既報のように、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は8月23日、小惑星探査機「はやぶさ2」に関する記者説明会を開催し、リュウグウへの着陸候補地点が決まったことを明らかにした。ただ、リュウグウ表面は大きな岩塊(ボルダー)に覆われており、確実に安全と言える場所は見つかっていない。サンプル採取はチャレンジングな試みになりそうだ。

  • はやぶさ2の着陸地点が決定

    はやぶさ2の着陸地点、ランダーとローバーの投下地点が決定

着陸候補地点を1日かけて決定

着陸候補地点は、8月17日に実施した着陸地点選定(LSS)会議で決定された。この日の10時に始まった会議には、外国人39名を含むプロジェクト関係者109名が出席。議論が白熱したため、終了予定時刻の16時は大幅に超過したものの、19時に結論を出し、無事に終了したという。

はやぶさ2は小惑星近傍に1年半滞在するものの、この間に、3回のサンプル採取、インパクタによるクレーター生成、3機のローバーと1機のランダーの投下など、やることは多い。今年11月~12月の合運用(軌道の関係で通信できなくなる)の前に、1回目のタッチダウンを行うためには、リュウグウ到着から1カ月半で着陸地点の選定を行う必要があった。

津田雄一プロジェクトマネージャ(JAXA宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 准教授)は、「未知の天体に対し、このような短期間で着陸地点を決める必要があったため、これまで訓練等の準備を重ねてきた。そのおかげで、この1日で結論に到達することができ、自分自身でも驚いている」と述べ、安堵の表情を見せた。

参考:LSS訓練に関する記事「「はやぶさ2」、まもなく最後のイオンエンジン連続運転へ (2) リュウグウ到着後に向けた訓練も実施 」

  • 津田雄一プロジェクトマネージャ

    着陸候補地点について説明する津田雄一プロジェクトマネージャ(JAXA宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 准教授)

はやぶさ2の着陸候補地点として決まったのは、赤道上の「L08」と名付けられた地点。そのほか、西側に隣接する「L07」、南半球側の「M04」の2カ所がバックアップとして選ばれている。また同時に、ランダー「MASCOT」とローバー「MINERVA-II-1」の投下地点も、それぞれ決定された。

  • それぞれの着陸候補地点の位置関係

    それぞれの着陸候補地点の位置関係。はやぶさ2の3地点は隣接している (C)JAXA、東大など

ただ、着陸候補地点はスムーズに決まったものの、大きな問題となったのが、リュウグウ表面の岩塊の多さだ。はやぶさ2の着陸地点としては、まず安全に降下できることが大前提。そのために、直径100mの平坦部分があること、岩塊の高さが50cm以下であること、などの条件が求められている。

  • 着陸候補地点の条件

    着陸候補地点の条件。まずは、赤道付近の幅400mの領域に限られる (C)JAXA

  • 安全確保のため満たすべき4つの条件

    さらに、安全確保のため、これら4つの条件も満たす必要がある (C)JAXA

着陸候補地点を絞り込むプロセス

着陸候補地点の選定プロセスでは、3段階のステップにより、地点を絞り込んでいった。第1段階では、形状モデルから表面の凹凸や傾斜等を考慮し、全球の安全性をスコア化。その結果、低緯度の11カ所(記号L)、中緯度の4カ所(記号M)の計15カ所が候補として選ばれた。各地点とも、範囲は100m四方の領域だ。

  • 第1段階の評価

    第1段階の評価。形状モデルから、安全そうな地点を抽出した (C)JAXA

  • 最初に15カ所を選定

    L01~L11、M01~M04の15カ所を選定。ここから絞り込む (C)JAXA

その15カ所に対し、第2段階では、光学航法カメラ(ONC)の画像データから、評価を行った。注目したのは、岩塊の量や平坦さ。その結果、低緯度の4カ所、中緯度の3カ所が候補として残った。

  • 第2段階の評価

    第2段階の評価。画像データから、人間の目で確認を行った (C)JAXA、東大など

  • alt属性はこちら

    候補として残った7カ所の画像。比較的岩塊が少ないことが分かる (C)JAXA、東大など

そして最終の第3段階では、残った7カ所に対し、実現性を評価。表面温度や経度依存性は7カ所ともOKだったが、懸案事項として最後まで残ったのが岩塊の問題だ。当初の計画では、ここまでの解析で安全な地点を選び、そこから理学的な観点で着陸地点を決定する方針だったが、「絶対的に安全」な場所が無かったため、追加で詳細な分析を行った。

  • 第3段階の評価

    第3段階の評価。岩塊の再評価を追加で実施した (C)JAXA、足利大学など

まず、3m以上の岩塊をプロットしたマップを作成。7カ所とも岩塊は多いものの、その中で比べてみると、L08の密度が小さいことが分かる。その次はL07とM04だ。また、岩塊で覆われた割合を調べたところ、M04が最も低いことが分かったが、中緯度だと着陸精度が悪くなるという問題もあるため、最終的に低緯度のL08が候補として選ばれた。

  • 作成した岩塊マップ

    作成した岩塊マップ。3m以上の岩塊をプロットした (C)JAXA

  • 岩塊で覆われた割合

    岩塊で覆われた割合。この観点では、M04がベストだ (C)JAXA

ただし、現時点ではまだ「候補」であり、着陸が決まったわけでは無い。今後、2回の降下リハーサルを行い、30m上空まで接近する予定だが、その結果、やはり着陸が困難という結論になれば、変更になる可能性もあるという。

しかし唯一、幸いと言えるのは、理学側の要求が緩いということだ。これまでの科学観測の結果、リュウグウ表面は比較的均質で、各地点の科学的評価に大きな差は無い。様々な物質が混ざった状態で存在していると考えられており、とにかくどこでもいいから採取さえ成功してくれれば成果は期待できる、という状況のようだ。

  • 理学側からの判断基準

    理学側からの判断基準。科学的な成果の大きさ等を評価する (C)JAXA

  • 候補7カ所に対する科学的評価

    7カ所に対する科学的評価。ポイントに大きな差は無かった (C)JAXA

着陸できるかどうか、最後は運?

はやぶさ2の着陸精度は100m四方とされる。つまり、候補地点の真ん中を目指して降下したとしても、実際にはエリア内のどこに降りるか分からない。比較的岩塊が少ないL08であっても、上図のように岩塊だらけであり、これだけでも、成功確率が決して高くないことが分かるだろう。

今後、まず注目したいのは、9月11日~12日に実施予定の1回目の降下リハーサルだ。この結果、着陸精度が想定より良いということになれば、L08の右上にある岩塊が少ない領域を狙うという戦略も有り得る。すると、成功確率を上げることができるだろう。

  • 今後の予定

    今後の予定。タッチダウンは10月下旬に行う予定だ (C)JAXA

ただし、この図では岩塊が少ないように見えるが、ここで表示されているのは3m以上の岩塊のみ。実際には1m以上の岩塊が無数に存在していると考えられる。探査機下方にはレーザーレンジファインダ(LRF)があり、直下に岩塊を検出したときは着陸を中止するので安全は確保されているものの、着陸を完遂できるかどうか、最後は運頼みになる。

そこにたまたま大きめの岩塊があれば、着陸は中止になる。確率の問題にならざるを得ない以上、1回1回の着陸を確実に成功させるのは難しいかもしれない。はやぶさ2は、トータルで10回くらい降下にトライできるということなので、それを繰り返す中で、サンプル採取の実現を目指すことになるだろう。

  • 岩塊が多すぎたために、着陸戦略を見直し

    岩塊が多すぎたため、着陸に向けた戦略が変更された (C)JAXA

いずれにしても、着陸地点が最終的に決まるのは、2回の降下リハーサルの後。降下時に撮影した近接画像から、表面のより詳細な状況が分かるはずで、その結果次第では、方針が変わることも有り得る。まずは、今後の運用に引き続き注目したい。

ちなみに、はやぶさ2のターゲットマーカーが5個に増えているのは、ピンポイント着陸が考えられているからだ。これは、インパクタで作った人工クレーターに着陸することを想定したものだが、通常の着陸が難しいようなら、複数のターゲットマーカーを投下して、早々にピンポイント着陸を試すことも選択肢として有り得るとのことだ。