東京理科大学・野田キャンパス(千葉県野田市)に「スペースコロニーデモンストレーションモジュール」が完成、7月30日、オープニングセレモニーが開催された。モジュールは半径2.5mの蒲鉾(かまぼこ)型。月面などの閉鎖環境で必要となる要素技術を実証するプラットフォームとして活用していく予定だ。

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    オープニングセレモニーの様子。後ろに見えるのが「スペースコロニーデモンストレーションモジュール」だ

東京理科大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、清水建設の3者は、「宇宙滞在技術の検討に係る連携協力」を2018年度より開始。将来の宇宙居住に関する共同研究を進めてきた。今回完成したモジュールは、この共同研究の一環として開発されたもので、清水建設が設計・製作・建設を担当した。

野田キャンパスの校舎屋上に設置されたモジュールは、本体と前室の2部屋構造。本体側には気密性を持たせており、前室はエアロックのような形で利用する。まだ何も中身は無い状態だったが、今後、実験機材を運び込み、光触媒を活用した空気浄化技術、植物生産技術などの実証実験を行う。早ければ今秋にも開始する予定だ。

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    手前が前室で後方が本体。完全ではないものの、気密性を持たせた

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    本体の内部。半径2.5m、奥行き6mの円筒型で、結構広い印象だ

このモジュールの大きな特徴は、空気で膨らませるインフレータブル構造を採用していることである。中空構造のため、固い壁を持つ構造物より軽く、小さく畳んで運ぶことが可能。宇宙では米Bigelow Aerospaceが先行しており、すでに国際宇宙ステーションで試験モジュール「BEAM」を開発した実績がある。

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    本体は4本の柱で支える構造。空気をここから入れて、柱を固くする

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    空気を抜くとこのように。ここから3分以内に膨らませることが可能だ

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    太陽工業(MakMax)の災害用テントがベースになっているとのこと

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    校舎の屋上に設置されたため、大学の敷地外からも良く見える

研究の視野に入れているのは、将来の月面有人探査だ。JAXA有人宇宙技術センター長の筒井史哉氏は、「日本は35年前に国際宇宙ステーションに参画して、有人宇宙開発が始まった。今は、きぼうやこうのとりが当たり前のように使われる状態になったが、JAXAとしては次の有人として、月を目指したいと考えている」とコメント。

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    JAXA有人宇宙技術センター長の筒井史哉氏

「しかし月に住むといっても、壁は厚く、とても我々だけではできない。世の中の様々な人の助けが必要で、時間もかかる。宇宙分野以外のフィールドの人達にも参加してもらい、幅広い先端技術を入れないといけない。今回作ったモジュールを、新しい仲間を引き入れる場にできれば」と期待を述べた。

東京理科大学 スペース・コロニー研究センター長の向井千秋氏は、「東京理科大学には、宇宙を専門にする学科は無いが、逆にそれが無いことで、ロケットや衛星に目を向けなくても良かった」と述べる。

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    東京理科大学 スペース・コロニー研究センター長の向井千秋氏

向井氏は、JAXAの宇宙飛行士として、スペースシャトルに2回搭乗した経験がある。当時を振り返り、「国際宇宙ステーションができるまで、日本は宇宙分野で開発途上国だった。その中で、日本にしかできないことはなにかと考えて頑張ってきた」という。

その上で、「ロケットや衛星では、規模も大きな米国・ロシア・中国に対抗するのは大変だが、"衣食住"の分野なら日本も勝てる」と指摘。「東京理科大学には、これまで培ってきた様々な研究がある。衣食住であれば、今まで入りにくかった企業や大学も参加しやすい。アカデミアと産業界から追い風を吹かせたい」と意気込んだ。

地球低軌道の国際宇宙ステーションであれば、まだ食料や水を地球から補給しやすいが、月面となると、重量あたりの輸送コストが格段に上がる。従来以上のリサイクル技術を開発し、食料もなるべく自給自足する必要がある。同センターでは、そのために必要な要素技術の研究開発を行っている。

ただ、目的は宇宙だけではない。向井氏は「月面に住むことを研究すれば、持続可能な社会の実現に繋がる。地球上の社会課題の解決に貢献できる」と述べる。月面を想定したのは、「月面は究極の閉鎖環境。目標が高いほど、得られるアウトプットも大きい」という狙いもあったという。

東京理科大学の松本洋一郎学長は、「閉鎖空間の中で生きていけることを実証できれば、そこで開発した技術が地球に戻ってくる」と説明。「最終的な思いはSDGs(持続可能な開発目標)。この限られた地球という宇宙船の中で、人類がどうやって暮らしたら良いのか。このモジュールがそのきっかけとなれば」と期待を寄せた。

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    東京理科大学の松本洋一郎学長