水星探査機が地球スイングバイを実施

欧州宇宙機関(ESA)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の水星探査機「ベピコロンボ」が2020年4月10日、地球の重力を利用して軌道を変える「地球スイングバイ」を実施した。

探査機は金星に向かう軌道に乗り、このあと金星で2回、さらに水星で6回のスイングバイを行い、2025年12月に水星のまわりを回る軌道に投入。水星の誕生や進化の歴史、磁気圏などの謎を解き明かすことを目指す。

  • ベピコロンボ

    ベピコロンボの電気推進モジュール(MTM)のカメラ「MCAM」が、スイングバイ時に捉えた地球の姿 (C) ESA/BepiColombo/MCAM

ベピコロンボとは?

ベピコロンボ(BepiColombo)は、ESAとJAXAが共同開発した探査機で、太陽に最も近く、そして未だ謎多き惑星である水星を探査することを目指している。

ベピコロンボは、ESAが開発を担当した「水星表面探査機(MPO)」と、日本が開発を担当した「水星磁気圏探査機(MMO)」、愛称「みお」の2機の探査機からなる。この2機と、宇宙を巡航するための「電気推進モジュール(MTM)」などが合体した状態で水星まで航行し、水星に近づいたところで分離。MPOと「みお」はそれぞれ水星を回る軌道に入り、探査を行う。

探査機の名前は、イタリアの数学者で、水星の研究や水星探査機の軌道設計などで活躍したジュゼッペ(ベピ)・コロンボ氏にちなんでいる。

  • ベピコロンボ

    ベピコロンボの想像図。右の大きな機体がESAのMPO、左の小さな機体がJAXAのMMO (C) ESA

ベピコロンボの目的のひとつは、水星の表面と内部の謎の解明である。

たとえば、水星の姿かたちは月に似ており、そのためかつては、水星と月は同じような天体だと考えられていた。しかし、米国の探査機「メッセンジャー」が探査したところ、月とは異なる鉱物がたくさん見つかり、じつは似て非なる星であることがわかった。このことから、月とは異なるでき方をしたのではないかと考えられている。

もうひとつの大きな目標は、水星の磁気圏の探査である。太陽系の地球型惑星――水星と金星、地球、火星のなかで、磁場をもっているのは地球、そして弱いながらも水星だけである。

しかし、なぜ水星に磁場があるのか、そのメカニズムはどうなっているのかといったことは、まだはっきりわかっていない。

また、太陽から飛んでくる、太陽風と呼ばれる秒速数百kmもの高速ガスが磁場に衝突すると、「磁気圏」という構造が形作られる。地球にある磁気圏のことは観測が進んでいるものの、水星についてはまったくわかっていない。

水星は地球より太陽に近く、磁場そのものの力も弱いため、その磁気圏は、地球のものと形や構造は似ていても、まったく異なる性質をもっていると考えられている。たとえば水星の磁気圏には、予想をはるかに超える高エネルギーの電子が飛び交っていることが発見されており、地球とは異なるメカニズムの、ダイナミックな磁気圏現象が起きているのではと予想されている。

ベピコロンボが挑むのは、こうした水星がどのように形作られ、そしてどのような進化の歴史をたどってきたのか、という謎の解明である。さらにその成果は、太陽系外にある惑星の姿かたちや、地球のような惑星が他に存在し得るのかといった謎を解き明かすことにもつながる。

  • ベピコロンボ

    2008年にNASAの探査機メッセンジャーが撮影した水星。月のようにも見えるが、じつはまったく似て非なる天体であることがわかりつつある (C) NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Carnegie

ベピコロンボの地球スイングバイ

水星は、到達するまでに多くのエネルギーが必要であり、その難しさから、これまで水星を探査したことがあるのは米国の「マリナー10」とメッセンジャーの2機しかいない。

ベピコロンボもまた、その膨大なエネルギーを得るために、「スイングバイ」という、惑星の重力によって探査機の進む方向を変えたり加速・減速したりできる航法技術を使う。ベピコロンボのスイングバイは合計9回にも及び、これは惑星探査機としては史上最多だという。

2018年10月に打ち上げられたベピコロンボは、太陽を回る軌道に乗り、約1年半後の今年4月10日に地球に接近。そして同日13時25分ごろ(日本時間)に、南大西洋上空の高度約1万2700kmで最接近し、スイングバイを行った。

  • ベピコロンボ

    ベピコロンボの電気推進モジュール(MTM)のカメラ「MCAM」が、スイングバイ時に捉えた地球の姿のGIF動画 (C) ESA/BepiColombo/MTM

ESAのベピコロンボ運用マネジャーを務めるElsa Montagnon氏は「ベピコロンボは打ち上げ以来、つねに日光を浴びていましたが、この地球スイングバイでは地球による影のなかを通ることになります。そのため、あらかじめバッテリーを完全に充電するとともに、搭載機器を温めておく、デリケートな運用を行う必要がありました」と苦労を語る。

「神経をすり減らしながら見守っていましたが、ベピコロンボが地球の影から抜け出し、太陽電池がふたたび太陽光を浴びて発電したのを確認したとき、『これで惑星間への旅に進む準備が整ったのだ』と感じ入りました」。

また、ベピコロンボのプロジェクト・サイエンティストを務めるJAXAの村上豪氏は「日本ではベピコロンボ・ミッションに大きな関心が集まっています。金星や水星での科学観測を楽しみにしています」と語った。

なお、ベピコロンボの運用を担うESAのミッション・コントロール・センターは、新型コロナウイルスの影響で通常より少ない人数での運用を強いられたものの、大きな支障はなかったという。

スイングバイ後の探査機の状態は正常だという。また、今回の地球スイングバイの結果については、今後1~2週間かけて軌道力学の専門家による詳細なデータ解析を行い、判断するとしている。

ベピコロンボは今後、2020年10月15日に金星に接近し、スイングバイを実施。さらにその後、もう1回金星スイングバイを行い、続いて水星で6回のスイングバイを行う。

また、スイングバイの回数の多さもさることながら、探査機をスイングバイさせるためには惑星に近づくタイミングに合わせなければならず、そのため太陽のまわりを何周もしながら、そのタイミングを待ち続ける必要がある。そのため水星を回る軌道への投入は、いまから5年後、打ち上げからじつに7年後の、2025年12月に予定されている。

  • ベピコロンボ

    打ち上げ前の組み立てや試験段階のMMO (2015年、筆者撮影)

参考文献

ESA - BepiColombo takes last snaps of Earth en route to Mercury
BepiColombo探査機、地球スイングバイを実施 ~最初で最後の地球接近、みおをみおくろう~ | 水星磁気圏探査機「みお」
・ESA - BepiColombo
https://www.esa.int/ScienceExploration/SpaceScience/BepiColombo
ベピコロンボ(BepiColombo)国際水星探査計画
ESA - Top Five Mercury mysteries that BepiColombo will solve

鳥嶋真也(とりしましんや)

著者プロフィール

宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。

宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

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