到着後を想定した本格的な訓練
小惑星に到着するまで運用計画は立てようが無いが、タッチダウン可能な期間は限られており、TD1は10月下旬には実施したい。それから逆算すると、着陸地点の選定(LSS:Landing Site Selection)は、8月半ばには終える必要がある。
プロジェクトサイエンティストの渡邊誠一郎氏は、「最初の科学観測は7月半ば頃の予定なので、正味1カ月で検討しなければならない。これは非常にタイトなスケジュール」だと述べる。
LSSでは、科学的価値と安全性を考慮した上で、探査機本体とランダーの着陸場所を決める必要がある。これを迅速かつ適切に行えるようにするため、9月までの半年間で、本格的な訓練を実施した。このLSS訓練には、約100名もの科学者・エンジニアが参画したという。
LSS訓練では、リュウグウを想定した3.7億ポリゴンの3Dモデル「リュウゴイド」を作成した。このモデルは運用チームには非公開で、探査機が観測できるデータのみ提供。運用チームはさまざまな観測データから、リュウゴイドの自転軸方向や自転周期を求め、形状モデルやマップの作成を行った。
探査のためには、自転周期を誤差1秒程度の精度で決定する必要があるという。数学的には、この精度は3~5日くらいの観測で達成できる見込みだったが、実際に訓練で達成できたのは、観測期間(1カ月)の後半になってから。とはいえ、期間内に十分目標の精度を達成できることは分かった。
着陸場所については、まず工学側が安全性を評価。地球や太陽との位置関係や、地表の傾斜角や高低差などを元にスコアを付け、安全性が高い6カ所の候補地を選定した。そして理学側が、観測機器のデータを分析して、各候補地の科学的価値を検討。水や炭素の量などを総合的に判断し、候補地の順位付けを行った。
探査機の着陸場所が決まったら、続いてランダー(MASCOT、ミネルバ2)の着陸場所も決定する。はやぶさ2が着陸の目印にするターゲットマーカーと誤認する恐れがあるため、MASCOTは探査機本体とは別の地点に降ろすが、サンプル分析と観測成果を比較できるよう、科学的性質が似ているところに着陸させる。
このように理学と工学が連携した訓練は、初号機では実施していなかった。今回の訓練の結果について、渡邊氏は「LSSは時間との闘い。期間内に完了できるめどが立ったのは大きな成果」とコメント。「一部うまくいかなかったところもあるが、その後の解析で、どこに問題があったのかは分かった。本番に向けて修正したい」と述べた。
LSS訓練と並び、重要なのがRIO(Real-time Integrated Operation)訓練である。小惑星へのタッチダウンは、一歩間違えば探査機を全損させる恐れがある危険な運用。RIO訓練は、探査機シミュレータを使い、そういったクリティカルな運用の練度を高めることが目的で、LSS訓練に続き、今年度後半に実施する計画だ。
リュウグウ到着まであと半年
今後の予定であるが、年明け早々にも、3回目のイオンエンジン連続運転を開始する。これは、往路における最後の連続運転で、運転時間は2,700時間と、これまでの最長となる計画。少しでも噴射できない日があれば、到着が遅れたり、最悪の場合は到着できなくなる恐れもある。「越えなければならない最後のハードル」(吉川氏)だ。
ただ、今のところ、イオンエンジンは快調。初号機はスラスタの1基が早々に不調になってしまったが、はやぶさ2は4基とも問題はなく、予備を残しているのは安心材料だ。今回の連続運転では、最初は2基、その後3基で運転を行う計画。
運転開始は2018年1月8日の週、運転終了は同6月4日の週になる予定。運転状況にもよるため、リュウグウへの到着日はまだ正確には予測できないものの、現時点では同6月21日~7月5日頃と考えられているそうだ。従来は「6月~7月」という表現だったので、いよいよ到着が近づいてきた実感がある。
リュウグウは一体どんな姿なのか。形が見えるようになるのは「到着の1週間前くらいだろう」(吉川氏)とのことだが、JAXAは直前まで分からないことを逆手に取り、みんなに予想してもらう「想像コンテスト」を開催する。実施の詳細については、公式サイトを参照して欲しい。