ソフトバンクグループがNVIDIAに売却することで中立性が保てないとして社員や顧客の動揺が広がる英国の半導体IPベンダArmのメモリIP部門がスピンオフする形で、10月1日付で「Cerfe Labs」という新会社を米国テキサス州オースチンに設立した。

  • Cerfe Labs

    Armの不揮発性メモリIP部門が独立して新会社を設立した

Ce(Correlated Electron)RAMと呼ばれる強相関電子系の材料(電子が単独で動作するのではなく、電子同士が相関を保ちながら挙動する材料)を使った、新しい低コスト不揮発性RAMのメモリIPで市場参入するとしている。

Armは過去5年間にわたり、このCeRAMについて研究を進めてきており、スピンオフのチャンスを探っていたという。ただし、Cerfe Labsは新型メモリ自体を製造販売することはなく、これまでのArmとおなじビジネスモデルで、IPを半導体企業に有償提供するビジネスを行うという。この5年間ですでに150件以上の米国特許を取得しており、このほどArmからスピンオフしてCerfe Labsを創業にたどり着いた。

Cerfe Labsが所有するテクノロジーには、低コストで速度や電力を犠牲にすることなく高度なノードにスケーリングできる、電子軌道相互作用に基づく強相関電子(Ce)スイッチを含んでいるが、これは、商用利用を対象としたこのテクノロジーの最初のアプリケーションだという。低コストで製造が可能なのは、CMOSプロセス終了後、多層配線プロセスの途中に形成できるためで、CMOSは3nmプロセスまで縮小でき、NANDフラッシュメモリ同様に多値化が可能で、極性を持たないためメモリセルを積み重ねる3次元化も可能であるためだという。

また、Cerfe Labsは、米国コロラド州コロラドスプリングスにあるコロラド大学の教授であるCarlos Paz de Araújo教授によって率いられているSymetrix社との緊密なパートナーシップを維持しているという。同氏は以前に新しい強誘電体メモリ技術(Symetrix、Ramtron、日本のSUICAカードを含む現在も使用されている技術)、マイクロエレクトロニクス業界に影響を与える新しい材料の発明に引き続き注力している人物であると同社は説明している。

相関電子(Ce)スイッチとその特徴

相関電子(Ce)スイッチは、強力な電子軌道相互作用を介して動作する。ノーベル物理学賞を1977年に受賞した英国のNevill Mott教授が発表した「金属酸化物、金属錯体などにおける電子同士の強い相互作用による導電体から絶縁体への転移」、いわゆるMotto絶縁体研究で古くから知られている。これを実現する障害は、実用的なCe材料を見つけ、それらを半導体業界と互換性のある電気的に切り替え可能なデバイスに適切に統合することだった。Cerfe Labsは、この障害を打ち破り、このエキサイティングな新しいクラスの電子機器の可能性を実現する新しいCe材料とデバイスを開発したとしている。

  • Cerfe Labs

    強相関電子材料を使ったメモリダイオードとアクセストランジスタ (出所:Cerfe Labs)

Cerfe Labsが公表したCeRAMとして使用される電子軌道スイッチの主な特徴は低コスト、高速スイッチング速度、広範な動作温度範囲、低電圧・低電流動作、CMOSプロセスとの互換性、信頼性などが挙げられている。

低コストに関しては、ウェハにスピンオンすることもできる単一の材料堆積ステップにより、コストに敏感なエッジIoTアプリケーションが不揮発性メモリ(NVM)にアクセスできるように配慮されているという。しかし、CeRAMは、より正確な蒸着または原子層堆積技術を使用して作成することもでき、少なくとも3nm CMOSの寸法にスケーリングし、これらの小さなビットセルでマルチレベルセル(MLC)をサポートし、3Dで柔軟にスタックする機能と組み合わせることができるとしている。その無極性プログラミングと消去により、CeRAMは現在のNVM密度をはるかに超えることができるという。

高速スイッチング速度については、4nSの読み取りと書き込みを確認済みとしているが、ほとんどのCeマテリアルは100fs満で切り替わるという。

動作温度範囲については、電子軌道スイッチは断熱的であり、CeRAMデバイスは低い温度でも動作可能で、かつ他のテクノロジーよりも高い温度でも状態を保持できる。そのため、従来の不揮発性メモリでは使えない新しいマイクロエレクトロニクスアプリケーションを可能にすることが期待できるとする。

低電圧・低電流動作については、「フォーミングフリー」(非フィラメント)CeRAMが、0.6V未満でスイッチングができるとする。妥当なスイッチング電流と高速スイッチングを組み合わせることで、CeRAMは低エネルギーNVMとなる可能性があるという。

CMOSとの互換性については、スイッチング層自体とそれが接続する電極の両方でさまざまな材料を使用して作成できる。また、CeRAMデバイスはCMOSプロセスと互換性があるため、極端に高いプロセス温度を必要としないほか、はんだリフローなどのその後の温度サイクルにも十分耐えることができる。

さらに、最適な速度とエネルギーで動作するには、抵抗メモリ要素の高抵抗状態と低抵抗状態を、使用可能なアクセストランジスタに一致させる必要がある。CeRAMの抵抗は、将来のCMOSノードを含む任意のCMOSプロセスノードとペアリングするように柔軟に調整できるとしている。

加えて、セキュリティリスクとなる可能性のある電流または電圧の妨害から、多くのアプリケーションにとって重要な磁気耐性、およびデータセンターにとって重要な電離放射線に対する耐性まで、さまざまな妨害に対して耐性があるともしているほか、電子軌道スイッチングには摩耗メカニズムがないため高信頼性が期待できるともしている。

同社では、CeRAMはこれらのすべての特性をトレードオフなく同時に提供できるとしており、これは、他のNVMには当てはまらないとしている。

なお、これらの新規材料で製造される新しい技術については、メモリを超えた多種多様なアプリケーションが可能であることから、そうした新たな展開に向けて現在、調査を進めているともしている。