西武鉄道の池袋~西武秩父間では、001系「ラビュー」の特急列車が活躍し、いままでの車両にはない斬新なデザインとあたたかみのある内装で好評を博している。

一方、秩父方面へアクセスできる列車は「ラビュー」だけでなく、元町・中華街~西武秩父間で土休日に運行される「S-TRAIN」もいる。みなとみらい線・東急東横線・東京メトロ副都心線から直通しており、沿線に住む人ならこちらに乗る選択肢もあるだろう。

  • 東急東横線を走行する西武鉄道40000系「S-TRAIN」(編集部撮影)

横浜在住の筆者は、先日開催された「Laview ブルーリボン賞受賞記念 車両基地まつり in 横瀬」を取材する際、元町・中華街駅から「S-TRAIN」に乗車した。そのときの様子を紹介したい。

■元町・中華街駅から西武秩父駅まで合計2,570円

「S-TRAIN」に使用される車両は西武鉄道の通勤型車両40000系。ロングシート・クロスシートに転換可能な編成が活躍している。

元町・中華街駅発着の「S-TRAIN」は土休日のみ運行され、本数は元町・中華街発の下り3本、元町・中華街行の上り2本。うち下り1本・上り1本が西武秩父駅まで運転される。平日は西武池袋線から東京メトロ有楽町線へ直通し、朝の時間帯に所沢発豊洲行の下り2本、夕方以降に豊洲発小手指行の上り5本を運行している。

今回、筆者が乗車した列車は、元町・中華街駅を7時1分に発車する「S-TRAIN1号」。当日のイベント会場(横瀬車両基地)への最寄り駅は横瀬駅だが、「S-TRAIN」は横瀬駅を通過するため、終点の西武秩父駅まで乗り通すことにした。元町・中華街~西武秩父間の運賃は1,510円、同区間の指定券は1,060円。合計で2,570円となる。

  • 元町・中華街駅(元町口)。元町商店街に通じている(筆者撮影)

「S-TRAIN1号」は元町・中華街駅を定刻通りに発車。みなとみらい線を走行し、みなとみらい駅、横浜駅の順に停車する。この2駅は乗車専用駅とされており、みなとみらい線内だけで「S-TRAIN」に乗車することはできない。

横浜駅で2分ほど停車した後、7時9分に発車して東急東横線へ。次の停車駅は自由が丘駅、その次の停車駅は渋谷駅で、東横線の特急停車駅である菊名駅、武蔵小杉駅、中目黒駅は通過するのだが、「S-TRAIN1号」はこれらの駅でドアを開けない運転停車を行った。意外にもアップダウンのある東横線をトップスピードで走り、元住吉駅と祐天寺駅では各駅停車を追い抜く。代官山駅を通過して地下に入り、7時35分に渋谷駅に到着した。

東京メトロ副都心線における「S-TRAIN」の停車駅は新宿三丁目駅と池袋駅のみ。池袋駅は降車専用駅となっていることに注意したい。小竹向原駅から西武線に入るため、運転停車して乗務員の交代を行う。7時55分に小竹向原駅を出た後、2駅先の練馬駅でも機器の切替えのために運転停車を行い、8時頃に発車した。

■デュアルシートや「パートナーゾーン」が特徴の車内

「S-TRAIN」に使用される40000系は通勤型車両だが、全席指定制の「S-TRAIN」として運行する際、車内は優先席を除いてクロスシートに転換されている。座席は青色を基調に、桜の模様を散りばめたデザイン。背面にフックとドリンクホルダー、足もとの壁側にAC100V電源があり、それぞれ自由に使用できるようになっている。

  • クロスシート・ロングシートに転換可能な座席。青色を基調にデザインされている(2017年2月、編集部撮影)

  • 10号車の乗務員室後方に設置された「パートナーゾーン」(2017年2月、編集部撮影)

元町・中華街~西武秩父間の長距離輸送に対応すべく、4号車にトイレが設置されている。10号車の乗務員室後方に設けられた「パートナーゾーン」も40000系の特徴のひとつ。車いす・ベビーカー利用者や大きな荷物を持った乗客が利用しやすいように考慮され、こどもたちが車窓を楽しめるように、窓も大型化されている。「パートナーゾーン」の腰掛は窓側を向いており、めくるめく変化する車窓風景を迫力満点で楽しめる。

クロスシートはちょうど良い柔らかさだったが、ロングシート・クロスシートに切り替えられるデュアルシートの宿命か、背もたれにリクライニング機能は備わっていない。客室窓は通勤型車両として割り当てられているので、座る席によっては車窓風景が見づらい場合もある。

乗降時のドアにも注意が必要だ。40000系は片側4ドアだが、「S-TRAIN」での運行中、停車駅で開閉するドアは各号車1カ所(1・10号車は乗務員室寄りのドア、2~9号車は元町・中華街方のドア)のみ。車内アナウンスでも注意喚起が行われるので、目的の停車駅に着いたのに目の前のドアが開かず、そのまま乗り越してしまうことのないよう気をつけてほしい。

筆者が乗った号車では、元町・中華街駅を発車した時点で他の乗客はほとんどいなかったが、横浜駅から少しずつ増え始め、西武線内から乗車する人も見られた。最終的には全体の半数程度の着席率になっていた。筆者と同じように1人で座っている人も多いが、中には家族で乗車しているところも。スマートフォンを見る人、読書する人、ゲームで遊んでいる子など、思い思いに車内での時間を過ごしている様子だった。

■西武池袋線を西へ - 飯能駅で方向転換、山間部を走る

練馬駅を出た「S-TRAIN1号」は、西武池袋線の複々線区間に入り、外側の急行線を高速で走行する。石神井公園駅から先は複線区間となり、沿線も郊外の住宅地の風景に移り変わっていくが、「S-TRAIN1号」は速度を緩めることなく走り抜ける。秋津駅を通過した後、左に大きくカーブしながら西武新宿線と合流し、8時18分、所沢駅に到着した。

所沢~入間市間を走行中、小手指駅を通過した後、進行方向右手の小手指車両基地に東京メトロ有楽町線・副都心線の新型車両17000系が停まっているところを見かけた。来年2月にデビュー予定とのことで、「S-TRAIN」と営業運転ですれ違う日も遠くはないだろう。

入間市駅からさらに車窓風景が変化し、だんだんと山が見え始める。入間川を渡り、続いてJR八高線と交差。進行方向右手に西武秩父方面の線路が合流したところで、8時38分、飯能駅に到着した。ここから西武秩父駅まで進行方向が逆になり、10号車が先頭になる。そのままだと逆向きに座ることになるため、車内では座席を回転させる人がほとんど。隣の席に誰もいなかったので、筆者も座席を回転させた。

「S-TRAIN1号」は8時41分に飯能駅を発車したが、東飯能駅、高麗駅の2駅を通過しただけで、それまでの景色が嘘のような山間部の景色になる。正丸駅付近まで、ひたすら蛇行を続ける高麗川に合わせ、電車も急カーブやトンネルが連続する中を走る。電車は道路よりも少し高いところを走っているため、眺望性は良い。

正丸トンネルを越え、「S-TRAIN1号」は芦ヶ久保駅、横瀬駅を通過。最後のトンネルを抜けると秩父市の市街地に抜け、進行方向左手に秩父鉄道の線路が見えたところで、9時16分、終点の西武秩父駅に到着した。

  • 西武秩父駅はリニューアルが行われ、上品な「和」の駅舎に(筆者撮影)

西武秩父駅は2017年にリニューアルされ、上品かつ落ち着きのある黒色の外観・内装、提灯や行灯を使用した照明など、「和」を体感できる駅になった。駅に併設して「西武秩父駅前温泉 祭の湯」が営業しており、温泉エリアは入館料が必要だが、1階のフードコートと物販エリアは自由に利用可能。列車の待ち時間を使って食事を取ったり、弁当・軽食やお土産を買ったりするのも楽しい。

「S-TRAIN1号」に乗り、元町・中華街駅から西武秩父駅までかかった時間は約2時間15分。背もたれを倒せないことや、座る席によっては景色を見づらいことなど、デメリットも感じたが、横浜市内から秩父方面へ、着席が保証された上で乗換えなしで移動できる快適さもある。40000系ならではのデュアルシートや「パートナーゾーン」も注目したい点である。土休日に西武線を利用して秩父方面へ出かけるなら、池袋駅発着の「ラビュー」とうまく使い分けてみるのも良いかもしれない。