10月31日宇宙へ、野口聡一宇宙飛行士が会見 - 「立ち直る力を見せたい」

まもなく宇宙へ飛び立つ予定の野口聡一宇宙飛行士が、2020年9月30日に記者会見を開いた。搭乗するクルー・ドラゴン宇宙船に「レジリエンス(立ち直る力)」と名付けた想いや、55歳にして3回目の宇宙飛行に挑む意気込みについて語った。

野口宇宙飛行士は、米国航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士3人とともに、日本時間10月31日15時40分に宇宙へ出発。国際宇宙ステーション(ISS)に約6か月滞在する予定となっている。

記者会見する野口聡一宇宙飛行士 (C) JAXA

10月31日に宇宙へ出発

野口聡一宇宙飛行士は、1965年生まれで現在55歳。1996年5月に宇宙開発事業団(NASDA、現JAXA)が募集した日本人宇宙飛行士候補者に選定され、訓練を経て、1998年4月にNASAからミッション・スペシャリストとして認定された。

2005年7月には、スペース・シャトル「ディスカバリー」によるSTS-114ミッションで宇宙に出発。また2010年6月には、ロシアの「ソユーズTMA-17」宇宙船に搭乗し、2回目の宇宙飛行を行った。

そして今年4月、米民間企業のスペースXが開発した「クルー・ドラゴン」宇宙船の運用1号機(Crew-1)への搭乗が決定。クルー・ドラゴンは宇宙開発の商業化、すなわちこれまでNASAのような官が担ってきた宇宙飛行士の輸送を、民間企業が担うという、新たな時代の幕開けの象徴となるもので、今年5月から8月にかけて有人での試験飛行ミッション「Demo-2」に成功。野口宇宙飛行士らが乗るCrew-1から、いよいよ本格的な実運用段階に入る。

Crew-1には、船長のマイケル・ホプキンス宇宙飛行士、パイロットのヴィクター・グローヴァー宇宙飛行士、そしてミッション・スペシャリストのシャノン・ウォーカー宇宙飛行士の3人のNASA宇宙飛行士とともに、野口宇宙飛行士はミッション・スペシャリストとして搭乗。打ち上げから帰還まで、機体の管理や、タイムラインやテレメトリー、消耗品のモニタリングを担当し、船長やパイロットを補佐する。

4人を乗せたクルー・ドラゴンCrew-1は、日本時間10月31日15時40分に打ち上げられる予定で、ISSに約6か月滞在したのち、同じ宇宙船で地球に帰還する計画となっている。

クルー・ドラゴンCrew-1に搭乗する宇宙飛行士。左から、シャノン・ウォーカー宇宙飛行士、ヴィクター・グローヴァー宇宙飛行士、マイケル・ホプキンス宇宙飛行士、そして野口聡一宇宙飛行士 (C) SpaceX/NASA

多様性こそがレジリエンス(復活力)

これを受けて野口宇宙飛行士は、9月30日に記者会見を実施。間近に迫った宇宙飛行への想いなどについて語った。

野口宇宙飛行士はまず、搭乗するクルー・ドラゴンのカプセル(シリアル番号207)に、「レジリエンス(Resilience)」と名付けたことを発表。クルー・ドラゴンのカプセルは再使用されることになっており、今後もこのシリアル番号207のカプセルは、「レジリエンス」と呼ばれ続けることになる。

レジリエンスと名付けた理由について、「レジリエンスとは、困難な状況から立ち直ること、形が変わってしまったものを元通りにすることといった意味。世界中がコロナ禍で困難な中、協力して社会を元に戻そう、元の生活を取り戻そうという願いを込めた」と説明。

「私たち宇宙飛行士も新型コロナで大きな影響を受け、大変苦しんだが、それでも歩みを止めずに宇宙に行く。厳しい状況を跳ね返して宇宙に挑戦する。私たちのミッションを通じて、そうした想いや意気込みを皆さんに感じてもらえればありがたい」と語った。

また、ホプキンス宇宙飛行士は軍出身、グローヴァー宇宙飛行士は軍出身でアフリカ系米国人、ウォーカー宇宙飛行士は女性で物理学の博士号を持つ科学者出身、野口宇宙飛行士は元民間企業のエンジニアで日本人と、Crew-1の搭乗員は人種も性別も出身地も経歴もばらばらである。

野口宇宙飛行士はこれについて、「この多様性こそが強靭性、復活力、すなわちレジリエンスにつながる。いろんなバックグラウンドを持つ人が、それぞれの特徴を差し出し、チームを組むことで困難な状況に打ち勝っていくことができる」とし、世界中で人種や性別、国籍などの違いをめぐる問題の解決が叫ばれていることを意識した命名でもあると語った。

名前を考えるにあたっては、4人の間でさまざまな案が出たという。ただ、「最終的には4人全員が『2020年のこのタイミングで打ち上がる宇宙船としては、レジリエンス以上にふさわしい名前はない』と一致できた」と、胸を張った。

ちなみに、Demo-2で飛行したカプセルは「エンデバー(Endeavour)」と名付けられたが、名前が発表されたのは打ち上げ後だった。今回、打ち上げ前の発表となったことについて、野口宇宙飛行士は「過去にもアポロ計画などで打ち上げ前に名前が発表されたことはある」としたうえで、「エンデバーのときは発表のタイミングや仕方がやや悪く、名前があまり浸透しなかった。その反省として、アポロの前例もあったので、今回は早めに、また打ち上げ前の節目となるタイミングで発表した」と説明した。