ルネサス エレクトロニクスは3月21日、3月19日に発生した同社の生産子会社であるルネサス セミコンダクタ マニュファクチュアリング那珂工場の300mmウェハライン(N3棟1階)の火災の発生経緯などの説明を行った。

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    左から、那珂工場の火災についての説明を行ったルネサス エレクトロニクス執行役員常務兼生産本部長の野崎雅彦氏、同代表取締役社長兼CEOの柴田英利氏、ルネサス セミコンダクタマニュファクチュアリング代表取締役社長の小澤英彦氏

既報の通り、N3棟1階の火災の出火元はめっき装置で、出火原因は過電流の発生と判明しているが、今回の説明会では幾分踏み込んだ説明が行われた。それによると、アノード電極側の配線が、電流が流れている際になんらかの理由で断線し発火したとみられるという。ブレーカーは搭載されており、発火した段階で線が切れているため、電気が流れる状況になっていなかったものの、一部樹脂系材料が用いられている箇所があり、そこに引火して燃え広がったと考えられるという。

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    出火元となったCuめっき装置の外観 (出所:同社発表資料)

火災を発見したのは生産ラインの従業員で、従業員らで構成される消防チームが現場に駆け付けた際に炎を確認したという。

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    Cuめっき処理プロセスのイメージ (出所:同社発表資料)

この火災によって焼損した製造装置は11台だが、それ以外にもウェハ搬送のためのレールなどの付帯設備も損傷したほか、火災で生じた煤がクリーンルーム内に広範に飛散しており、工場の稼働再開のためには、それらのクリーンアップ作業を行う必要がある。同社 代表取締役社長兼CEOの柴田英利氏は、今回の火災に対し、「取引先なども支援をしてくれていることもあり、全力を投じて、1か月以内での生産再開を目指したい」と、全社を挙げて復旧作業を進めていくことを表明した。

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  • 那珂工場の火災現場の様子 (出所:同社発表資料)

ただし、この1か月以内での生産再開は、元の生産規模に向けたターゲットとする一方で、新たに購入しなおす必要のある装置が手配でき、クリーンルームの回復と同時期に搬入、立ち上げができれば、というベストケースでの想定であり、すでに付帯設備関連は手配に対する見通しが立ったとするものの、柴田CEOは「半導体業界は全体的に活況を呈しており、関係各社と協議して、装置の手配などを進めていきたい」と、装置の手配に関しては不透明な部分があることも示唆している。

この11台は、すべての生産品で用いられるわけではないため、火災の影響を受けなかった那珂工場2階の装置、ならびに同1階の焼損を免れ、再稼働が可能な状況であることが確認できた装置を活用すれば、一部品目については生産を再開することができるとする一方で、その内の4台はWLPなどでの再配線層を形成するための装置で、調達が遅れれば、同技術を必要とする製品に関しては、生産の再開が遅れる可能性があるともしている。

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    那珂工場1階のフロアレイアウト (出所:同社発表資料)

また、那珂工場300mmラインで生産していた品目は、マイコンが64%、SoCが34%、アナログ半導体が2%で車載向けが66%、産業・インフラ・IoT向けが34%としているが、同社ではこのうちのおよそ2/3の製品が200mm(8インチ)のほかの工場や外部ファウンドリでの代替生産は技術的には可能としている。ただし、車載向け半導体不足が世界的な問題となるなど、半導体市場全体が活況を呈しており、製造能力の余力が外部ファウンドリにはほぼ残されていないほか、自社の稼働率もフル稼働に近い状況が続いていたとのことで、「これら2/3の代替生産も難しいと思うが、少しでも代替生産を実現するべく、検討あるいは外部ファウンドリに対する依頼を開始した」(柴田CEO)とする。

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    ルネサス那珂工場の全景 (出所:同社発表資料)

なお、同300mmラインの生産品目をプロセス別で見ると、メインは90nmプロセスで、次いで40nmなどの同社としての先端プロセス品で、90nmプロセス品の典型的な製品のリードタイムはおよそ70日だという。一方で、すでにウェハテストなどに回っている仕掛品が1か月分ほどあるとのことで、今回の火災の影響は2021年第2四半期以降に出てくることが予想されるとする。そのため柴田CEOは、「半導体の供給に対して大きな影響を及ぼすこととなる。代替生産をはじめとするありとあらゆる方策を追求して、少しでもその影響を小さくするために尽力していく」と、全社を挙げて、生産再開に向けて取り組んでいくことを強調。あらゆる手段を模索して、1日でも早い工場の再稼働を果たしたいとしている。