労務行政研究所はこのほど、「職場におけるハラスメント」に関する調査結果を発表した。同調査は筑波大学働く人への心理支援開発研究センターの学術指導を受け、2020年12月19日~27日、全国の25~64歳の会社員、会社・団体の経営者・役員、公務員を対象に実施した。

  • 17項目のハラスメント言動

同調査では、「職場のハラスメント言動」として、「普段以上に声を荒らげて、感情的に相手を責めたり怒ったりする」「特定のメンバーの前であからさまにため息をつく、舌打ちをするなど不機嫌さを示す」「自分の思いや経験のみに基づいて、十分な説明をせずに相手を動かそうとする」など17の測定項目を設けた。

その上で、17項目の「職場のハラスメント言動」の測定項目について、周囲(被害認識)と当人(加害認識)の観点からそれぞれ調査し、「過去6カ月間」にそれらの言動・行為を行ったかどうかについて尋ねている。

周囲調査では、519人を対象に実施。周囲がハラスメント言動を認識している項目は平均で31.9%となり、約3人に1人が職場のメンバーによるハラスメントがあったことを認識している結果となった。特に多く見られる言動は「相手が嫌がるような皮肉や冗談を言う」(36.2%)、「陰口を言ったり、悪い噂を広めたりする」(35.5%)だった。

  • 周囲調査におけるハラスメント言動の現状

一方、514人を対象に行った当人調査では、全項目平均で22.2%となり、約4~5人に1人が自分自身によってハラスメント言動を行ったことがあると認識していることがわかった。特に見られる言動は「陰口を言ったり、悪い噂を広めたりする」(25.7%)、「相手が嫌がるような皮肉や冗談を言う」(24.7%)だった。比較的、加害者当人のほうも意識しやすいハラスメントであることがわかった。

  • 当人調査におけるハラスメント言動の現状

全項目平均に関して年代別で見ると、周囲調査では30代前半が41.5%と最も高く、60代前半が21.8%と最も低かった。一方、当人調査では20代後半が27.8%と最も高く、50代前半が15.0%と最も低くなっている。おおむね30代前半より若い層は、周囲のハラスメントへの認識も高く、また自分がハラスメント言動を行ったという認識も高いが、50代前半は周囲への認識は高いものの、当人がハラスメント言動を行ったという認識は小さく、そのギャップが大きかった。

  • 〈周囲調査〉年齢別のハラスメント言動

職位別で見ると、周囲調査では主任・係長および課長相当職が34%台とやや高く、部長相当職30.4%、役員相当職19.9%と続き、役職があがるほど、周囲のハラスメントへの認識は低くなっている。当人調査では、主任・係長相当職が27.1%と最も高く、課長相当職以降の職位では20%台前半で推移。主任・係長相当職は、周囲のハラスメントへの認識が高く、また自分がハラスメント言動を行ったという認識も高いが、部長相当職以降は、自分のハラスメント言動への自覚はあるものの、周囲のハラスメントに対して認識しづらい傾向がある。

企業規模別で見ると、周囲調査では「10~49人」「5,000人以上」が40%台と高いが、「10人未満」は22.9%とかなり低かった。。当人調査では「50~4,999人」の各層が25%前後であるのに対し、「10~49人」が21.2%、「5,000人以上」が19.4%とやや低い。「10人未満」は7.8%とかなり低くなっており、周囲調査と同様に低いことから、「10人未満」の企業規模では、ハラスメント言動自体の発生が少ないことが考えられるという。

職種別で見ると、周囲調査では「製造・生産工程職」が48.4%と最も高く、「管理職」は29.3%と最も低かった。一方、当人調査では「製造・生産工程職」が12.3%と最も低い。「製造・生産工程職」ではハラスメント言動に対する受け止め方に関して周囲(被害認識)と当人(加害認識)でギャップが存在していることがわかった。

  • 職種別のハラスメント言動

職場の人数別で見ると、周囲調査では「5人未満」が26.5%で最も低く、人数が増えるにつれて、ゆるやかに低下していくことがわかった。当人調査では「5人未満」が15.9%で最も低く、人数が増えるにつれて上昇している。「5人未満」の人数では、ハラスメント言動自体の発生が少ないと考えられるが、それ以降は、人数が少なくなるほど、ハラスメント言動に対する受け止め方に関して周囲と当人でギャップが生じている。

上司・部下の人数別で見ると、周囲調査では上司人数に関して「3人」が38.5%で最大、次いで「4人以上」が35.0%となり上司の人数が多いような立場にあるほど、周囲でハラスメント言動があるという認識が高かった。部下人数は、どの人数区分でもおおむね30%前後となっている。

当人調査では、上司人数が増えるほど自身のハラスメント言動への認識も高くなっている。部下人数に関しては、部下「0人」が16.2%と最も低く、部下「10人以上」は31.6%とかなり高かった。

  • 当人調査 部下人数別のハラスメント言動

今回の調査では、当人と周囲のあいだにある認識上のギャップが、ハラスメントという問題をより深刻にしていることが明らかとなった。そのギャップは、企業規模や職種、職場の人数などによって大きくなる場合もある。自身の言動だけでなく、周囲には目に見えていないハラスメントが起きている可能性があるため、そうした認識を高めていくことも健全な職場づくりのためには重要とのこと。