レクサス「UX」は同社のSUVである「RX」や「NX」よりも小型のクロスオーバー車として新しく誕生した。このクラスのクルマとしては、「2018-2019 日本カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞したボルボ「XC40」を筆頭に、BMW「X2」やジャガー「Eペイス」(E-PACE)など、実力派の輸入車が数多く先行している。UXはそれらと競合する1台として、レクサスの真価が問われるクルマだ。

コンパクトSUV市場にかなり遅れて参入するレクサス「UX」。試乗会に参加して、その実力を確かめてきた

運転姿勢に視界のよさ、「UX」で味わった快適さ

UXに試乗して感じたのはレクサスらしい、もっといえば日本らしい独自性と価値観だ。このクルマが持つ、SUVというよりも文字通り「クロスオーバー車」らしい魅力は競合車と一線を画する。

象徴的なのは運転姿勢だ。UXの加古慈(かこ・ちか)チーフエンジニアは、「SUVらしさの1つである視界の高さにこだわった」としながらも、同時に「コンパクト2ボックス車のように、低重心で爽快な運転感覚も持たせたかった」と語る。それを体現するかのように、UXの運転席はSUVとセダンの中間的な高さで、座っていてとても落ち着く。

「UX」のサイズは、全長4,495mm、全幅1,840mm、全高1,540mm、ホイールベース2,640mm。直列4気筒2.0Lエンジンを搭載する

ミニバンやSUVの人気により、背の高いクルマが次々に誕生した結果、セダンやクーペでは前方の視界が確保しにくい交通状況が生まれ、視線の高いクルマは運転しやすいとして歓迎されている。ただ、上から見下ろすような運転中の視線は、やや不安定さを覚えさせ、クルマの周囲の様子を実感しにくいという不便さもある。その点、UXの運転席からの視界は、どちらも満足させるちょうどいい高さを実現している。競合する輸入車と比べても、そこは独創的かつ実用的だ。

試乗したグレードは装備の充実した「version L」とスポーティな「F SPORT」の2車種で、なおかつ前輪駆動のFFと後輪をモーターで動かす4輪駆動を試した。いずれの走りも快適で、運転中にストレスを感じさせないところは、レクサスが日本で先日発売したセダン「ES」にも通じる新しい乗車感覚といえる。F SPORTは走行性能を楽しませる車種であるとはいえ、いかにもという片意地の張ったいかつい乗り味ではなく、思い通りに運転できる喜びを伝えてきた。UXというクルマの共通性を車種を問わず実感した。

「UX」にはハイブリッドの「UX250h」とガソリンエンジンの「UX200」という2つのグレードがあり、各グレードが「version L」「F SPORT」「version C」に分かれる。ハイブリッド車には前輪駆動と後輪をモーターで駆動させる「AWD」がある。価格は税込みで390万円~535万円からだ

座席は表皮が細分化されていて、レクサス特有の体に沿った彫りの深い形状だった。運転中の姿勢をよく支えてくれるし、疲れにくくもあった。その快適さは、欧州の競合とも違う特有の乗り心地だ。ますます競争が激化しそうなコンパクトSUVというジャンルの中で、日本発のレクサスが提示する新たな価値観は、世界を動かしそうな予感をさえ覚えさせた。

運転姿勢、ちょうどよい視線の高さ、乗り心地など、レクサス「UX」には競合との差を感じさせる独自性がある

成熟を待ちたいサスペンションの挙動

小さくても上質で快適というのがUXの価値だ。ただ、その本質を突き詰めるには、まだまだ成熟が必要と感じる部分もあった。

まず、サスペンションの仕上がりについては、路面の凹凸に対して突っ張る印象があった。路面の出っ張りに突き上げられることにより、タイヤの上下振動が必要以上に起こるので、振動が収まり難い。より快適な乗り心地を求めたversion Lで顕著だったが、単にバネやダンパーが柔らかいからということではなく、サスペンションの根本的な動かし方に起因すると思われた。F SPORTにおいても、そうした傾向が感じられたからだ。

サスペンションの仕上がりについては成熟の余地を感じた

競合他社のコンパクトSUVに比べ、車高が低めで運転姿勢の目線も低いUXといえども、セダンや2ボックス車に比べれば重心は高い。それを安定させようとすると、サスペンションは突っ張り気味になりやすい。路面変化に対して、いかにタイヤを滑らかに上下させながら、走行安定性を確保するのか。そのあたりが今後、真価の問われるポイントだろう。

UXが採用する「GA-Cプラットフォーム」は、トヨタ自動車が現行「プリウス」から使い始めたクルマづくりの考え方である「TNGA」(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)の流れを汲む。TNGAの「CH-R」は車高の高いSUVでありながら、走行安定性と乗り心地を巧みに両立しているので、UXも今後の改良が進めば、その領域に達する可能性がある。加古CEも試乗会で、「ここからさらに進化・成長していくので、引き続きご愛顧ください」と話していた。

「UX」は今後の進化が楽しみなクルマでもある

レクサスに必要なのは独自のパワーユニット戦略?

もう1つの課題は、動力源についてである。レクサスといえども、トヨタの戦略下にあるため、動力はハイブリッドとガソリンエンジンに絞られる。近年のトヨタはエンジンの存続を図るべく、ガソリンエンジンの最大熱効率40%以上を目指して技術開発に注力しているが、それらのエンジンは一方で、騒音が大きい。そこはエンジン開発担当の技術者も認めるところだ。

そうしたガソリンエンジンを使うUXの場合、時速70~90キロあたりの巡行において、「ブーン」という低周波音が絶え間なく耳に届く。この点は、ガソリンエンジンよりも低回転で力を発揮するディーゼルエンジンに似ている。乗り心地が快適で運転にストレスを感じさせないところが魅力のUXだけに、この騒音は気になる。

乗り心地が快適なだけに、エンジン音は気になった

ハイブリッド車においても、エンジン始動後の騒音が、以前のトヨタのハイブリッド車に比べうるさく感じ、耳についた。そこに、ESも含めた今後のレクサスが追求する「上質さ」を阻害する要因を感じるのである。

レクサスがレクサスらしさを発揮し、レクサスであり続けるためには、より一層の電動化が欠かせないのではないか。UXもESも、プラグインハイブリッド車(PHV)や電気自動車(EV)になれば、もっとレクサスらしい世界を広げられると思う。そもそも、初代「LS」(日本名:セルシオ)は、圧倒的な静粛性と振動の少なさで米国市場を席巻したのであった。ところが、今のレクサス車は振動と騒音を意識させる。

トヨタは「ハイブリッド技術があればEVは作れる」と言っているが、商品とは、消費者に受け入れられてはじめて価値を得るものだ。「できること」と「受け入れられること」は違う。ポルシェがEV「タイカン」の市場投入に向けた準備を進めており、ジャガーがEV「I-PACE」をフラッグシップと位置づけている今日、すでにレクサスは、プレミアムブランドとして一歩、出遅れた感がある。

上質感でプレミアムブランドと競うならば、レクサスはクルマの電動化を急ぐべきだ

販売台数で世界60万台規模のレクサスであればこそ、トヨタとは違うパワーユニット戦略が必要なのではないか。トヨタ車と同じことをしていては、レクサスである意味はない。そういった観点からも、UXの進化には期待したい。

(御堀直嗣)