中国共産党の機関紙「人民日報」の姉妹紙「環球時報」(国際英語版「Global Times」)が、9月14日付けで「NVIDIAによる400億ドル規模のArmの買収を中国規制当局は阻止する可能性が高い」との題名の記事を掲載した。

NVIDIAのArm買収で苦境に立たされる可能性が出てくる中国半導体産業

それによると、「米国の半導体メーカーであるNVIDIAが、英国を拠点とする半導体IPベンダであるArmをソフトバンクグループから400億ドル相当の取引で買収すると発表したが、この買収に対し、中国の規制当局から許可を得ることは難しい可能性がある」と中国アナリストらによるコメントを伝えており、そのうちの1人として、北京に本拠を置くInformation Consumption AllianceのディレクタであるXiang Ligang氏は名前を出す形で、「中国政府の規制当局がこの買収を承認する可能性は低い」と答えている。

今回のNVIDIAによるArm買収劇は、Armが米国企業の一部となることを意味するため、米中の対立の中における技術としての「中立性」に深刻な影響を与える可能性があると中国側では見ており、この買収が成立すれば、トランプ政権は、Huaweiに対する規制強化に続いて、成長著しい中国のチップセット業界全体を設計の側から封じ込めることができるようになることが懸念されているためであるという。

例えば、HuaweiのチップであるKunpeng、Kirin、AscendなどはいずれもArmアーキテクチャに基づいて設計されており、米国政府がArmにHuaweiとの取引を禁じた場合、Huaweiはチップの製造どころか、設計さえも少なくとも一時的には止めざるを得ない状況に追い込まれることとなる。その場合、現在、世界中で注目を集めているRISC-Vを採用するなど、代替プラットフォームを採用する必要がでてくるが、そうした製品がすぐに出せるとは限らず、事業の継続性に大きな影響を与える可能性もでてくることとなる。

かつて2016年、QualcommがNXP Semiconductorを買収しようと働きかけを行ったことがあったが、結局、中国規制当局の不許可により2018年に時間切れとなり破談となったことがある。今回のNVIDIAのArm買収についても、中国勢に不利益をもたらす可能性が高いと、中国政府関係者は見ているようで、簡単に承認が下りる可能性は低そうである。

米国政府によるArmの中国市場における取引禁止の可能性

さらに、台湾のハイテクメディアDigitimesは9月15日付けで、「ArmがNVIDIAの一部となることで、米国政府の中国半導体企業に対する制裁の強化が進み、Armは中国のクライアントを失うことになる」との解説記事を掲載している。

また、Armの共同創業者Herman Hauser(ハーマン・ハウザー氏)は、ロイターの取材に対し、「NVIDIAによるArm買収は英国、ならびに欧州にとっての最悪の事態だ」と述べ、英国政府に対し、売却に際し、「英国内の雇用の保証」、「オープンなビジネスモデルの維持」、「顧客との関係について米国の安全保障上の見直しの対象から除外する」という3つの条件を付帯させることを要求したとコメントしている。

いずれにせよ、今回の買収は、米国、英国、EU、中国を含む世界中の反トラスト当局による綿密な調査を必要とし、契約内容を規制当局が厳しくチェックすることになるだろう。Armが米国企業の子会社となれば、米中経済のデカップリングに巻き込まれ、結果としてArmの中立性を損なわれかねないこともあり、反対する声が各所より出されていることも含め、各国の規制当局の判断が注目される。