128層の開発で先行企業に追い付いたYMTC

多くのNANDサプライヤが新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、ビジネス的に厳しさが増す中にあって、中国の振興NANDサプライヤYMTCが2020年末までに128層の3D NANDの量産開始を目指している。

128層の量産が実現されれば、先行する大手NANDサプライヤと技術的には肩を並べることとなる。そのため、TrendForceが、この動きでNAND業界の勢力図はどう変わるのかについて分析を行った。

YMTCは2020年第1四半期、中国内のストレージコントローラチップサプライヤに対し、128層3D NANDのサンプル提供を開始。年内の量産開始を目指しているという。また、その最初のアプリケーションはUFSベースのストレージとSSDだとしており、同社では、ウェハおよびパッケージに実装したダイをモジュールハウスに出荷することを予定しているという。また、2021年にはクライアントSSD、eMMC/UFSソリューション、およびその他のストレージ製品に向けて提供を行っていく予定だという。

こうした動きを踏まえTrendForceでは、最終製品への搭載時期を考慮すると、YMTCの128層3D NANDの生産は、早ければ2020年第4四半期のNANDウェハの契約価格に影響を与える可能性があると指摘している。

YMTCと先行企業との技術差はどの程度か?

TrendForceは、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により、近い将来スマートフォン(スマホ)やノートPCなどの最終製品の需要が影響を受けることを想定しており、その結果、YMTC以外の大手NANサプライヤは売り上げを落とし、将来の生産能力拡大に向けた投資を抑えることが予想されるとしている。YMTCについては、2020年4月20日時点で、NAND市場のほんのわずかしかシェアを有していないことから、そこまで影響を与えるとは思えないとしている。

YMTCは、戦略的目標について以下の2つを重視しているという。

  1. 64層 TLCプロセスの歩留まりを向上させるとともに、顧客による64層TLC製品の採用を拡大する。
  2. 128層 TLCプロセスを2020年中にできるだけ早く見込み顧客から承認されるようにする。

3D NANDの層数が90層を超す現在、エッチングおよびスタック技術を開発することはこれまでに比べて困難になってきている。TrendForceによるNANDサプライヤのテクノロジーロードマップでは、1XX層(112~196層)の積層形成について、各社間ですでに技術力の差があることが見てとれる。

  • NANDロードマップ

    NANDサプライヤ各社の技術ロードマップ(2018年~2021年) (出所:TrendForce, 2020年4月時点)

SamsungとSK Hynixはすでに128層製品をリリースしているが、キオクシア/Western Digital(WD)、Micron Technology、Intelの各社は2020年後半に112/128/144層製品の生産体制が整う予定だ。1XX層製品の開発には、これまで以上に長い開発期間が必要であるため、他社が手掛けている9X層(92~96層)製品の開発をスキップして128層製品を開発したYMTCは、先行企業との技術差を埋めるという意味では良い選択肢をしたとみている。さらに、2019年のNANDの平均販売価格は前年比46%減と悪化しており、NANDサプライヤ各社の業績を圧迫。この結果、将来の生産計画も設備投資も各社ともに抑え気味となっており、この状況がYMTCに先行企業各社との差を埋める機会を与えることにつながるとTrendForceでは指摘している。

YMTCの2021年のNANDシェアは8%程度?

清華紫光集団傘下のYMTCは武漢に製造拠点を持っているが、TrendForceによると紫光集団が目的を定めず建設していた成都のファブも年内にNANDの生産を開始する予定だとするほか、武漢でも2つのファブを追加建設し生産拡大を図る計画だという。

YMTCは、中国の国家半導体ファンドであるビッグファンドの下で、中国中央政府の育成計画にもとづいて莫大な補助金を得て積極的な拡張計画を実施するものとみられている。そのため、急速に生産能力を拡大させていくことが見込まれ、TrendForceでは2021年でYMTCのNANDシェアは8%程度にまで拡大するものと予測している。また、こうした本格参入により、競争が激化、結果として長期的な価格下落が続くことになるともしている。

ただし、2020年4月中旬時点で、ほとんどの半導体製造装置サプライヤが自社の社員の健康を守る方針を掲げ、中国への出張を禁止しているほか、米国などのように国全体での出張を禁止していたり、装置メーカー大手のASMLなどは武漢への露光装置の出荷が遅れていることを認めるなど、中国での半導体製造の拡大に待ったがかかった状態となっていることから、YMTCの増産計画も予定通りには進まないものと思われる。