ホンダの新型「フィット」は選択肢の豊富なクルマだ。仕様・装備に応じた5つのタイプが用意してあり、パワーユニットはホンダ独自の2モーターハイブリッド(HV)システム「e:HEV」(イーエイチイーブイ)と1.3リッターガソリンエンジンの2種類から選べる。今回はe:HEVとガソリンを乗り比べてみた。
2月14日にデビューしたホンダのコンパクトハッチバック「フィット」。2001年に登場した初代から数えて4代目となる新型は、コンパクトカーとは思えない圧倒的な室内空間や使い勝手の良さなど、歴代フィットが築き上げてきた美点を継承しつつ、現在のユーザーが求めるニーズとは何かということを突き詰めて開発が進められたという。その「何か」だが、ホンダがたどり着いた答えは「心地よさ」だった。新型フィットの受注台数は発売から約1カ月で3万1,000台(月販予定は1万台)に達したというから、ホンダの狙いは当たっていたようだ。
新型フィットには装備・仕様の異なる「ベーシック」「ホーム」「ネス」「リュクス」「クロスター」の5タイプがあり、パワーユニットは「e:HEV」と1.3リッターガソリンの2種類から選べる。今回試乗に連れ出したのは、e:HEVの「ネス」とガソリンエンジンの「ホーム」の2台だ。一般道と高速道を含めた150キロを走ってそれぞれの特徴を確かめてみた。
スムーズで静か、気持ちのいいHVモデル
最初に乗ったのは、2モーターハイブリッドシステムの「i-MMD」改め「e:HEV」を搭載する「ネス」だ。ワンモーションスタイルのエクステリアは、ルナシルバーメタリックのボディにライムグリーンのアクセントカラーをあしらったネス専用カラーをまとっている。ネスという名前は「FITNESS」(フィットネス)からヒントを得たという。そのスタイルは、「毎日の通勤時間を、気持ちの良いスタートに変える。健康的で快活なフィットネスライフをあなたに」というキャッチフレーズのイメージ通りだ。独特のライト形状から“イヌ”を思わせるフロントデザインとともに、見る人をちょっと微笑ませてくれるような仕上がりは、なかなかいい。
インテリアも外装色と同じカラーで構成されていて、統一感があって好ましい。平らでまっすぐなダッシュボードと2スポークステアリングの組み合わせは初代「シビック」を想起させる。台形のバイザーレスメーターはシンプルで各情報が認識しやすい。直径が細い三角窓形状のフロントピラーを採用したことで、視界は近年の新型車の中でトップクラスといえるほど広い。
大きな角度で開くドアを開けて乗り込んだ運転席は、骨盤から腰椎までを樹脂製マットで支えるボディスタビライジングシートを採用していて、足元広々の後席とともに座り心地がまことにいい。ネスはシートの座面だけでなく、ダッシュボードに取り付けられたソフトパッドが専用の撥水シート仕様になっているので、アウトドアでも気兼ねなく使うことができそうだ。
フロントシートの間にカバンなどを気軽に置けるテーブルコンソール、前後シート用USBジャック、視界を邪魔しないドリンクホルダーなどは、使いやすいだけでなく、視線と動線を配慮した位置に配されている。各パーツの凹凸がないのでテカったり影が出る部分が少なく、日中でも目が疲れないよう考え抜かれた設計であることがわかる。
ほめてばっかりで申し訳ない(?)のだが、e:HEVの走りも十分に満足のいくものだった。搭載する1.5リッター4気筒ガソリンエンジンは主に発電用モーターを充電するために稼働。基本は最高出力80kW(109PS)/3,500~8,000rpm、最大トルク253Nm/0~3,000rpmの走行用モーターで前輪を駆動して走るシステムだ。
当然、街中での走りはパワフルかつ静かだ。リチウムイオン電池は容量がそれほど大きくないため、走行中はたびたび充電のためにエンジンが始動するが、ノイジーではないので気にならない。
一方、高速道路の巡航時には、クラッチが切り替わって最高出力72kW(98PS)/5,600~6,400rpm、最大トルク127Nm/4,500~5,000rpmのエンジン駆動力がタイヤに直結して走り、モーターがこれをサポートすることになる。モーターを充電するよりも、エンジンで直接駆動する方が効率がいいためだ。パワーフローの様子は、ステアリングポスト左のボタンでモニターを切り替えれば自分の目で確かめられる。
シフトレバーをBモードに入れると回生が強くなり、アクセルだけで車速がコントロールできるワンペダル走行に近い状態になるので、こちらも試してみるといい。試乗当日の燃費は平均で23.9km/Lを表示していたので、WLTPモードの公称値27.4km/Lに比べれば13%落ちだった。航続可能距離は絶えず700キロ以上を示していたので、かなり足の長いコンパクトカーだといえる。
高速道路では、標準装備の安全運転支援システム「Honda SENSING」のアダプティブ・クルーズコントロール(ACC)を試してみた。ステアリングポスト右の2ボタンでセットすると、80km/hでは車線維持支援システム(LKAS)によって車線の真ん中をビシッとキープし、曲率の高いカーブでもしっかりと曲がろうとする。さらに、試乗日に大渋滞していた首都高速湾岸線の極低速ノロノロ運転でも追従運転を続けてくれる全車速対応式なので、これは使えるシステムだと確信できた。
コストパフォーマンスに優れたガソリンモデル
もう1台は、1.3リッター直列4気筒ガソリンエンジンを搭載する「ホーム」。カタログでは「毎日の仕事・育児など、生活の中でリラックスできるこだわりの空間で、質の高い暮らしを」とうたうヤングファミリー向けのモデルだ。
試乗車はミッドナイトブルービーム・メタリックのボディにシルバーのルーフを組み合わせた2トーンで、今までにない新鮮な色使いを採用している。インテリアは、触り心地のいいプライムスムースの表皮を使用したソフトグレーカラーのシートやソフトパッドによって、明るくリラックスできる空間になっている。視界や前後シートの座り心地は、ハイブリッドモデルと同様に文句なしだ。
最高出力72kW(98PS)/6,000rpm、最大トルク118Nm/5,000rpmの1.3リッター直列4気筒自然吸気エンジンとCVTによる走りは、さすがにハイブリッドモデルに比べるとアンダーパワーだが、通常の環境下で不満を感じることはほとんどない。シンプルなパワートレーンなので、あれやこれや走行中に考えなくてよいところはガソリンエンジンモデルのメリットといえるだろう。
ETCゲートからのスタートダッシュでグイッとアクセルを踏み込めば、ホンダ4気筒エンジンの“サウンド”が聞こえてくるので、これはひとつの楽しみになる。この日の平均燃費15.6km/LはWLTPモード(19.6km/L)の8割程度になってしまったが、試乗日の激しい渋滞の中での走りだと十分な成績かも。ハイブリッドモデルに比べると、ガソリンモデルは35万円近くもお得な設定なっているので、こちらを選択するという積極的な理由になり得る。
複雑な面や線が多かった近年のホンダ各モデルとは異なる、シンプルでなごみ系のデザインを採用した新型フィット。同時期にデビューしたトヨタのヤリスと共に、コンパクトカーの世界を大いに盛り上げてくれるに違いない。