日本導入を素早く決断した背景とは
ジャガー・ランドローバー・ジャパンは、ジャガー初の電気自動車(EV)である「I-PACE」を日本市場に導入し、受注を開始した。日本でも徐々に増えている印象のEVだが、この分野に高級SUVを投入する同社の意気込みは。社長のマグナス・ハンソン氏に聞いた。
まず気になったのは、欧州での発表・発売から間もない今のタイミングで、I-PACEの日本市場導入を明らかにした理由だ。ハンソン社長は「技術面で、ジャガーの1台として満足のいく仕上がりに到達したことが大きいです。デザイン、性能はもちろん、1回の充電で470kmという航続距離を実現しており、欧州での評判が高かったので、日本のお客様へもできるだけ早く届けたいと思いました」と説明する。
「輸入車を選ばれるお客様が気に入る車種(筆者注:SUVのこと)での導入であり、性能や取り扱いにおいて高性能であるだけでなく、日常的な用途においても便利なクルマです。選択肢を増やすことができて、日本のお客様に喜んでいただけるに違いないと思いました」(以下、発言はハンソン社長)
確かに、SUVは世界的な人気車種だ。そのSUVで、欧州車メーカーのジャガーがEV導入の先陣を切った背景には、米国の電気自動車メーカーであるテスラが手掛けるSUV「モデルX」の動向が、何らかの影響を与えたのだろうか。
「答えはイエスです。EVで初めてのSUVとして、モデルXは、お客様にとってもメディアにとってもベンチマークとなる存在でしょう。モデルXの販売により、お客様がSUVのEVに関心を高めていることが証明されました」
「I-PACEは、欧州勢として初めてとなるSUVのEVであり、モデルXと比べても、性能や装備などにおいて後れを取るところはありません。ジャガーは、これまでも性能や商品性に妥協せず新車を開発し、市場へ導入してきました。商品だけでなく、販売網やサービス網もしっかり構築しています。伝統と歴史のある自動車メーカーのEVとして、テスラとはまた違った価値を持つI-PACEは、お客様にとって魅力的な選択肢になると思っています」
電気ジャガーに妥協なし
発表会の前日には、都内のホテルで顧客向けI-PACEをお披露目したジャガー・ランドローバー・ジャパン。招待客はパーティを楽しみながら、時間を忘れるほどクルマに見入っていた。では、I-PACEは単にEVというだけでなく、ジャガーの1台として、どのような魅力を備えているのだろうか。
「外観は一目でジャガーと分かり、見ていて非常に美しい造形に仕上がっています。発表会でご覧いただいた赤い車体色も大変、魅力的だと思います。室内は運転者を中心としたコクピット感覚で、運転に関わる操作関係は人間工学に基づいた配置となっているので、運転中に下を向いて操作を確認する必要がありません。同時に室内は優雅であり、豪華で、かつ快適性に富み、全ての乗員の方が満足していただける作りであるところが、ジャガーらしさでもあります」
「走行性能についてはジャガーの技術を全て投入し、躍動感ある走りを実現しています。ジャガーの1台として、I-PACEは全てにおいて一切の妥協がありません」
チャデモ充電に不安なし?
納車は2019年となるが、販売へ向けた準備はどのように進んでいるのだろうか。
「お客様はきっと好きになって下さるだろうという思いを持ち、その期待に応えるべく準備をしています。まず、これまでのジャガーと変わらぬ妥協のない仕上がりにクルマが到達しているので、マーケティング、販売、サービスについては従来同様の姿勢で臨みます」
「ただ、我々が従来よりも努力しなければならない点もあります。販売店への教育という観点では、『エンジン車に比べEVの優位性がどこにあるか』『充電の仕方は』など、新しい内容について、時間を割いて学んでもらっています。お客様に対しては、ジャガー認定の充電器を設置できるよう準備しました。もちろん、日本全国7,000カ所以上の急速充電器を問題なく利用していただくためのサービスも行います」
I-PACEは「CHAdeMO」(チャデモ、EVの急速充電方法)規格に準拠している。このチャデモについては数年前、充電できる施設とできない施設があるとして、フォルクスワーゲンがEVの発売を遅らせるという事態が発生。急速充電器は複数のメーカーが製造しているため、同じチャデモ規格でも、個々の充電器との相性により、クルマによっては充電できないケースがあるのだ。そこで、各自動車メーカーは日本全国の急速充電器で充電できるかどうかを確認している。
「そのことは、承知しています。そこで、全国どこの急速充電器でもI-PACEに充電できるよう、英国の技術者が各方式に対応し、ケーブルやアダプター、接点、天候などの条件によって、どんなことが起きるかを確認しています。日本でも、英国の技術者と組んで確認を進めているので、確信をもってお客様にI-PACEをお届けする準備ができています」
集合住宅で充電設備の導入は進むか
もう1点、日本市場へのI-PACE導入に際して懸念すべき点がある。それは、集合住宅で普通充電(家庭用など)の設備を設置できない状況があることだ。集合住宅の駐車場は、住民全ての共用の場となっているので、充電設備の設置は管理組合の議題となる。そこで合意が得られないと、充電コンセント1つ設置できないというケースが実際に発生しているのだ。
「我々がすぐにできることとしては、まず、公共の充電設備を問題なく使えるようにします。次に、戸建て住宅にお住まいの方には、ジャガー認定の充電器を設置できますし、充電インフラに関するご相談にも対応します」
「そして、問題の集合住宅に関しては、複雑な背景があることを理解しています。ですが、時間が経過するにつれ、お客様のEVへの要望が高まることにより、社会の多くの方に、充電設備設置の必要性を理解していただける日が来るだろうと考えています。また、マンション建設を行う事業者の方も、充電器の設置が求められている状況は認識してくださると思います」
この夏の猛暑や台風の影響を考えれば、気候変動が起きていないと主張することは誰にとっても難しいはずだ。排ガスを出さないEVの普及は、所有者だけでなく、社会の要請としても喫緊の課題となっている。
最後に、I-PACEは受注が始まったばかりだが、その手応えはどうなのだろうか。ハンソン社長は「とてもハッピーであり、誇りにも感じ、日本のお客様にとって最良の選択肢であると確信しています。ジャガー全体の印象としても、企業にとって、また所有される方にとっても、最高の価値を与えてくれるでしょう。欧州同様、日本でも良好な販売が可能だと思っています」と話していた。
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(御堀直嗣)