いつの時代も、若者とのジェネレーションギャップに驚いたり悩んだりする大人は少なくありません。「Z世代」と呼ばれる人たちが社会に出始めた今、彼らをどのように理解し、接していけばいいのでしょうか。今回は『若者たちのニューノーマル ―Z世代、コロナ禍を生きる』著者で世代・トレンド評論家の牛窪恵さんにインタビューしました。
今さらですが、「Z世代」ってなんですか?
――近年「Z世代」という言葉をよく耳にしますが、どういった人たちのことを指すのかあらためて教えてください。
私は今の20~30代を、「草食系世代」「ゆとり世代」「Z世代」の3つに世代区分しています。
「草食系世代」は現34〜39歳の人たちなんですが、この世代の青春時代から不況が当たり前の時代に突入したので、節約志向の消費特性を持っています。その下の「ゆとり世代」が現27〜33歳で、この人たちは節約よりさらに賢いコスパ志向。商品を比較するときに、現時点で安いからと選ぶのではなく、「こっちの方が故障する回数が少ない」とか「値崩れしないから、飽きたとき高値で売れる」とか、長期的に見て得になるかどうかで判断します。
そして「Z世代」は現17〜26歳の人たちで、さらに超コスパ志向です。損得もそうなんですが、捨てるときの環境への影響や、リノベーションして再利用できるかなども考えます。また、"タムパ"(タイムパフォーマンス)、つまり時間をかけて買いに行かなきゃいけないのか、届くまでにどれくらい時間がかかるかなど時間的コストを考えて消費することも特徴ですね。
――消費面以外の価値観にも違いがあるのでしょうか?
草食系世代はどちらかというと「失敗したくない」という思いが強いと言われてきました。ゆとり世代になるとコスパ重視なので、無駄なことはしたくないけれど、たとえ今は無駄に見えても実はその先にいいことがあるんじゃないかと思えればやれる、というニュアンスです。
Z世代は不況や災害にずっと見舞われてきた人たちなので、失敗はもう前提としてあって、「いつどうなるかわからないんだから、失敗に予め備えよう」というリスクヘッジ思考が非常に強い人たちと言えます。それとともに、社会貢献やサステナビリティを重視する社会観を持っています。起業願望を抱きやすい世代でもあるのですが、昔でいう“ヒルズ族”のようにお金儲けしていい暮らしがしたいというより、自分が実現させたい社会のためにみずから起業したいという、思い入れやミッションを強く持っているのです。
そして、親と仲がいいことも特徴ですね。これはゆとり世代あたりからずっと言われてきたことなのですが、その頃から親が入学式や入社式、会社見学にも来るようになってきて、Z世代になるとさらに、じぃじ・ばぁばとも仲がいい。「家族的」な雰囲気や連帯に安心感を抱くので、働く上でも"チームで働く"といったことは決して嫌いじゃない人たちだと言えます。
スマホ・SNSとともに育ち、ググらない人たち
――Z世代の具体的な行動特性や考え方など、知っておくべき特徴はほかにありますか?
ゆとり世代は「デジタルネイティブ」と言われますが、Z世代はスマホ世代でありSNS世代でもあるというところがポイントで、仲間やコミュニティと常にゆるく繋がるのが当たり前、という価値観で生きている傾向が強い人たちです。
よく言われているのは、必要な情報を得るときにGoogleで検索をしなくなっているということです。彼らには基本的に予めつながっているコミュニティや「お気に入り登録」があるので、Instagramなどでハッシュタグや「お気に入り」を使って検索する。そのほうが無駄な情報を排除できて効率がいいからですが、これは同時に、特定のコミュニティや関心事の情報以外は入ってこないということでもあるんです。
これが「エコーチェンバー」と呼ばれる現象ですが、要するにSNSは自分たちが興味のあることはどんどん入ってくる仕組みになっている一方で、つながっていない隣のおじさんのつぶやきはキャッチしにくい状況になるわけです。だから、興味があることには詳しく、自分たちと関心事が近いコミュニティの人たちのことは大事にするけれども、それ以外の人たちの言動には関心が薄れる、というパターンになってしまいがちです。
――自分のつながっているSNSの世界だけを見ていると、どうしてもその声が大きくなって、それが正しいとか、それがすべてのように思えてしまいそうです。
ただ「世界が狭くなる」って言い方をする人もいるんですが、決してそうではありません。今、SNSやスマホで得られる情報は、昔の何百倍も何千倍もあるわけです。海外の人の発言も、翻訳ソフトがなかった時代は英語が得意でなければ何を言っているか理解できませんでしたが、今は瞬時にかなり正確に翻訳できる時代になりました。また、Z世代は中高生の時代からインターネットショッピングで海外のサイトからも買い物をしていた人たちもいますし、TikTokでは世界のフォロワーと簡単な英語でやりとりをしている人もいる。
今の若い子たちは、大人が考えているよりも遥かに広い世界とつながっているんです。ただ、いろんな場所に行ける大型飛行機のような"手段"を持ってはいるけれど、関心のあるモノやコトでしかつながりにくいので、その飛行機の"目的地"はかなり限定的だということです。
――そもそも、なぜ今「Z世代」が注目されているのでしょうか?
1つはやはり、彼らがデジタルというツールを手足のように使いこなしてるからですね。今、何か物を売るときには、プロモーションの面で企業も「デジタル」「スマートフォン」「SNS」を無視しては考えられません。Z世代の中で下の年齢層、つまり今の17歳くらいは、4歳頃からすでにiPhoneをいじってきた人たちですから、やはり大人と比べるとまったく感覚が違います。子どものときからデジタルに囲まれて育ってきた人たちが、どういう感覚を持っているのかを知りたいというのが、今Z世代が注目されている一番の大きな理由でしょうね。
もう1つは、年齢的にこの世代が社会人になり始めたことです。あと5年後、10年後には彼らが会社の中で中間管理職などになってくるので、社内外の仕事を進める上で、この人たちの社会的価値観などを知っておく必要性が出てきたのです。