東京・世田谷のテレビスタジオ・東京メディアシティ(TMC)内にあるカフェ「今昔庵(こんじゃくあん)」が、2月8日で閉店することを発表した。多くの芸能人・業界人に愛されてきた店からの突然の報に、驚きの声が続出。筆者も、取材利用や打ち合わせなどでお世話になっただけあって居ても立っても居られず、名物マスターの福田起弘さんに、定番の“今昔庵オムライス”を食べながら話を聞いた――。

  • 「今昔庵」マスターの福田起弘さん

    「今昔庵」マスターの福田起弘さん

■閉店を知って「あ然」

今昔庵には現在「ご利用の皆様・関係者各位」として、「この度、今昔庵は平成31年2月8日(金)を午前10時に国際放映株式会社(※筆者注:TMCの所有会社)による強制執行の申し立てにより、閉店の運びとなりました」「国際放映株式会社は今昔庵の前オーナーから現オーナーに引継経営を一旦許諾したにもかかわらず、突然立退きを要求してきました」というオーナーの声明文が張り出されている。

福田さんが閉店を聞いたのは、年が明けてまもない今月9日。その時の心境を聞くと「心境もクソもあ然としたよ。(張り紙に書いてある)それ以上のことは何も聞かされていないから。お客さんが来たら対応しなきゃいけないしね」と、突然の通達に驚いたそうだ。

店に張り出されている閉店の告知

TMCがオープンしたのは1992年で、今昔庵も同時に開業。福田さんはオープニングメンバーではなかったが、知り合いが切り盛りしていたため、そのホールのレクチャーに行ったのが、今昔庵に携わることになったきっかけだ。そんな中、開業1年後にオープニングメンバーが辞めることになり、「アルバイト感覚で手伝うことになって入ったのが、そのまま今に至るんです」とのこと。「最初は2~3年と思ってたけど、周りにどんどん定着し始めて、辞められる状態じゃなくなった(笑)」と、30年近く店に立っている。

そんな長い間、業界を見続けているだけあって、思い出を聞くと「全部だね。テレビ局員も制作会社の人も新入社員から見ているし、タレントもデビュー当時から知ってるから。それでみんなが僕に紹介してくれて、どんどんつながっていくんで、主演を張ってる俳優が苦労していた時代も知ってるから、それが全部思い出」と目を細めた。

■陰ながら応援してきたSMAPへの思い

2016年に解散したSMAPは、『SMAP×SMAP』(96~16年)の収録が当初TMCだったことから、特に思い入れがあるそう。「番組が始まる打ち合わせからうちでやってるから、番組の流れの中の一員として入ってる感じ。(草なぎ)剛が“今昔(いまむかし)くん”ってキャラクターをコントでやってくれて、あのときは『スマスマ』に半レギュラー的な感じで出てました(笑)。罰ゲームや簡単な打ち上げでも、うちを使ってくれた」と振り返る。

そして、「SMAPは陰ながらずっと応援してきて、ああなって(解散)からも今もずっとバックアップしてるつもりなんだけど、まさかこっちもこういう形になるとは思わなかったね」という福田さん。「本当に家族のような感じで一心同体というか、ずっとつながってたような感じだから、こういうふうに急に(閉店の決定が)来られると、つらいのはつらいよね」と本音をのぞかせ、「トレンディドラマに出てた俳優さんも、みんな良くしてくれて。何年かぶりに来ても『久しぶり』って普通に入ってきて、昔と同じような関係になって…。そういう人たちには本当に申し訳ないですよ」と悔やんだ。

■店に寄る人たちが次々に声をかける

今昔庵のマスターの扮装をするレイザーラモンRG=インスタグラムより

TMCの正面玄関すぐ横に店を構えるため、タレントが入ってくると店の外まで出てきて福田さんが出迎えるのが決まり。それだけに慕う芸能人は数多く、今回の閉店の報に、レイザーラモンRGは「今昔庵がなくなるだって!? あそこは有形文化財ですよ! なんとかならんのかな…」と反応。RGがここまで強く訴えるのは、福田さんのモノマネをネタにしているからだ。

福田さんは、RGのネタについて「(千原)ジュニアの発案で始めて、それがどんどん彼の中で成長してくれているので、おもしろいですよね」と評価。テレビ番組では、2人で共演も果たした。

他にも、さまざまな芸能人・業界人が、次々に悲しみの声をSNSであげている。福田さんは「ネットでニュースになって、この2~3日はみんなが声をかけてくれるんです。ここまで愛してくれたのは、ありがたい気持ちと、うれしさばっかりですね」と感謝。取材中も、店に寄る人が次々に「閉店するんだって!?」と、福田さんを気づかって話しかけていた。

今年で56歳と、まだまだ現役の福田さんに、気になる今後について聞くと、「全く決まってないです。プライベートも全部捨ててずっと店をやってきたので、自分のことは一切考えられない。今日もこうやってお客さんが来てくれて、接客するのが自分の仕事だから、それ以外のことは全然頭に入ってこないんです」と回答。それでも、「これからもマスターに会いに来たいです」と伝えると、「それに応えてやりたいんだけど、どうしたらいいのか…」と心境を吐露していた。

  • 東京メディアシティ(TMC)=東京・世田谷

  • 名物の今昔庵オムライス

■スタジオ稼働に貢献も

かつてTMCにスタジオを持っていたフジテレビが湾岸スタジオの開業に伴い撤退したり、リーマンショックで隔週収録の番組が月1回収録になったりと、スタジオの稼働が激減した際、福田さんは、店に来る知り合いのスタッフやテレビ局の編成マンに声をかけて「単発でもいいから、こっちで収録してほしい」とお願いしていたそう。「収録が入らないと、うちも一心同体でお客さんが来ないから。でも、そうするとみんな『そうなの!?』って言って、『俺が企画立てたやつをこっちに持ってくるわ』って言ってくれて」と、再びスタジオが活気づくようになったそうだ。

そんな、スタジオ内の一カフェにとどまらない貢献度の今昔庵が、志半ばにして閉店に追い込まれることに。今昔庵のオーナーは、近日中に詳細を発表するとしているが、皆が願う“今昔庵、やっぱり継続”という奇跡は起こるのか…。