新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、私たちの生活と価値観を大きく変えました。じゃらんリサーチセンター(センター長:沢登次彦氏)によると、昨年11月時点で17%だったテレワークが、今年4月の段階で47%に増加したとのことです。
しかし、多くの人がテレワークでは「周囲の音が気になる」(43.8%)、「テレワークスペースに不満」(42.9%)といったストレスを抱えています。テレワークのストレスを解消するために、テレワークオフィスを新たに求める人も増加中とのことで、未だ最適解を探している最中という印象です。
テレワークが一般化したことで、これまで考えてもみなかった「口の病気」がおこっています。今回は新しい生活様式で注意したい「口の病気」を、専門家の歯学博士が解説します。
これからますます増えるテレワーク
コロナの終息はまだ見えません。厚生労働省によると、2020年11月までの集計で、わが国の全人口の0.1%が、コロナに感染しています。重症化する割合は約1.6%、死亡率は約1.0%です。こうして見ると低い数字に思えますが、油断してこのまま患者が増加すれば医療崩壊が起こり、数字が増えることは間違いありません。ワクチンも開発されましたが、普及には時間がかかるはずなので、まだまだ慎重な対策が必要です。
日本感染症学会と日本環境感染症学会が行ったwebアンケート調査(2020年10月9日〜12日)によると、回答者が行っていた感染対策としては「手洗い」が87.7%、「マスク」が87.7%と、9割に届いていません。そして「手の消毒」は65.9%にすぎません。さらに女性より男性の方が対策意識が低いということもわかりました。なんと、職場での感染に注意している男性は、たったの39.6%だったのです。
このような実態では、コロナから自分の身を守るため仕事スタイルをテレワークにする人は、今後ますます増えるかもしれません。
テレワークで増えた「コロナ虫歯」
以前、「歯科医院はコロナの感染リスクが高い」との怪情報が出回りました。今年3月15日のニューヨークタイムス紙は、最も感染リスクの高い職業に「歯科医師」を挙げたのです。こうした情報がもとで、多くの人が「歯科医院は危ない」というイメージを持ちました。結果、残念なことにわが国では、歯科医院の受診を控える人が増えていきました。そのため虫歯がどんどん悪化してしまい、手遅れになる人が多数出てきたのです。これを「コロナ虫歯」と呼びます。
しかし、「コロナ虫歯」の原因はそれだけではありません。テレワークでの生活の変化が大きく関係しています。外出自粛でダラダラした生活になると、間食をする機会が増えます。食事と食事の感覚が短くなると、歯が虫歯になりやすくなります。またそんな生活の中では、歯ブラシをするタイミングも減少します。そして前述した理由で、歯科医院への定期検診をためらう人も多くいました。これらの要因が重なって「コロナ虫歯」が増加したのです。
テレワークで重度の「顎関節症」の人が増える理由
テレワークでストレスが増えると緊張状態が続きます。こうした緊張は、口にも悪影響を与えます。緊張が続くと口に力が入るようになるのですが、これは重度の顎関節症の原因です。
人はリラックスしているとき、上と下の歯にわずかに隙間が生まれます。しかし、口に力が入ると上下の歯を合わせてしまうのです。また実は、思いっきり食いしばるよりわずかに歯が接している方が、あごには大きな負担となります。
思いっきり食いしばると筋肉の40%を使うため、筋肉が疲れて平均1.4分ほどしかもちません。一方、ほんの少し歯が接している状態の筋肉の負担は7.5%ほどなので、疲れていることに気がつかず157.2分もこの状態を続けてしまうのです。前者と比べ、後者のあごの負担は20倍以上にもなります。この負担が、顎関節症のリスクを2倍にするのです。
また春の外出自粛では、インターネットやSNSを利用する頻度が増えました。中でもテレワークの人は、PC中心の生活になっています。PCを使う際、ついつい前かがみの姿勢になりがちです。前かがみになると影響を受けるのが下顎です。下顎は通常、リラックスした状態では頭にぶら下がっています。しかし、猫背のような前かがみになると、下顎は不自然な位置になってしまい、あごに悪い影響を与えます。
また会話が減る=口を開ける機会が減ると、顎関節症になっても気付くのが遅れます。ひどくなってから、初めてあごの症状に気がつく人も少なくありません。
仕事の合間や休憩中に、ぜひ口を大きく開けてチェックしてみてください。口が開けにくかったり痛みを感じたら、専門家に診てもらいましょう。
ストレスは「歯周病」を進行させる
2001年のギネス世界記録で「全世界で最も患者が多い病気」と認定された歯周病。その原因となる歯周病菌は、あなたの口の中にもいます。
歯周病菌は、人の唾液からうつります。家庭内での生活はもちろん、大勢で大皿を直ばしでつつくことや、はし・お皿の共有でもうつります。特にキスは、直接唾液に触れることになるので最も菌がうつる可能性が高いです。
ちなみに、歯周病菌が口に定着するのが18〜20歳というデータがあります。つまり、この時期にキスをすると、相手の歯周病菌をもらう可能性が大です。もちろん相手にもうつしています。 この菌は、口の中に一旦定着すると一生にわたって住み続けて、いなくなることはありません。そして、アラフォーあたりから歯周病菌は悪性化して、症状が出てきます。
テレワークでストレスがたまると自律神経のバランスが崩れ、免疫力が下がります。そうなると歯周病が進行するのです。ストレスフルな状態になると、ノルアドレナリンという物質が出るのですが、これは歯周病菌の病原毒素を増やす働きをします。
他に歯周病菌を悪化させる原因となるのが「血液」です。血液は、歯周病菌の栄養源です。ですから歯磨きの時に血が出る人は、これから歯周病の進行が加速する可能性があります。
しかも厄介なことに、本当に悪い歯周病菌は歯磨きを一生懸命やっても取れません。住み付きやすいように強力な薄膜を張り、歯の周りに頑固にこびり付いているのです。この菌膜は、抗菌剤・殺菌剤や免疫細胞をはねのけます。そのため、歯科医院でないと剥ぎ取ることができないのです。
歯磨きの時は、血が出ていないかよく観察してください。もし血が出ているなら早めに歯科医院で診てもらうことをお勧めします。
テレワークが「老け顔」のトリガーに
テレワークになると、人と直接会う機会が減ります。つまり、表情を作る頻度が減る=表情筋を使わなくなります。すると顔の皮膚がたるんで老け顔になったり、顔の輪郭が丸くなり、あごの下がたるみ、太っても見せます。笑顔を見せることが多かった方は特に要注意です。
表情筋は顔の皮膚を持ち上げる筋肉と、下げる筋肉に分かれます。上げる筋肉が働くと笑顔や表情を明るくし、若く見せます。下げる筋肉が働くと暗く難しい顔になり、老けて見えます。ポイントは、上げる筋肉は意識しないと使わないということ。下げる筋肉は無意識に使っているのです。また加齢とともに持ち上げる筋肉は衰え、下げる筋肉が活発になります。
たとえば、ベテランの政治家はご高齢の方が多いです。彼らは下げる筋肉が良く働いているため、話す時に上の歯が見えず、下の歯しか見えません。そうなると、難しそうで陰湿なイメージに見せてしまいます。若い新人政治家が誠実で信頼できそうに見えるのは、上げる筋肉がまだ衰えていないからです。
一方、アナウンサーやタレントの方は、いつも口角を上げて爽やかな笑顔です。こうした笑顔を続けていると口角を上げる表情が顔に刻まれるため、真顔に戻った時、年齢よりもほうれい線が濃くなりがちです。深く刻まれたほうれい線はその人を老けて見せるので、もし以前、日常の生活やお仕事で笑顔をよくされていた方は、同様にほうれい線が刻まれているかもしれません。鏡でチェックしてみてください。
新型コロナに感染すると歯にも異変が起こる!?
新型コロナウイルスで「歯が抜ける」という衝撃の実態を報告されています。闘病の末、生還した人の中には歯が抜ける症状も見られます。それも痛みや出血もなく突然抜けるのです。その他、歯茎の痛みや歯の変色も報告されています。データが不足しているために、まだ医学的解明はされていません。しかし専門家は、新型コロナとの関係を考えています。
前述のようにストレスで口の環境が悪くなり、歯周病が進行した可能性もあるでしょう。新型コロナが歯茎の血管に障害をもたらせたことが、抜け落ちた原因とする説もあります。新型コロナでの過剰免疫反応が、口に起こったと推測する説もあります。
何れにせよ、またしても新型コロナが、専門家を驚かす意外な影響を出していることは、間違いなさそうです。