアジア人特有の重症化因子の有力候補である可能性を示唆したものと考えられるとしている。ただし、DOCK2遺伝子領域のバリアントだけでは重症化の集団間の違いを説明することはできず、今後もさらなる解析の継続が重要となるともしている。

  • 新型コロナウイルス

    日本人集団におけるCOVID-19重症化ゲノムワイド関連解析の成果 (出所:共同プレスリリースPDF)

さらに研究グループでは、欧米人集団を中心とした先行研究において、ABO式血液型と新型コロナウイルス感染症の重症化リスクに関わりがあることが報告されていることを受け、ゲノムワイド関連解析を通じて得られたABO遺伝子配列上のバリアント情報に基づき、ABO式血液型の詳細な推定と日本人における新型コロナウイルス感染症との関わりあいの調査も実施。その結果、先行する、欧米人集団で報告されていたように、O型の人は新型コロナウイルス感染症における重症化リスクがA型・B型と比べて約0.8倍と低い一方、AB型の人は重症化リスクが約1.4倍と高くなる傾向が判明したという。

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    ABO式血液型とCOVID-19重症化リスクの関わり (出所:共同プレスリリースPDF)

このほか、研究グループでは、どのような基礎疾患や体質を有する人が重症化しやすいのかの解明に向けた調査も実施。その結果、日本人では、肥満や痛風・高尿酸血症の発症リスクが新型コロナウイルス感染の重症化のリスクになるという因果関係が示唆される結果を得たという。特に肥満は年齢・性別と並んで新型コロナウイルス感染の主要な重症化因子の1つであるとするほか、痛風・高尿酸血症は、疫学研究を通じて日本人の重症化・死亡危険因子であることが判明していることから、今回の結果は、これらの因子が直接的に新型コロナウイルス感染の重症化の原因となっていることを示唆するものと考えられるとしている。

なお、コロナ制圧タスクフォースでは、今回のDOCK2 遺伝子領域のバリアントの発見を最初の成果としているが、今後も研究活動を推進し、新型コロナウイルス感染制圧に向けた社会へのさらなる貢献を目指して、国の公共データベースを含めて、さまざまな機関と協力体制を広げていく予定とするほか、参加してもらっている全国100以上の病院の最前線の医療従事者からもさまざまな研究アイデアを募り、新型コロナウイルス感染パンデミック制圧のための研究を進めていきたいとしている。