モバイルヘルス(mHealth)アプリケーション向けのスマートウェアラブル機器は、医療分野で熱い注目を集めている分野です。バイタルサインや生体内における薬物送達を監視し、感知したデータをインターネットを介して遠隔地の医療従事者に伝達する機能があれば、患者にケアの改善やより大きな自由をもたらし、定期検診のために病院へ行く必要が少なくなります。本稿では、オン・セミコンダクターのBluetooth Low Energy(BLE)技術に基づく無線SoC「RSL10」をベースに、通信機能を内蔵した低消費電力mHealthソリューションについて、考えて行ってみたいと思います。

半導体の進化が支える新しい医療のあり方

半導体技術の進歩により、mHealth製品の数と種類は急速に増加しています。実用的なmHealthソリューションは、患者の生活の質とケアを改善し、時間と資源が切迫している医療従事者の効率を高める力を持っています。さまざまな機能を1チップに収めたSoCソリューションは、設計ツールによるサポートとあわせ、ヘルスケア/メディカル分野に従事する設計者が、必要とされる小型製品を迅速かつ簡単に市場に投入するのに役立ちます。

現在、医学界では多くの変化が進行しています。一番の変化は、人がより長生きになってきたということです。高齢化が進むと、慢性疾患が増える可能性があります。心臓病、糖尿病、喘息などの疾患には通常、継続的な監視と治療計画の更新が必要です。

そうした一方で、健康や健康維持に対する関心が高まっているため、医療制度改革による医療費削減が模索されているとはいえ、多くの国や自治体の医療予算が圧力を受けています。そこで、患者の利便性を向上させつつ、医療費を抑制できる可能性の1つとして、在宅医療を含む外来患者モデルに移行することが挙げられます。

しかし、それを実現するためには、医療従事者は、医療管理体制の最適化を図るために、遠隔地に住まう患者からデータを収集する必要があります。

加えて、高齢になっても自分でバイタルサインを測定し、フィットネスのプログラムにしたがって、最高の健康状態を維持している人であっても、初期の段階で、病気の兆候を見つけ出したいと思う人たちもいます。

その結果、そうしたニーズに対応できるプロ向け、消費者向け問わず、携帯型の小型医療機器の需要は高まりを見せています。実際に、大手調査会社MarketsandMarketsの最近のレポートによると、これらの機器市場は、27.5%のCAGRを示し、市場規模は2021年までに93億5000万ドルに達すると予測されています。

こうしたニーズや社会情勢の変化を受けて、医療現場や量販店の店頭に新しいアプリケーションが次々と登場しています。これらには、血圧計、心拍数モニタ、血糖値計、体温計、体重計などのより一般的な消費者医療機器に加え、酸素濃度計や単極誘導心電計といった機能さえも含まれています。その他、プロ用の、より臨床向けの機器として、ポータブルECG/EKGモニタ、マルチパラメータ患者モニタ、および他の形状の移動式患者モニタなどがあります。

設計者の課題

完全に新しい市場とは異なり、モバイルヘルス市場には、かなりの割合で既存システムのモバイル化による"コネクテッド"システムへの移行が含まれます。しかし、多くの場合、医療機器メーカは完全に機能するシステムを捨てて、まったく新しいコネクテッドシステムに置き換えることには慎重です。そのため、ワイヤレス接続が既存設計システムに追加されることがよくあります。

消費者と患者はともに、最新のモバイルヘルス機器に対して高度な利便性と使いやすさを期待しています。一方で、高レベルの機能性、高精度、直感的で使いやすいインタフェースを備えた機器を求めています。このため、サイズ、重量、バッテリ消費が増大する可能性があります。その一方で、バッテリ充電から数日間は使用できるきわめて便利な携帯機器も希望しています。このような状況から、設計者の作業は一層困難なものになります。

モバイルヘルス向けウェアラブル機器の開発に向けて、適切な半導体プラットフォームを選択することは、プロジェクトの最も重要な部分であり、最終設計の成功に不可欠です。

利用可能なデバイスが多いため、選定に際して設計者はアプリケーションの適合性を評価するために幅広い基準を利用します。たとえば、消費電力はバッテリ寿命を延ばす上で非常に重要であり、物理的寸法が小さいことは、競争が激しい現在の市場における成功に必要な超小型ウェアラブル機器の開発を可能にするために必要です。

IoTの本質は機器間の通信に関することです。そのため、選択したソリューションには、接続に対して幅広い選択ができるよう広く利用されている通信プロトコルが含まれていることが不可欠です。Bluetooth Low Energy(BLE)技術は、すべてのスマートフォンで利用でき、本質的に電力効率が高いために、多くの市場の機器に最適な無線プロトコルとして、ほぼあらゆる所に存在するようになりました。既存の通信インフラとの互換性はさておき、通信距離とデータスループットも重要な選定要素です。

新しいアプリケーションが開発され新技術が登場するスピードが速いため、多くの設計者が重要な課題と考えることは、将来にわたって使い続けられるようにすることです。したがって、OSとアプリケーションを遠隔で更新する機能が重要になります。

商品化までの時間短縮を考えると、設計者は機器自体の先にあるメーカーが提供するサポートエコシステムに目を向けることにより、迅速でリスクの低い開発が可能になります。

モバイルヘルス向けSoCソリューションの考え方

モバイルヘルス向けワイヤレスソリューションの1つとして提供されるオン・セミコンダクターのSoC「RSL10」は、ディープスリープ状態および最大受信時に業界最小クラスの消費電力を実現しています。また、高効率プロセッサコアとして、EEMBCのULPMarkの認証も取得しています。

デュアルコアアーキテクチャを中心に構築されており、48MHz動作の32ビットArm Cortex-M3プロセッサと32ビットDSPを、5.5mm2の面積に集積化したSoCで、ローカルセンサからの重要なデータを収集し処理することができます。関連するベースバンドハードウェアはBluetooth 5の認証済みで、従来デバイスの約2倍のデータスループットである最高2Mbpsまでの速度でRFリンクをサポートしています。

さらに76KBのSRAM(プログラム用メモリ)、88KBのSRAM(データ用メモリ)、BLEのスタックおよびアプリケーション用384KBフラッシュメモリを内蔵するなど、柔軟性のあるアークテクチャを実現しているほか、重要となる消費電力に対応する高度な電源管理システムを内蔵しています。1.1~1.3Vの任意の電圧で動作するため、標準のコイン形電池での動作に対応可能です。

一般的なIoTのモバイルヘルスケアアプリに対し、このSoCでは数ミリ秒間の送信を必要とするだけなので、内蔵のスタンバイモードにより平均消費電力を標準30μAまで低減できます。動作が必要ない場合は、複数用意されているディープスリープ・モードのうちの1つに入り、電流消費を25nAレベルにまで低減できます。

  • 「RSL10」のブロック図

    図1:高集積/フル機能モバイルヘルスケアアプリケーション向け無線SoC「RSL10」のブロック図

モバイルヘルスケアの実現には、データの堅牢性、安定性、および安全性が大切であり、内蔵IP保護が重要な機能になります。これにより、チップ起動後はフラッシュメモリの内容をコピーしたり外部からアクセすることができなくなるため、機密性の高い個人データを確実に保護できます。

RSL10はFirmware Over-The-Air(FOTA)のプログラミングもサポートしており、新技術がリリースされたときに利用できるよう、スタックとアプリケーションを適宜アップデートする柔軟性を提供します。

また、オン・セミコンダクターでは、設計プロセスの簡素化のために、ソフトウェア、ハードウェア、およびサポートされている広範囲のBluetoothプロファイルを含む完全な開発環境の提供も行なっています。

まとめ

世界の人口動態の変化および個人医療への関心の高まり、柔軟性のある遠隔医療へのトレンドにより、モバイルヘルスケア市場は革新的な半導体ソリューションや通信機能によって活性化され、急速に成長しています。

多くの新市場と同様に、設計者はソリューションを旧来のプラットフォームに組み入れ、モバイルヘルスケアユーザの高い期待に応えるという課題に直面しています。幸いにも、RSL10をはじめとする次世代低消費電力無線SoCが、これらの課題を解決するために必要なプラットフォームとして活用できるようになっています。

著者プロフィール

スティーブン・ディーン(Steven Dean)
ON Semiconductor

半導体並びに医療機器分野で25年以上の業務経験を有しており、現在はON Semiconductorのシグナル・コンディショニング、ワイヤレス及び医療部門のビジネス・マーケティングを統括。同社入社以前は、Medtronicでビジネス開発担当ディレクター、Texas Instrumentsでマーケティング担当ディレクター、Freescale Semiconductorでセグメント・マーケティング担当ディレクターを務めていた。