外資系ホテルと東京ホテルシーン
多彩なホテルが林立する東京のホテルシーンでは、激しいホテルサービス合戦が繰り広げられてきたが、リピーターを獲得すべく、特色ある新たなサービスを提供しゲストの満足感を高めることがホテルの命題でもあった。
そもそも、政府は訪日外国人客の拡大を目指し、2020年には4,000万人、30年には6,000万人を目標に掲げ、観光立国の推進してきた。多くの外国人客の増加が見込まれるとされた東京の宿泊需要は高まりホテル不足も続いた中で、稼働率の上昇や料金の高騰といった話題でも注目されてきた東京のホテルであるが、一転コロナ禍で惨憺たる状況となっていることは周知の事実である。
外資系ホテルの進出を振り返る
日本のホテル界では長年に渡り高級ホテルの代名詞といえば「御三家」といわれてきた。「帝国ホテル 東京」(日比谷)、「The Okura Tokyo」(虎ノ門)、「ホテルニューオータニ」(紀尾井町)を指すが、日本のホテル界をリードしてきた存在と言っても過言ではない。
1990年代に入ると外資系が本格進出。「フォーシーズンズホテル椿山荘東京(現ホテル椿山荘東京)」(目白/1992)、「パーク ハイアット 東京」(西新宿/1994)、「ウェスティンホテル東京」(恵比寿/1994)と外資系チェーン名を冠したホテルが次々と開業し「新御三家」と呼ばれた。
外資系チェーンはその後も進出が続く。2002年には「フォーシーズンズホテル丸の内 東京」(丸の内)、2003年には「グランド ハイアット 東京」(六本木)、2005年にはヒルトンの上級ブランドである「コンラッド東京」(汐留)と開業が続いた。
特に「新々御三家」の誕生といわれた「マンダリン オリエンタル 東京」(日本橋/2005)、「ザ・リッツ・カールトン東京」(六本木/2007)、「ザ・ペニンシュラ東京」(銀座/2007)は既存ホテルへの脅威として捉えられ、その後「ホテル2007年問題」とも指摘された。
ホテル群雄割拠時代
その後、外資系チェーンでも特色あるコンセプト型のハイクラスブランドが参入する傾向が続く。虎ノ門ヒルズに開業した「アンダーズ 東京」は、ハイアットホテルアンドリゾーツの日本初進出ブランドとなり、大手町に開業した「アマン東京」は、スモールラグジュアリーなリゾートホテルとして知られるアマン日本初進出ホテルとなった。これらホテルトピックは注目され「ホテル2014年問題」として再びメディアを賑わした。
都内の外資系ホテルは、再開発された複合施設・エリアのランドマークとして開業することが多い。たとえば、虎ノ門ヒルズのアンダーズ 東京、東京ミッドタウンのザ・リッツ・カールトン東京、汐留シオサイトのコンラッド東京といった様に、オフィスビルの上層フロアにホテルを入居させることはもはや「セット」ともいえる。
ホテルは人々をエリアで回遊させる効果もあるが、来訪者の増加はもちろんのこと、ラグジュアリーホテルを入居させることでエリア全体のブランディング・イメージの向上も見込める。外資系ホテルチェーンの進出は、都内各所の再開発と切っても切り離せないものとなってきたが、こうした外資系チェーンの進出は、訪日外国人客増加による当然の現象であると共に、東京の本格的な国際観光都市への発展と表裏一体である。
東京の地図を広げつつホテルシーンのいまを眺めると、注目のエリア毎に特色あるラグジュアリーなホテルが存在しており、さながら“東京ホテル群雄割拠時代”を改めて感じる。
外資系vs内資(日系)の構図がより鮮明に
外資系ホテルチェーンの強みは、そのブランドイメージと共に海外からの送客(外国人客)が取り込みやすいことだ。
会員プログラムも充実している外資系チェーンであるが、年間を通して同一チェーンへの宿泊が一定以上の基準に達すると、シルバー→ゴールド→プラチナというように会員ステイタスが上がることはよく知られている。
それにより客室のアップグレードやクラブラウンジの利用など、受けられるベネフィットが格段にアップする。すなわち、世界各国を飛び回るビジネス客や旅行頻度が高い観光客といった上客が、当然東京でも同一チェーンのホテルを利用することになる。
激増した訪日外国人旅行者を外資系に奪取された形の日系ホテルであったが、手をこまねいていたわけではない。外国人向けに設備やサービスを拡充させてきた日系のホテル例は枚挙に暇が無い。
さらには外資系と手を組む例もあらわれた。たとえば、「ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町」は、外資系ホテルチェーン「スターウッド」(現マリオット・インターナショナル)の最上級カテゴリーである「ラグジュアリーコレクション」に加盟した。いずれにしても、オリンピック日系と外資系の熾烈な顧客獲得争いがうかがえる。
最近開業した/これから開業する東京の注目外資系ホテル
有名な外資系ホテルブランドをみると、既に東京では出揃った感もあり、近年では人気リゾート地など地方への進出が目立っている。また、進出計画もコロナ禍で延期されるような例も珍しくないが、これまでになかったブランドの東京進出はまだまだ続く。注目のホテルを列挙してみたい。
開業(予定)年月 ホテル名(エリア)
●2020年4月 メズム東京、オートグラフ コレクション(竹芝)
東京の“今”に根ざしたサービスやコンテンツを展開。五感を魅了し、ゲストに新たな発見を提供する新しいスタイルのホテル。
●2020年7月 ACホテル・バイ・マリオット(銀座)
マリオットのライフスタイルブランドで、ヨーロッパにルーツを持つデザイン重視のホテルで、ワクワクするようなステイが期待できる。
●2020年9月 東京エディション虎ノ門(虎ノ門)
マリオット・インターナショナルが運営するグループ最高級グレードブランド。土地の文化の特性やコミュニティの慣習をダイニングやエンターテイメントを通して提供。
●2020年10月 キンプトン 新宿東京(新宿)
ライフスタイル ブティックホテル。コンテンポラリーでエッジの効いた雰囲気やシームレスなサービスで、居心地の良いホテルライフを体験したい。
●2020年10月 アロフト東京銀座(銀座)
マリオットのライフスタイルブランド。従来のホテルとは一線を画すとされる、大胆かつ活気溢れるデザインにも注目。
コロナショックはホテル業界に深刻な影響を及ぼしている。多様なホテルが激しい競争を繰り広げてきた東京ホテルシーンでは、稼働率が低下した時こそ強み弱みも含めたホテルの姿が露わになるといえる。
多くの訪日外国人客が押し寄せていた東京と増え続けたホテル。インバウンドに期待できなくなったホテル業界にとっては新たな外資系ホテルの開業は、日本人特有の美学と国際観光都市への発展は落としどころを探る試金石でもある。